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81 ダンジョンの戦果

気が付いたらもう秋だよ……

「ふむ、様子を見に来たがもう終わっていたか」


「グ、グロウさん!? どうしてここに!?」


 エリカが生徒たちと一緒にダンジョンのボスを討伐して、残った素材を回収し終えた頃、突然ボス部屋に今頃セルゲンレイクの学校にいるであろうグロウの声が聞こえてきた。


 声に驚いて、全員が声の聞こえた方向に顔を向けると、そこには間違いなくグロウがボス部屋の中を興味深そうに見渡している。


「ここは王都近くのダンジョンなんだろ? まさかグロウ先生。セルゲンレイクからここまで来たのかよ?」


「ああ、今日は丁度学校が休みだったからな。お前たち、ここに来る前に黒板に転移の魔法陣を描いて行っただろう? 本当はここに来る気は無かったんだが、折角だから実験してみた」


「あっ、そう言えば消し忘れてた……」


 国家機密にも等しい転移の魔法陣の扱いを聞いて、クライヴが冷や汗を流している中、グロウは生徒たちに近づくと生徒一人ひとりの頭を優しく撫でて行った。


「全員、ダンジョンに入る前と比べて大幅に強くなっている。エリカたちもよく頑張ったな」


「初めてのダンジョンなのに、皆さんとても頑張っていましたよ。ダンジョンのボスも、殆ど生徒の皆さんで倒してしまいましたから」


「いや、止めを刺したのは騎士様とエリカ先生でしょ? 俺たちだけだったら、あの二匹のボスと一緒にこの部屋で生き埋めになってたよ……」


「それでも、致命傷を与えたのは皆さんです。ダンジョンの崩落は、次から気を付ければ良い事ですから、今は自分たちの成長を喜んだ方が良いと思いますよ? 皆さんは本当に強くなっていました」


「そうだぞ。初めてダンジョンを攻略して五体満足だったんだ。数か月前のお前たちなら、まず一時間もこのダンジョンで生きられなかっただろう。そもそも、初めてのダンジョン攻略で失敗しない方が稀だ。人は何度失敗しても、生きてさえいればその失敗から学ぶことが出来る。生きている内に、失敗から学んで対応して行けばそれで良いんだ」


 世界最強と言われていた冒険者は、たった一度の些細な失敗で命を落とした。その時の失敗に比べれば、全員生きている今回の失敗は失敗の中にすら入らない。


 様々な経験を通して、人は成長して行くことができる。今回の経験によって、生徒たちはダンジョンに入る前よりも確実に成長しているはずだ。


「それはそれとして、ここじゃあ気も休まらないだろう? 帰るぞ」


「「「「「はーい!」」」」」


 生徒たちの元気な声を置き去りにして、全員はダンジョンからセルゲンレイクにある教室へと帰って行った。



 ◇



「それではグロウさん。演習の件ですが、丁度来月にはこの学校も長期の休暇がありますよね? その日で如何でしょうか?」


「分かった。今回は生徒たちの面倒を見てくれて感謝する」


「いえいえ、全く手のかからない子供たちでしたよ。寧ろ、こちらの方が生徒の皆さんから学ばされました」


「あのダンジョンをこんなに早く攻略されるとは思わなかったぜ。騎士団でも、五人組の班を組んで一週間はかかるってのに……」


「そうなのか? あの程度のダンジョンならもう少し早く攻略できると思っていたが、やっぱり騎士団ともなると行軍速度が遅くなる物なのか?」


 教室に帰ってくると、一先ずグロウは騎士の二人にダンジョン内での出来事を聞いて行く。

 すると、エリカがおずおずと手を上げて会話に入ってきた。


「あの~、ダンジョンに入る前から気になっていたんですが、演習って一体なんの事なんですか?」


 ダンジョンに入る前から演習とは何かエリカは気になっていたのだが、どうせグロウのすることだから考えても分からないと、エリカは質問を保留にしていた。

 しかしダンジョン内に入ってみると、騎士の二人も何やら知っている様子。それも、自分にも関係ありそうだった。


 もう聞かない訳にはいかない。エリカが思い切って聞いてみると、グロウと騎士の二人はニヤリとそれはそれは楽しそうに笑みを浮かべる。


「えっと、一体その笑顔はどういう……?」


「エリカには言っていなかったな。幾ら俺でも、今回ただのダンジョン攻略のために、国防の要であるらしい騎士の二人を呼ぶことは難しかった。だから、直接王都に出向いて交渉してきたんだが、そうしたらあの女副団長に見つかってな。この二人を貸し出す代わりに、ある条件を付けられた」


