第63話 レベルの壁
パーフェクトサークル情報部のリードルを始めとする、応援部隊の第一陣が広場に集結していた。
その中心。
アンジェラが隣のリザードマンの背中を豪快に叩く。
「こいつに、この拠点の指揮を取らせる! 分からないことがあったら、このアヤドに聞け!」
「ぐっ……叩くな」
リザードマンのアヤドが痛そうに顔をしかめる。
「補給、輸送、設営に衛生管理まで、全部こいつの得意技だ!」
「得意なわけじゃない! なんでもやらされるから、自然と覚えただけだ」
アヤドがやれやれと首を振る。
どうやら苦労人のようだ。
「そんだけ要領がいんだよ、お前は。頼んだぜ」
「分かっている。お前こそ、暴れすぎて怪我するなよ」
軽口を叩き合う2人。
厚い信頼があるのが見て取れた。
「そんじゃ情報収集班、出発するか。シャンデさんよ。オークの戦士を2人ほど、貸してくれねえか?」
「……いいだろう。人間たちを守らせよう」
シャンデが顎で指示を出す。
アグラマとベルカジが前に出た。
「話が早くて助かる。ああ、そうだ。タケル、お前も来い」
「あ、はい。分かりました」
(そうか。戦闘になるんだ)
情報収集といってもボーンイーターに接触するんだ。
危険は避けられない。
「お嬢ちゃんたちはお留守番だ」
アンジェラが、俺の後ろにいたユラとラクンに視線を投げる。
ユラが一瞬、悔しそうに唇を噛んだが、すぐに顔を上げて頷いた。
「わかってる。私の出番は、捕まえてきてからだもんね」
「ああ。獲物がなきゃ始まらねえ。安心して待ってな」
「気をつけてね、タケル」
ユラがラクンの肩を抱き寄せる。
ラクンは不安そうに俺を見上げる。
「ケル……無事に、戻れ」
小さな声で言った。
「うん。行ってくる」
2人に見送られて、俺たちは出発の準備を整える。
「人間たちを守れと言われてきた」
「おう。頼りにするぜ!」
「任せておけ」
アグラマたちが胸を叩く。
頼もしいけど、少し不安もある。
──アンジェラからパーティ申請が届きました。
(もう! これ、いつも急に来るからビックリするんだって)
俺は承諾ボタンを押す。
──パーティに加入しました。
「この人数だと、全員は入れないからな。戦闘班と情報班でパーティを分ける」
戦闘班はアンジェラがパーティリーダーを務める。
オーク族からは、先兵のアグラマとベルカジ。
そして、俺の4人でパーティを組むことになった。
情報班もリードルをリーダーに、パーティを組んでいるようだ。
「おい、タケル。お前クソ雑魚じゃねえか」
パーティ情報を見たアンジェラが、呆れたように言い放つ。
(なんか言われると思ってたけど、そんなストレートに言うか?)
アンジェラのレベルは20。
アグラマとベルカジは12レベと10レベだった。
そして俺は、7レべになったばかり。
「俺はレベル7の奴に負けたのか……」
アグラマはガックリと肩を落とす。
(あんた、俺と戦う前からボロボロだったからね)
「まあ、レベルだけで強さの全ては測れねえが、お前くらいの時は、常に戦い続けて経験値稼いどけよ」
「……はい。そうします」
◇ ◇ ◇
俺たちはオークの集落を出る。
ボーンイーターを探しに向かう。
山を降り始めると、雪景色に変わった。
(なんで標高の高い集落には雪がないんだ?)
畑もあるし、花も育ってた。
普通は上の方が寒いんじゃないのか?
目の端にはパーティ情報が見える。
仲間と自分のレベル差が常に晒されている。
(そういえば、シャンデのレベルも20だったな……)
「もしかして、レベル20が上限なんですか?」
俺の問いに、アンジェラが振り返る。
「いや? そんなことはねえよ。ああ、そういや、お前アカデミーに行ってないんだってな」
「今からでも通いたいですよ」
(けっこう真面目に通いたい)
分からないことが多すぎるんだよな。
「レベルは20になると停滞する。レベル1から20までに必要な経験値を稼がないと21になれねえ。22以上にするのも同様だ」
「そんなに?」
(要求値が無茶苦茶だ)
「まあ、俺もちょいちょい稼いじゃいるが、そもそもレベル20前後のモンスターがほとんどいねえからな」
「そうか。レベル差があると経験値は増えないから……」
21にするのは、まだ可能かもしれない。
でも22にするには、さらに倍の経験値を稼げってことだろ?
これは、事実上のレベルキャップか?
その時――。
「反応あり! 複数です!」
情報班から声が上がる。
〈探知〉持ちがいるようだ。
俺の〈探知〉にも反応があった。
(10体くらいか)
〈ボーンイーター偵察兵/闇属性/レベル5〉
〈ボーンイーター掘削兵/闇属性/レベル6〉
子犬ほどの大きさの甲虫が翅を震わせていた。
でっかいテントウムシみたいな虫だ。
(前よりもちょっとレベルが高い?)
気のせいか?
それとも個体差があるのか?
「よーし! できれば2体は捕獲したい」
アンジェラが構える。
「タケル、魔法で1体ずつ撃ち落とせ!」
「はい!」
「オークの旦那たちは――」
アンジェラが指示を出そうとした、その時だった。
「がっはは! 虫どもが!」
「バラバラにしてやろう!」
2人のオークは雄叫びを上げる。
猪突猛進に走り出してしまった。
「ああ、もう! 殺すなって言ってんだろが!」
◇ ◇ ◇
俺たちがオークの集落レーイマニに帰還したのは、日が落ちてからだった。
「ずいぶん遅かったな」
シャンデは豪快に肉に噛り付いていた。
「ああ、疲れた!」
アンジェラが大げさにため息をつく。
ドカッとその場に座り込んだ。
4度目のエンカウントで、ようやく作戦趣旨を理解したアグラマとベルカジだった。
情報班は戦闘記録が増えたことを喜んでいた。
しかし、アンジェラは心労で少しやつれて見える。
(……それにしても)
アンジェラの指揮は的確だった。
俺たちの立ち位置から、仕掛けるタイミング、マナ管理まで。
大雑把に見えて、繊細ともいえる指揮の取り方だった。
「お帰りなさい!」
ユラが駆け寄ってくる。
その後ろから、ラクンもヒョコっと顔を出した。
俺の無事な姿を見て、ホッとした表情を浮かべる。
「ただいま」
ラクンは口をモグモグさせている。
こっちも夕食中だったみたいだ。
「それで戦果は?」
ゴブリン族の族長が問いかける。
リードルが持っていた布袋の中から、ガザガザと不気味な音が響いた。
「バッチリです! これから解析に入ります」
リードルが眼鏡を光らせて言った。
ユラがゴクリと喉を鳴らす。
視線の先は、ボーンイーターの入った袋。
いよいよ、彼女の出番だ。




