80 帰るまでがダンジョン攻略
夏休みが、欲しかったです……
「サクラ!」
「シュティーちゃん!」
この部屋に入ってから一度も魔法を放っていない二人に向けて、トニー君とフィオナちゃんは合図を送る。
サクラちゃんは目を閉じ集中して、グロウさんから貰った魔弓を引き絞り、シュティーちゃんは唯一覚えることのできた上級魔法の魔法陣を描いていました。
サクラちゃんの目がゆっくりと開かれて、魔弓に番えられていた魔力で出来た矢が手から離れる。
サクラちゃんの得意属性は、ナケアちゃんと同じ聖属性。聖龍であるナケアちゃんの周りでは、聖属性の魔法や治癒魔法は全て自動で大幅に強化されます。
このクラスの中で瞬間的に最も威力の高い攻撃を放てるのは、雷属性を扱えるゲイリー君でも、魔導師であるシュティーちゃんでもありません。
聖龍であるナケアちゃんの加護を得られ、グロウさんから貰ったこの時代では国宝にも勝る魔弓も手にしているサクラちゃんです。
目を開ける事すらままならない程の眩い光を放ちながら、矢は一直線に二匹の魔物に向けて飛んで行く。
サクラちゃんの攻撃に合わせて、シュティーちゃんも風の魔法を放ちました。
風の魔法がサクラちゃんの放った矢の速度を更に上昇させ、やがて音すら置き去りにして二匹の魔物に直撃しました。
サクラちゃんとシュティーちゃんが作り出した破壊の奔流は、二匹の魔物どころか部屋中に破壊を振りまいてボス部屋を崩壊させていきます。
「ちょっ、これはやり過ぎなんじゃねえのっ!?」
「グロウ先生から貰った武器だし、そりゃこうなるわよ」
「これって私のせいですかっ!? ごめんなさい! こんなになるなんて知らなかったんです‼」
「皆さん落ち着いて下さい! 防御魔法を使える生徒の皆さんは全力で防御魔法を! 他の人は落ちてくる岩に向けて攻撃して下さい!」
部屋の崩落によってパニックになりかけていた生徒の皆さんを、素早くクライヴさんがまとめて指示を出していきました。流石は騎士様です。直ぐに生徒の皆さんは落ち着きを取り戻して、クライヴさんの言う通りに行動して行きました。
しかし、生徒の皆さんはさっきの戦闘で魔力を殆ど使い切ってしまっています。クライヴさんの転移魔法でも、ダンジョンをクリアしない限りこの部屋から出ることは出来ません。
騎士のお二人ならどうにか出来るかもしれませんが、生徒の皆さんの力ではこの場を生き残れない可能性があります。
でもここまで出来れば、今回のダンジョン攻略は大成功と言えるでしょう。
そろそろナケアちゃんとルピナちゃんがうずうずして我慢できなくなってしましそうでしたから、ここまで溜まったストレスを発散してもらいます。
「ナケアちゃん、ルピナちゃん。皆さんを守ってあげてくれませんか?」
「おお~、やっとボクたちの出番だー! やろう、ルーちゃん!」
「お~」
ナケアちゃんとルピナちゃんが、喜々として倒壊して行く部屋の中に進んで行きました。
「ルーちゃん、ボクが結界を張るから遠慮なくやっちゃって良いよ!【白銀の光壁】」
ナケアちゃんが魔法を使うと、私達全員を包み込むように白銀に輝く結界が私たちの周りに出現しました。
ナケアちゃんの結界に触れた瞬間、倒壊してくる岩は元からそんな物無かったとでも言うように分解され、塵となって空気に混ざる。特訓中にグロウさんから聞いた話では、この魔法はナケアちゃんの使う魔法の中でも上位の防御力がある魔法だそうです。
曰く、この魔法は調節しなければグロウさんでも不用心に触ればただでは済まないそうなので、その中にいる私たちはこの時代、世の中で一番安全な場所にいると言っても過言ではありません。
私たちの安全が確保されたからでしょうか。何やら、今度はルピナちゃんから膨大な魔力の流れを感じるのですが……
「さしゅがに、えいしょうのじきゃんは無いけど、これでじゅうぶん! けしとぶの!【業火の吹雪】」
今のルピナちゃんが無詠唱で発動できる限界の魔法。まだルピナちゃんが魔王だった頃には苦しめられた炎の吹雪が、降って来た岩の雨を溶かして洞窟内を紅色に染め上げる。
もしナケアちゃんの結界が無ければ、私たちが全員力を合わせてもルピナちゃんの魔法に対抗できるか分かりません。正直、崩落したダンジョンの天井の方が危険度は圧倒的に低いと思います。
一体、ルピナちゃんはどれだけ普段から魔力を有り余らせていたんでしょうか?