「女副団長って、確かリリー=マクファーレン様ですよね? ある条件って言うのは?」


 リリー=マクファーレンは、魔王城攻略の際に来たシルト騎士団に勤めている副団長の一人だ。

 魔王城では魔王であるルピナに斬りかかってきたことから、エリカは少し苦手意識があったりする。


「そのある条件ってのが演習だ。騎士の二人を貸し出す代わりに、近いうちに演習を開いてリリーの隊を鍛えてくれと言われた」


「それって、グロウさんがってことですよね?」


「もちろん、俺たちのパーティーで、だ。あの女副団長の提案にしては面白そうだったから受けた」


「相談もしないで勝手に受けないで下さいよっ!?」


 例え相談をしていたとしても、変わっていたのはエリカの心労くらいのものだったのだが、そこは言わない事にする。


「実際にドラゴンと安全に戦える機会なんてありませんから、副団長もノリノリで今回の件を承認していました」


「グロウは最早失われて久しいロストマジックを使用して、極めた剣技も使いこなす。そしてナケアの嬢ちゃんは最上位の回復魔法を、エリカの嬢ちゃんもグロウの弟子として高水準の実力を持つ。相手にとって不足は無いぜ!」


「不足どころか、こちらが不足していないか心配になりますが……

 最近、騎士団の団員の中にも驕り高ぶる者が目立ち始めてきました。騎士団に入れる者は、冒険者で言えばAランクの者達です。自分よりも強い存在を殆ど知らない上に権力もあるので、どうしてもそう言う輩が増えてしまう」


 我々の権力は、先人たちの打ち立てた功績に基づく信頼と実力によって保障されていると言うのに、その信頼を自分たちで落としてどうするのだと、騎士団の副団長たちもこの問題に頭を抱えているらしい。


「そう言う訳で、ここらで上には上が居るのだと分からせて、団員の引き締めを図りたいのですよ。グロウさんたちは、何と言いますか、見た目がお若いので負ければ団員も驕る事は無くなるでしょう」


 エリカ(15歳)、ナケア(見た目は10歳未満)、冒険者では無いがルピナ(見た目3歳)。実年齢は100歳以上だったり80歳以上だったり、生まれて一年経っていなかったり、見た目通りの年齢はエリカ一人だけなのだが、グロウも見た目は成人したての青年くらいと確かに見た目だけなら全員年若い。


 そんな冒険者に負ければ、驕っていた騎士団の団員も今後驕ることなく大人しくはなるだろう。


「最近冒険者ギルドに行くたびにロリコンだ、とうとう学校の教師にまでなった変態だと言う声が聞こえていたが、こう言う使い方も出来るんだな」


「グロウさん、そんな事言われていたんですか……?」


 エリカの心配そうな声がグロウの心に突き刺さる。少し悲しくなってきたグロウは、この話を終わらせて生徒たちを呼んだ。


「普通ダンジョンで手に入れた素材は、冒険者ギルドか商業ギルドに売るものだが、今回は俺が買い取らせてもらうぞ」


 最初からそう言う話になっていたので、生徒たちはグロウの前にダンジョンで手に入れた素材を次々とバックから取り出していく。

 エリカも最後に手に入れたボスの素材をグロウの前に並べた。


 ダンジョンで採れた魔物の素材、魔晶石が教室内に所狭しと並べられる。Dランク~Cランク級の魔晶石は魔道具や霊薬の原料に、質の良い素材は魔道具にも防具にも武器にも使う事が出来る。


 これだけの素材や魔晶石を売れば、それだけで下手な冒険者が生涯で稼ぐ収入を超える資産を手に入れることが出来るだろう。


「岩毒蛇の皮にレッドオーガの角。ロックオークの牙と紅玉蛇(ルビースネーク)の眼球まであるのか。これだけでも一生暮らせるだけの金が手に入るぞ? お前ら、もう冒険者しなくても良いんじゃないか?」


