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8話「ドラゴン」

あれから3日たち、ついに森の調査の日が来た。

その間に俺とサーシャはもう一度ブルーウルフの討伐にいっておいた。

俺は完璧とまではいかなくても自分のスタイルを確立し、サーシャはレベル18、俺はレベル5にまで上がった。

とりあえずは順調だ。


「結構な人数が集まったな」


「ほんとだね。やっぱりみんな森の異変は気になってたのかな」


集まったのは20人ちょっと。

この街にいる冒険者が30人ちょっとなことを考えれば、多い方なのだろう。


「では、今から森、および森の近隣調査を行います!」


一人の若い男性が前に出てクエストの説明を行う。

城の兵士だろうか。あの鎧はどこかで見たことがある。


「時間は日没まで! そしたらまたここに集合し各自報告を行ってください! 以上!!」


説明はそれだけか。

まあ基本自由にしろって感じだからな。詳細がなくてもしょうがないか。


「よし、俺たちも行くぞ!」


ジルバさんの掛け声で俺たちも街の外へ向かうことにした。




ブルーウルフはよく見かけたがあまり戦闘はなかった。

見かけたときにはもう別の冒険者が戦闘していたのだ。

さすがは熟練の冒険者と言うべきか、危なげもなく着実に倒していた。

しかし森に近づくにつれ、前にサーシャがいっていた通りブルーウルフの数が増えてきた。

すると自然に俺たちも戦う機会が増えるわけだ。


「9匹……よし、今回は俺もやろう」


「わかった」


ジルバさんがブルーウルフの数を確認して自分の出ると言った。

今までにも何度か戦闘はあったが、基本俺とサーシャに任せるだけで自分は見守るというやり方だったが、さすがに今回は2人じゃきついってことか。


「俺が5匹やるから残りはサーシャと坊主でたのむ!」


「「了解!」」


1人で5匹って大丈夫か……?

いや、ジルバさんはBランクの冒険者。俺ですら倒せるようなブルーウルフなら大丈夫だろう。

と思いつつもジルバさんの方をちらりと見る。


「ふぬぅ!!」


……ワオ。

巨大な斧一振りで3匹吹き飛んだ。

うん、心配するだけ無駄だったわ。


「よっし、俺も!」


音魔法による速さでブルーウルフとの距離をつめ、首を切る。

大丈夫だ。ブルーウルフは俺の速さについていけない。反応もできない。

やられる心配もない。


俺はそのまま別のブルーウルフのもとへ一瞬で移動し、同じように首を切る。

色々考えたが、やっぱり首を狙うのが一番効率がいい。

一撃ですむし、ブルーウルフのような体系なら首も狙いやすい位置にある。


さて、これで4匹のうちの半分を倒したんだけどみんなはどうなったかな。


……おお。

サーシャは相変わらずの魔法との連携で何なく倒している。

まあ心配するほどのことじゃなかったか。


それじゃあジルバさんは?


「…………すげ」


思わず口から声が漏れる。

ブルーウルフ5匹が見るも無残な姿に……。

あれだけ大きな斧を振り回しておいてジルバさんは息一つ乱れていない。

俺がやったら……まず持ちあがるのかな。はは……。


「ようし終わったな! それじゃあ進むか!」


「お、お~……」


ジルバさんの掛け声に呆然としたまま返事をする。

力比べじゃ一生勝てない気がする……。




とまあそんな感じで森の奥へとどんどん進んでいったわけだが……。


「おかしい……」


サーシャがポツリとつぶやいた。


「ああ、そうだな。2人とも注意しろ。何が起こるかわからんからな」


サーシャの言葉にジルバさんが同意する。

俺もなぜ二人がそう思うのかはわかる気がする。

森の奥に入ってから何もない。なにもなさすぎる・・・・・・・・んだ。


森に入ってすぐのところではブルーウルフの群れ、稀に熊の魔物リングベアなどと遭遇したがそれが突然影も見せなくなった。

ジルバさん達がいうには森の奥には本来ならもっと魔物がいるらしい。

それなのにこの状態だ。

十中八九魔物が異常発生した可能性はないな。

ということはおそらく……この先に何かいる。

ブルーウルフを含む森に住む魔物すべてを脅かす何かが。


「ぅゎぁぁ……」


「っ!? な、なんだ今の……?」


「どうしたのミオ?」


「い、いま何か聞こえなかったか? 悲鳴のような……」


「悲鳴……?」


「あ、ああ……」


俺たちは息をひそめ、周りの音に集中した。

すると……


「だ、だれかっ……助け……!」


「ほ、ほら!」


「お父さん!」


「行くぞ!!」


ジルバさんの掛け声で3人で一斉に走り出す。


くそっ……何が起きてるんだよ。

今のはおそらく他の冒険者の悲鳴だ。

となるとDランク以上の冒険者っていうことだよな……。

一体この先で何があったんだよ……。


「うわあああああああああ!!!」


「うわっ!」


突然、前方の茂みから男が飛び出してきてぶつかりそうになる。

今の……もしかしてさっきの悲鳴の男か?