「流石は元SSランクの魔王だな。それも魔法特化型。あの時、グロウ達がダンジョン攻略にいなかったらと思うとゾッとするぜ。まあ、その魔法を完璧に防ぎきるナケアの嬢ちゃんも大概だがな」
「エリカさん。絶対に人がいる中でルピナちゃんに魔法を使わせない様、注意しておいてくださいね? 絶対にですからね?」
「ははは、グロウさんとお話してみます……」
「ルピナの魔法スゲー」
「ナケアちゃん……この高純度で膨大な聖属性の魔力、凄い……」
騎士のお二人は二度目なのでそれ程驚いていませんでしたが、生徒の皆さんは直接ナケアちゃんとルピナちゃんの魔法を見るのは初めてだったので、私が初めてグロウさんの魔法を見た時くらい驚いていました。
普通の人間では届き得ない、天災と並び畏れられる魔王の魔法は、この部屋の中で存分に荒れ狂うとやがて全ての岩を溶かし、吹き飛ばして洞窟内を更地に変えるとやがて徐々に収まって行く。
洞窟の中央部は入ってきた時とは随分と様変わりしており、辺りにはルピナちゃんの魔法で溶かし切れなかった元巨岩が散乱しているだけとなっていました。
「おー、ルーちゃんあれから魔法の威力上がってるね~。ボクの結界、半分くらい削られちゃったよ」
「えっへん、です」
ナケアちゃんは結界を解くと、ルピナちゃんの頭をよしよしと撫で、ルピナちゃんは嬉しそうに笑顔を浮かべています。
何処からどう見ても、二人がダンジョンのボスの攻撃や、シュティーちゃんとサクラちゃんの合わせ技よりも部屋を滅茶苦茶にしたり、その攻撃を防ぎ切った張本人だとは思えません。
「グロウ先生のパーティ―メンバーだし、凄いんだろうなとは思ってたけど、二人ってこんなに凄い魔術師だったんだな!」
「私たちもいつか、二人みたいな魔術師になれるのかな?」
「凄い! 本当に凄かったよ二人とも!」
生徒の皆さんが、ナケアちゃんとルピナちゃんの周りに集まって、二人の魔法を口々に賞賛して行きます。
生徒の皆さんに褒めて貰って、二人もとても嬉しそうです。
そして気の緩んでいたこの瞬間だけは、ナケアちゃんやルピナちゃんですら、私たち以外の生命反応が二つある事に気が付いていませんでした。
「フシャアアアァァッ‼」
「グルァァアアアッ‼」
「なっ!? どうしてあいつらがまだ生きてんだよ!?」
あれだけの魔法を受けても尚、ダンジョンのボスはまだ、息絶えてはいませんでした。しかし、二匹のボスは体のあちこちが焼け焦げ、最早生きているのがやっとと言ったところです。後数分もしない内に、二匹のボスは息絶えるでしょう。
でも、体内に宿る魔力からして、最後に一撃放つくらいの余裕はありそうです。
「あのオーガの持っている金棒、明らかに宿っていた魔力が減ってる? たぶんあれが原因だと思います!」
博識のブレンダちゃんだけが、普段から調べものをするときの癖で対象を素早く調べる【調査】の魔法を発動させる。
確かにオーガの持っている魔道具であった金棒は、最初見た時と比べて殆ど魔力を感じない程少なくなっています。
アシッドパイソンは自信の残りの魔力を全て毒へと変えると私たちに向けて吐き出し、巨大なオーガは全体に亀裂の走った金棒を振り上げる。
殆ど反射で魔法を発動させたブレンダちゃん以外、完全に油断していたナケアちゃん達を含めた生徒の皆さんは硬直してしまい、魔法を発動させることはおろか、攻撃を躱すことも出来そうにありませんでした。
アシッドパイソンの毒と、巨大なオーガの金棒が生徒の皆さんに向けて迫ってきます。
「やっと俺たちの出番だな! そろそろ良いとこ見せておくか!」
金属と金属のぶつかり合う音を響かせて、生徒の皆さんに向けて振り下ろされた金棒をヴォルグさんが自身の戦斧で受け止めました。
