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盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~  作者: 上山マヤ
第5章 王都編

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第101話 ルードの目的

「はぁっ!」


 遠心力を乗せた凄まじい一撃。

 カートが巨大な大剣を竜巻のように振り回す。

 その横顔は、怒っているようにも、狂喜して笑っているようにも見えた。


「箱は壊したぞ!」


 斬り裂かれた黒い箱の残骸を一瞥いちべつして、カートが背後へ叫んだ。


 俺は周囲を見渡す。

 しかし、空間の裂け目は閉じる様子がなかった。

 そこからモンスターが続々と這い出してきていた。


(箱を壊しても止まらない?)


 あの箱はあくまで起動させるためのトリガーで、罠を止めるには別の何かがあるのか。


「うぅ……」


 座り込んでいるユラが、苦しげに頭を押さえた。


「ユラ、大丈夫か!?」

「……平気。それよりも、あの壁際の椅子の下を……調べて」


 ユラは青ざめた顔のまま、震える指で空間の歪みの根源を指し示した。


「エリックさん! あの椅子の下に何かあるみたいです!」


 俺が叫ぶと、弓を構えていたエリックの目が鋭く光った。


「カート、通路を確保してくれ! シャリー、カートに続け!」

「了解」


 エリックの指示に、シャリーと呼ばれた情報班の女性が即座に駆け出す。

 カートが迫るモンスターを大剣で薙ぎ払う。

 彼女のための道をこじ開けた。

 シャリーは椅子の下へ滑り込むように潜り込む。


「……見つけた!」


 シャリーの手元が淡く光り、隠されていた魔法陣のトラップを的確に解除していく。

 すると、空間を割っていた次元の裂け目が、まるで何事もなかったかのように塞がった。


「よし、増援は止まった。残りを殲滅しろ!」


 エリックの冷徹な号令と共に、ネームレスの反撃が始まった。


 ◇ ◇ ◇


 罠によって出現したモンスターは、最後の一体が崩れ落ち、静寂が戻った。

 エリックが召喚していた影の戦士たちも、役目を終えたのかいつの間にか消えていた。


 あまりに洗練された組織的な戦闘。

 俺はただ、ユラの傍らでその一部始終を見ているだけだった。


(緊急事態に見えたのに……)


 それなのに、彼らは完璧な対応をしてのけた。

 情報班の人たちでさえ、深層で自衛できる程度の高い戦闘力を持っている。

 これが、王都のトップクラン『ネームレス』の実力か。


「エリック。帰還魔法を使いますか?」


 シャリーが額の汗を拭いながら尋ねる。


「いや、それは本当に緊急時のみだ。歩いて戻ろう。幸いなことに、最初のチェックポイントで済んだからね」


 エリックが弓を背負いながら事もなげに答える。


(帰還魔法なんてものまであるのか)


 本当に色んなスキルがあるんだな。


「ユラちゃんは歩けそう?」


 クリスが心配そうに覗き込んでくる。


「俺がおぶるよ」


 俺が背中を向けてしゃがみ込むと、ユラはぷいっと顔を背けた。


「え、嫌よ。恥ずかしいし」


(この状況で拒否られると、ちょっと傷付くんだけど)


「それなら、僕のゴーレムで運ぶことが出来ますよ。出しましょうか?」


 後方待機班のチャドが、気遣うようにひょっこりと顔を出した。

 ユラは一瞬チャドの方を見て、それから気まずそうに俺の背中を見つめた。


「……やっぱり、タケルにおぶってもらうから、いいわ」

「じゃあ、チャドは俺のリュックを頼むよ」

「了解です! 任せてください!」


 チャドが元気よく俺の荷物を受け取ってくれる。

 俺はユラを背負い上げて立ち上がった。


(やっぱ軽いな)


 それにしても、ゴーレムまで出せるのかよ。

 ちょっと見てみたかったな。


 歩き出してしばらくすると、背中から小さな寝息が聞こえてきた。


(ユラのスキルは、消耗が激しすぎるんだよな)


 それにしても、ルードか。

 今度は王都をレベックの時みたいにするつもりか?

 一体何を考えてる。


 ふと疑問が湧く。

 ルードの感情に触れたはずのユラが、取り乱さなかったのは意外だった。

 彼女はあの空間で、一体何を見たんだろうか。


 ◇ ◇ ◇


 俺たちは無限ダンジョン深層から無事に帰還した。

 王都地下の大空洞に設けられたネームレスの作戦テントに戻っていた。


「さて、ユラ。さっき視たものについて、詳しく聞かせてもらえるかな?」


 エリックが椅子に腰掛け、真剣な眼差しでユラに向き直る。

 少し体調が戻ったユラが、静かに口を開いた。


「この異変の原因は、ルードという男の仕業よ」

「レベックの一件から手配されていた男だね。あちらでは、レイド級モンスターの召喚に成功させたとか」


 エリックが顎に手を当てて頷く。


「私が見たのは……ルードの深い憎悪だった。あいつは、この世界を、そしてこの無限ダンジョンの『マナ結晶』を強く憎んでいたわ」

「マナ結晶を? あれを憎むって、あまり意味が分からないけど」


 横で聞いていたクリスが不思議そうに首を傾げる。


「『絶対の安全など人を堕落させるだけだ。試練を乗り越えてこそ、人は進化を遂げる』。……そんなことを考えていたみたいよ」


 ユラの言葉に、テントの中がしんと静まり返った。

 すると突然、エリックが立ち上がった。


「ユラ、ネームレスに入らないか?」

「え? はい!?」


 あまりに唐突なスカウトに、ユラが目を丸くする。


「マヌルネコの種族刻印しゅぞくこくいん。話には聞いたことがあったが、間近で見ると途轍もない可能性を感じるよ」


 エリックの糸目がわずかに開き、その奥で好奇心の炎が燃え上がっていた。


「たしか〈残香読ざんこうよみ〉だったか。サイコメトリー系の能力はこれまでもいくつか見てきたが、音と映像、どちらの情報も同時に収集できるとは驚きだ。その上、感情や思考まで読み取れるなんて!」


 ネームレスは王都の貴族を内偵や、治安維持の仕事も請け負っている。

 過去の事象から真実を引きずり出すユラの力は、彼らにとって喉から手が出るほどの欲しい存在なのかもしれない。


「マヌルネコの特異性なのか、それとも君自身の資質なのか。両方かもしれないな」


 エリックは早口でまくし立て、俺の方をチラリと見た。


「君が加入するのなら、タケルのことも引き取るよ。そのくらい君には価値がある!」

「ちょっと、エリック! 失礼よ!」


 クリスが慌ててエリックの腕を引いてたしなめる。


(俺は"ついで"か)


「ああ、すまない。興味のあることになると、つい夢中になって周りが見えなくなる。僕の悪い癖だ」


 エリックが苦笑いを作る。


「本当にごめんね、タケルくん。この人、悪気はないんだけど合理主義が行き過ぎてて」

「あ、いえ。ユラがそこまで高く評価されるのは、俺も嬉しいですから」


 俺が苦笑交じりに返すと、エリックは咳払いをして居住まいを正した。


「加入の件は、この騒動が終わってからゆっくり考えてくれたらいい。話を戻そう。ルードは具体的に何をするつもりなんだ?」

「さっきの箱の力で、ダンジョン中のマナを暴走させてモンスターを溢れさせる。そして、王都を……陥落させるって」

「王都陥落!?」


 テントの空気が一気に凍りついた。

 エリックの顔から、ついに余裕の笑みが消え去った。

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