88 何があったか
また更新忘れてましたごめんなさい!
「ナケア、これは……随分と暴れたみたいだな……」
「お兄ちゃん!」
白衣の男が崩れ落ちた瞬間、ナケアとアリシアの後ろから男の声が聞こえてきた。
その声を聞いたナケアは嬉しそうに、アリシアは驚いて肩を跳ねさせながら声の出所へ振り向く。
二人の背後にいたのは、壁は壊され、元々何かの実験をしていたのであろう機材が散乱し、瀕死の重傷を負った男二人を見て苦笑いを浮かべたグロウと、鎧を着こんでいる数名の兵士たちだった。兵士たちを統率しているのは、グロウと同じように苦笑いを浮かべているクライヴだ。
「ここの衝撃が上まで届いて、上じゃ結構な騒ぎになったんだぞ?」
「えへへ、ごめんなさ~い」
グロウは呆れた顔でナケアに近づくと、ナケアの頭を撫でながら「来るのが遅くなってすまない。ここまでよくやった」とナケアを労う。
グロウがナケアを労っていると、ナケアの様子を見て大丈夫だと判断したのか、アリシアがおそるおそるグロウへ話しかけてきた。
「貴方がナケアのお兄様ですか?」
「ああ、俺の名前はグロウ。アリシア=フェルレクス王女だな? 救助が遅くなってしまいすまなかった。それとナケアの話し相手になってもらい感謝する」
「いいえ、私の方こそナケアちゃんにはとても助けられました。ナケアちゃんが居なければ、今頃私はどうなっていたことか」
アリシアはグロウに挨拶をして頭を下げると、グロウに撫でられて気持ちよさそうに目を細めるナケアを見て微笑みを浮かべる。
攫われた上にナケアの力を間近で見ただろうに、アリシアからは怯えの感情が一切見られない。グロウの教える学校の生徒たちと歳はそう変わらないであろうに、この王女様は結構逞しい性格をしている様だった。
「そう言えばお兄ちゃん。どうして来るのが少し遅かったの? お兄ちゃんなら、集めた人を全員転移させてこの場所を囲むくらい直ぐ出来たでしょ?」
「確かに出来たが、今回はちょっと犯人の数が多くてな。それと、ナケアが教えてくれたこの組織のアジトを全部潰すのに、それなりに時間が掛かったんだ」
グロウはナケアの頭から手を放し、残念がるナケアとアリシアにここまでの顛末を話し出した。
そもそも今回のナケアが巻き込まれた王女誘拐の犯人は、ここフェルゴ王国の両隣に位置する二大国に巣くう巨大な犯罪組織の犯行であった。犯行の動機は、フェルゴ王国の弱みを握る為に計画されたとのことだ。
この犯罪組織では、違法となっている薬物や魔道具の売買は勿論、王都周囲の村や旅人などを襲って金品を強奪したり、誘拐した村人や旅人を違法奴隷として売買したりと、かなり凶悪な組織だったのだが、どうやらその裏には二大国と繋がりがあったらしい。
フェルゴ王国は二大国に挟まれた立地でありながら、これまで鉱山から採れる鉱石に高い技術力を奪おうと、過去何度かあった二大国の侵攻を許してはいなかった。
それはこの国の誇る世界最強と呼び声高い騎士団、シルト騎士団の功績によるものが大きい。そのシルト騎士団は王城内の護衛も任されており、今回フェルゴ王国の弱みを握る為に計画された王女誘拐は、並大抵の事では不可能だ。
そこで二大国は、何年もこの犯罪組織を支援して少しずつフェルゴ王国の王城に組織の手の入った者を潜入させ、城の内側から崩す作戦を取った。
数年を掛けて計画されたこの作戦は、シルト騎士団の目を掻い潜り王女の誘拐を成功させる。しかし、組織の実行犯は王女の誘拐が成功したことで気分が昂ったのか、王女の運搬中に計画に無かったナケアの誘拐を実行。
それからグロウに組織が発見され、王女の誘拐を察知したシルト騎士団と合流。アジトを探る為、ナケアの誘拐犯をそのまま追跡し、アジトの場所を発覚させるとグロウは騎士団と協力してアジトの出入り口を封鎖した。
「そして漸く突入しようとすれば、ナケアがこの国中に魔力を放出させただろう?」