「あの村作ってたの、レッドオーガって言うんだな。冒険者はどんなに金稼いでも続けるよ。だって冒険って面白そうだろ! 俺はもっといろんな場所を見に行きたい!」


「私も、今回のダンジョン攻略は楽しかったです! また皆でダンジョンに遊びに行きたいです!」


「次は、ちゃんと最後まで気を抜かないように気を付けないと」


「ゲイリーの魔法って便利なんだね。いっつもいたずらの仕掛ける場所が完璧なのはそういう事?」


「何のことかな?」


 一気に大金を手に入れると、子供だけである皆は誰かに狙われる可能性も出てくるという事もあるので、報酬についてはエリカたちと話し合って分割で必要な時にグロウが生徒たちに渡すこととなった。


「それで、これがダンジョンボスのアシッドパイソンと、キングレッドオーガの素材とその魔動具か。この魔道具の効果は――『諸刃の剣』か。自分の生命力と引き換えに、魔力と筋力を大幅に上昇させる。全部で金貨一万枚はくだらないな」


「金貨一万枚って、どんくらいだ?」


「えっと、白金(プラチナ)貨十枚分だから、良くわかんない……」


 白金(プラチナ)貨は一枚で金貨千枚と同じ価値がある。大商人などは大きな取引で金貨何万枚も使う事があり、そんな取引の時に金貨をジャラジャラと持ち歩く訳にはいかない。白金(プラチナ)貨はそんな時に使われる通貨である。


「まあどうでも良いか! 金よりも俺たちは冒険者になって凶悪な魔物を倒して、騎士団みたいなえいゆうになるんだ!」


「それもそうね! でも私は宮廷魔術師になるわ!」


 短い期間で大金を手に入れた生徒たちだが、誰一人として冒険者や宮廷魔術師となる目標を止めようとしない。ダンジョンに遊びに行くと言っているだけあって、グロウの生徒は全員もう立派にグロウ色に染められていた。


「これだけの素材があれば、生徒全員に今よりも良い装備を作れるな」


「お兄ちゃん、それがわざわざ素材を買った理由なの?」


「ああ、今の生徒たちの装備は、サクラ以外この街の既製品を使っている。あれではあいつら本来の実力を出し切れないだろう。あいつらの実力を充分発揮できれば、幾らあの魔道具で強化されたオーガであろうと、仕留めきれていたはずだ」


「それなら、お兄ちゃんが持ってるもっと強い魔物の素材を使えばお金もかからなかったのに」


「先行投資だ。金は持っていて損は無い。あいつらの未来が閉ざされる方が損をする」


 勿論、ナケアの言う通りグロウの持っている素材もふんだんに使って装備を作る予定だ。丁度良いので、エリカやルピナ、ナケアの装備を作っても良い。


「やっぱり、ボクのお兄ちゃんは優しいね!」


「そうでもない。準備の大切さを身をもって知っているだけだ。もうあんなくだらない後悔はしたくない」


 グロウは生徒の全員に、準備と確認の大切さを口を酸っぱくして教えている。教えている立場なのだから、自分自身は生徒全員に見本を示さなければならないだろう。

 その一環として、グロウは生徒全員にアイテムバックやキャンプ道具などを渡している。


「それなら、後でボクとルーちゃんがダンジョンで拾ったのもあげる!」


「うん? それはナケアとルピナの自由にしても良いぞ?」


「ううん、ボクも皆の役に立ちたいの! きっとルーちゃんも良いって言うよ? そもそも、ボクたちお金なんて要らないし、魔道具も作れないもん」


 そう言う事ならと、グロウはナケアから魔物の素材を受け取る。素材はかなり多くなってしまったが、その分多くの道具を作れば良い。どうせアイテムバックがあれば荷物にはならないのだから。


 グロウが素材を受け取り終わると、騎士の二人は用事が済んだのでクライヴの転移魔法で王都に帰って行く。

 帰り際に生徒の皆さんも是非、騎士団の演習を見に来るように言われたのでグロウは快諾しておいた。


「さて、それじゃあ今日はもう疲れていると思うから、明日は休みにして授業は明後日から再開する。全員寄り道せずにちゃんと家に帰って、ゆっくり疲れを取るように」


「やった! 休みだー!」


「初めてダンジョンに行って、皆さんはどうしてそんなに元気なんですか……?」


「私達、グロウ先生の生徒ですから!」


「生徒の皆さんが、どんどん人間離れして行く……」


 エリカが何か失礼な事を言っていても聞こえないふりをしながら、グロウは教師として授業を終える。


 こうして生徒たちの初めてのダンジョン攻略は、皆が成長と反省を知って幕を閉じたのだった。

グロウはまだアイテムボックスの中にエリカに出会う前に貯めた大量の魔石を持っているので、換金していないけどお金を作るアテはあります。


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