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盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~  作者: 上山マヤ
第5章 王都編

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第99話 深層への招待

 ジャック・ブルトンの屋敷。

 俺たちは、無限ダンジョンの調査へ向かうための準備をしていた。


「ジャックさん、ラクンのこと、お願いしますね」

「任せておけ。何があっても、ラクン先生だけは私が守ると約束しよう!」


 ジャックが胸を叩いて力強く請け負う。


 ラクンへの謎の崇拝。

 ここまで来ると信頼するしかない。


 最近のラクンは、ジャックの書斎で古い本を読み漁っている。

 今回も「ついていきたい」と言いそうだったけど、本への興味の方が勝ったみたいだ。

 芽吹いた水晶花が咲かない理由を探しているのかもしれない。


 控えめな迎えのノックが鳴った。


「それじゃ、行こうか、ユラ」

「ええ」


 俺たちはジャックに見送られ、屋敷を後にした。


 ◇ ◇ ◇


 アステリア王都、冒険者ギルドの地下。

 無限ダンジョンの入り口である大空洞。


「……すごい。あの光は何?」


 初めてこの場所を訪れたユラが、中央で天を突くように明滅する光の束を見上げて目を丸くする。


「あの光の柱に触れたら、ダンジョンに飛べるんだ」

「飛ぶの?」

「瞬間移動する感じかな。それでちょっと気持ち悪くなる人も居るみたいだけど」

「え、私大丈夫かな……?」


 ユラが不安そうに耳を伏せる。


(ユラは身体能力が高いから、三半規管も強そうな感じがするけどな)


「俺が平気だったから、きっとユラも大丈夫だよ」


 光の柱へと近づいていく。

 待ち合わせをしていた一団がこちらに気づいた。


「やあ、来たね」


 糸目を細めて穏やかに微笑む弓使い、エリック。


「みんな、紹介しよう。今回の特別ゲスト、マヌルネコのユラ。そして、その相棒のタケルだ」


(俺が相棒か。たしかに、今日の主役は〈残香読ざんこうよみ〉を持つユラの方だ)


 俺とユラは、集まった冒険者たちに軽く頭を下げて挨拶をする。


(これ、全部ネームレスのメンバーなのか?)


 ざっと30人くらいはいる。

 全員が洗練された装備を身につけ、ただ者ではない空気を纏っていた。


 俺がキョロキョロと見回していると、女魔法使いのクリスが声をかけてきた。


「全員が深層に行くわけじゃないよ。他の階層で何かあった時用の待機班や、連絡係も居るからね」

「そうですよね。いくらなんでも多いなと思ってました」

「それと、紹介するね。チャド! おいで!」


 クリスが手招きをする。

 集団の中から小走りでやってくる小さな影があった。


「こんにちは! 後方待機班のリーダーを務めます、チャドと言います!」


 チャドと呼ばれたその人物は、元気よく手を挙げて挨拶をした。


(……ユラよりも、さらに小さい)


 目の前にいたのは、とても若いドワーフの青年だった。

 ドワーフ特有の樽のような体つき。

 くりくりとした目が人懐っこい。

 その腕には、自分の体と同じくらいの丸い盾を装備していた。


「チャドが君たちのパーティーリーダーよ。こう見えて、護衛のスペシャリストだから安心して」


 クリスがチャドの肩を叩いて太鼓判を押す。


 ──パーティに加入しました。


「よろしく……お願いします」

「タケルさん、ユラさん、よろしくね!」


 チャドが屈託なく笑う。


「う、うん。よろしく」


 ユラが少しだけ不安そうに答える。


(ユラも戸惑ってる感じがするな)


 自分よりも若くて小さい相手に守られるというのは、少し不思議な感覚だ。

 でも、人は見かけに寄らないっていうからな。

 この世界なら尚更だ。


「今日僕たちが行くのは深層です。マナが淀んでいる所をあらかじめピックアップしているので、そこでユラさんのスキルを使ってもらいます!」


 チャドが元気な声で本日の工程を説明してくれる。


「マナの淀みって分かるの?」


 俺が尋ねると、チャドは素直に首を振った。


「僕には分かりません! でも、前に同行したエルフの占い師の人が教えてくれたんです」

「なるほど」


(エリックが前に言っていた、前任者のことかな?)


「よし、各班、準備はいいかな?」


 エリックの声が響くと、空洞内の空気が一瞬で引き締まった。


「探索班、行けます」

「後方待機班、行けます!」


 チャドが力強く返事をする。

 それぞれのパーティーリーダーたちが、次々と光の柱へ手を触れていった。


 ◇ ◇ ◇


(……暗いな)


 光の柱を抜けた先は、深い闇だった。

 すぐに誰かのスキルが発動し、柔らかな光が周囲を明るく照らし出す。


 見渡すと、そこは巨大な建造物の内部だった。

 大理石のように滑らかな床。

 高くそびえる柱。

 まるで貴族の豪邸か、お城の中に迷い込んだように見える。


(ここが……ダンジョンの深層?)


「あ、ユラ! 平気か?」

「……うん。でも、ちょっと待って、深呼吸させて……」


 ユラは口元を押さえ、少し顔色を悪くしてしゃがみ込んでいた。

 転移の揺れを強く感じてしまったのかもしれない。


「今回の深層は『宮殿型』です」


 チャドが周囲の壁を指差しながら教えてくれる。


「宮殿?」

「はい。外側から見ることはできないので、本当に宮殿の形をしているかどうかは分かりません。でも、何故かそう呼ばれています」


(たしかに、あそこには豪華な大階段がある……言われてみれば、宮殿の内部のように見えなくもない)


「宮殿型の特徴は、上に登っていくことです。普通、ダンジョンって地下へと降りていくんですけどね。深層なのに登るって、なんだか面白いですよね!」


 チャドが盾を叩いて、楽しそうに笑う。


(なんか、遠足に来たみたいで楽しそうだな)


「色んな形のダンジョンがあるんだね」

「そうなんです! では、僕たちも行きましょう!」


 探索班と戦闘班が先行する。

 俺たち後方待機班は一定の距離を保ってその後を追う。


 完全に役割を分けている連携の取れた動き。

 そういえば、ボーンイーターの時もアンジェラが似たようなパーティ編成を組んでいたな。


(この城の奥に、一体何が隠されているんだろう?)


 俺は杖の感触を確かめながら、不気味なほど静かな大階段へと足を踏み出した。

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