「うん? ああ! この国に呪いの籠った魔道具が沢山あるって言ってたから、全部浄化しといたんだ!」
「流石ナケアだな。まあそれで、何かあるんじゃないかと思ってナケアの魔力を辿ってみれば、この国に大量の兵器や呪具を持った集団が居ることが分かったから、タマモを脅は……協力してもらい国中に黒妖狐を放ち、集団を殲滅していたりアジトを潰し回ったりした後、騎士団に後処理を任せてこっちに来て、今に至ると言う訳だ」
グロウの話を聞いて、アリシアはポカンと口を開き、呆然とした表情のままその場で固まってしまう。
「国中って、ナケアちゃんが戦ってから今まで、まだ数分しか経っていないんですが……?」
「それはな、俺たちのげぼ……仲間にタマモって奴が居るんだが、そいつは強力な召喚魔法の使い手で黒妖狐を召喚できる。黒妖狐は気配を動きも素早くて気配を消す能力があるから、簡単に全員を捕えることが出来たぞ」
途中で寝てしまったエリカとルピナと共に宿へと帰っていたタマモは、その後グロウに捕まって国中に黒妖狐を放った。黒妖狐は討伐難度Cランクの強力な魔物だ。幾ら呪いの籠った魔道具を持っていたとしても、相当な実力者でもない限り反応すら出来ずに無力化されて行った。
組織の中にはそれなりに腕の立つ者もいた様だが、そう言った輩はグロウとクライヴが転移によってその場所へ向かい、制圧して来ている。既に国内にいた組織は一人残らず捕縛されている事だろう。
そこまでグロウから話を聞いたところでアリシアは口を閉じ、悟りでも開いたかのような良い笑顔を浮かべた。何故か、その笑顔はエリカのよく浮かべている笑顔と被る。
「え、えっと、グロウさんも、ナケアちゃんと同じ感じなんですね……」
「アリシア様、グロウさんたちに常識は通用しませんよ」
クライヴは何故か同類を見る目でアリシアを見ている。
「まあ何はともあれ、これでこの事件は解決だろう。詳しい話は明日にして、今日はもう帰るとしよう」
「そうですね。それでは、グロウさん達は明日我々の詰め所に来てください」
「了解した」
グロウとクライヴが明日の予定を話し、他の兵士は研究所にあった資料や実験器具、白衣の男と鎧の男を拘束して何処かへ連れて行っている。部屋の外でも、クライヴ達が連れて来た兵士が地下に捕まっていた人たちを誘導していた。
グロウとクライヴが話している内に、ナケアはアリシアに近づいて行く。
「アリシアちゃん! 今日は沢山お喋り出来て楽しかったよ! 今度はお姉ちゃんやルーちゃん達とも一緒に遊ぼうね!」
「ナケアちゃん? あれは決して楽しいとか遊びとは思えませんでしたからね? でも、私もナケアちゃんと出会えて本当に良かったです。今度はゆっくりとお話しましょうね!」
二人の様子を、グロウとクライヴは微笑みながら見つめる。しかし、既に日付が変わり夜も更けた時間だ。これ以上、ナケアやこの国の姫であるアリシアをこんな場所に居させる訳にはいかない。夜更かしは健やかな成長に悪影響が出るのだ。
それに、宿では未だにエリカがナケアの身を案じて寝ずに待っている。早く帰って、エリカにナケアの無事な姿を見せておきたい。
二人の話が終わり、タイミングを見計らってグロウは二人に声を掛ける。
「ナケア、そろそろ帰ろう。宿でエリカが待っている」
「アリシア様、もうそろそろ城へ帰還いたしましょう。誘拐を知ったリリー副団長が、そろそろ我慢の限界を迎えるかもしれません」
「うんっ! それじゃあね、アリシアちゃん!」
「リリーお姉様が!? ううっ、それは大変ですね……それでは、またお話しましょうね、ナケアちゃん!」
ナケアはアリシアへ元気に手を振りながらグロウと共に、アリシアは控えめに照れながら手を振り返して、クライヴと共に転移魔法でこの研究室から一瞬で姿を消す。
こうして、ナケア達を巻き込んだ事件は終わりを迎えたのだった。
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