男はそのまま俺たちには気づかなかったのか走り去っていってしまった。


「なんだったんだ今の……」


「グルゥァアアアアアアアアアアア!!!!」


その時、突如あたり一帯に響き渡る轟音。

余りの音の大きさに思わず耳をふさぐ。

それが生き物の発した雄たけびだとすぐに気付いた。


なんだ……この、音……!?

ブルーウルフは低く唸る感じに鳴く。リングベアは少し声が大きいが、こんな地の底から震えるような轟音じゃない。

間違いない。この異常現象の原因は……この先にいる。


「……気を引き締めろ、2人とも」


ジルバさんがいつになく本気の顔をして言う。

言われなくてもそのつもりだ……。こんなときに気を抜いていられない。


俺たち3人はゆっくりと男が走ってきた茂みの向こうへ行く。

そこにいたのは……


「な……んだと……!?」


「そんな……ウソでしょ……!?」


「もしかしてこいつ……」


ドラゴン……!?


目の前に現れたのは深紅の鱗を身に纏ったドラゴン。

その大きさはこの森の木をはるかに上回る。おそらく、5m近くはある。

木が茂ってたせいで気がつかなかったのか……!?

その巨大な体を支える四肢は太く、背中には巨大な翼が生えている。


ドラゴンが暴れたのか元からなのかは分からないが、ドラゴンを中心に10mほどの範囲には木はなく、その空間だけ原っぱになっていた。

ドラゴンは俺たちに気づいていない。今ならまだ……。


「くそ……やるしかないか」


「なるべく時間稼ぎしないと……」


「はあ!?」


引き返そうとした俺とは反対に、2人はここに残ってドラゴンを迎え撃とうとしていた。

なに考えてるんだよ……勝てるわけないだろ。


「な、なんで逃げないんだよ!?」


「ドラゴンの右目を見て」


「え……?」


一刻も早く逃げ出したい中俺は、サーシャにいわれた通りドラゴンの目に注目する。


「……あれって!」


ドラゴンの右目には剣が刺さっており、そこから血が流れ出ている。


「たぶんさっきの人の仲間のだよ……。剣の柄に腕が残ってる」


「なっ……!」


そう言われて改めてみると、確かに右手らしきものが肘から先だけ剣を握ったままだった。

さっきの男は無傷だった。ということはあの右手の持ち主は……。


「くわれた……のか?」


「たぶんね……」


でも、だからって何でここに残る必要があるんだ?

誰がやられたとしてもここに残る義理や責任はないはずなのに……。


「あのドラゴン……おそらくここで傷を癒してたんだと思う。そこにあの人たちが遭遇して、なんとか右目に攻撃できたけど無理だと悟って退散した」


「だから、それとサーシャ達が残ることに何の関係があるんだよ!?」


「考えてもみてよ……休んでるところにいきなり攻撃されたら、ミオならどう思う?」


「どうって……わけがわからなくて困惑するか怒るか……」


くそっ、サーシャは一体何が言いたいんだよ!?


「そう。あのドラゴンは今気が立っている。もしこのまま放っておけば……街が襲われるかもしれない」


「あ……」


「なんとかここで食い止めておかないと……」


「……で、でもっ! それで死んだら意味ないだろ!?」


「いい加減にしろ坊主!!」


今までずっと黙っていたジルバさんが怒鳴った。

いままでずっと常に笑っているジルバさんしか見ていなかったから、俺は少しおびえてしまった。


「逃げたければ逃げればいい。俺もサーシャも、誰もお前を責めたりしないだろうさ。だが俺たちはここに残る」


「っ……でも……!」


……いや、駄目だ。

何を言っても、この二人は意志を変えないだろう。

それなのに俺には逃げてかまわないと言ってくる。


「…………だああああくそ!!」


「ミ、ミオ?」


俺だけ逃がして、自分たちは残るだって……?

ふざけるなよ……そんなことさせるかよ。


「俺だって残ってやる!」


「な……なに言ってんの!? ミオはレベルだって低いじゃない!」


「サーシャ達だってあのドラゴンに対抗できるほど高くはないだろ! それに……!」


それに……俺は……


「ここで逃げて2人が死んだら、絶対後悔する」


それだけは嫌だ。自分だけ助かって、2人が死ぬなんて。

2人がつらい目にあってるのに、自分だけ楽な思いするなんて。


ああ、そうか……。

母親を亡くした時のサーシャも、こんな気持ちだったのか。


「ミオ……」


サーシャは母親の件もあってか、なにも言わなくなった。


「止めないでくださいよジルバさん。『逃げたければ逃げればいい』ってことは、『残りたければ残ってもいい』ってことですよね」


「ふっ、勝手にしろ」


言い方はガサツだったが、その顔は笑っていた。

ま、この人が止めるわけもないか。


別に勝機も策もない。

俺たちとドラゴンなんて、子供とプロレスラーが戦うようなものだ。

死ぬかもしれない……というか死ぬだろうな。


体中が震えてるのが分かる……怖い。

でも、逃げ出して2人を失うよりよっぽどましだ!

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