「皆さん、戦闘は終わった後が一番隙ができやすいんです。油断は相手の最後をきちんと見届けてからにしましょうね?」
そして私は、アシッドパイソンの毒を退魔の剣で斬り裂きました。私の退魔の剣は、魔素を消滅させることで魔法を無効化することが出来る。
アシッドパイソンの毒は、自身の魔力を変化させて作られていたので、私の剣で消滅させることが出来ます。
退魔の剣に触れたアシッドパイソンの毒は、一瞬にして霧散していきました。
攻撃を受け止められ、何もできなくなった二匹の魔物の上に、いつの間にかクライヴさんが【転移】で移動する。
「締めは私ですか。光栄ですね」
【剣技:飛断】
クライヴさんの持つ細身の剣が振るわれた瞬間、ほぼ同時に二匹の魔物の頸が切り裂かれ、盛大に血しぶきが上がった。
そして二匹の魔物が完全に息絶えると、その身体はダンジョンに吸収されるように無くなって行き、後にはアシッドパイソンとオーガのものだったと思われる、数枚の黒色の巨大な鱗と鋭い牙、頑強な角と魔力の無くなった金棒が残されていました。
「あれ、何かあったかいものが体に流れ込んでくる?」
「これは、魔素でしょうか?」
「俺の魔力が、増えてる?」
ボスが倒されると、生徒の皆さんは不思議そうに自分の体をペタペタと触りだしました。多分、このダンジョンのボスを倒したことによって、ボスの体を作っていた魔素が皆さんの体に流れて行ったのでしょう。
普通の魔物なら、実感できるほど魔力が増えることは無いそうですが、上級ダンジョンのボス、それも二匹の強力な魔物が倒れたんです。生徒の皆さんの魔力量はただでさえ発展途上。皆さんの魔力量は、このダンジョンに入った時よりもかなり上昇している事でしょう。
私が皆さんにそのことを伝えると、生徒の皆さんはナケアちゃんたちと一緒にとても喜んで辺りを飛び跳ねたりしていました。
生徒の皆さんが喜んでいる間に、私たちはボスから出てきた素材を回収しに行きます。ダンジョンに入ってから騎士のお二人にダンジョンで手に入れた素材はどうするのか尋ねたところ、このダンジョンで手に入れた素材は後でグロウさんが全て買い取り、生徒の皆さんに代金を支払うそうです。
と言っても、もしこのダンジョンで手に入れた素材をそのまま全て売ってしまうと、もう冒険者を続けなくても過ごせるだけのお金になりそうなので報酬は小出しに出していく予定ですが。
私は後でグロウさんに報告をするために、魔物の素材を自分のポーチに入れていきます。このポーチはアイテムボックスになっているので、全ての素材を難なく回収することが出来ます。
このアイテムボックスは騎士のお二人も興味を惹かれた様で、後でグロウさんに騎士団用に幾つか作れないか交渉してくれと頼まれてしまいました。
「あれ、この金棒は?」
私たちが素材を回収していると、最後に残った元魔道具で今は力を失っているオーガの金棒が目に付きました。
どうしてでしょう? 何となく、この金棒から目が離せなくなっています。
私は不信に思いながらも、何故か悪い様にはならない気がしてその金棒を思わず手に取りました。すると、私の中にその金棒が吸い込まれて行くような感覚がして、私は思わず金棒から手を引っ込めました。
「うん? エリカの嬢ちゃん。どうかしたのか?」
「いえ、この金棒に触った瞬間に、何となく変な感じがしただけです。というかこの感覚、どこかで……あっ!?」
私が思わず声を上げると、近くにいた騎士のお二人が心配そうに私の様子を見ていました。騎士のお二人から声を掛けられる前に、私は【魔剣召喚】の魔法を発動させます。
【魔剣召喚:邪鬼の大剣】
召喚されて出てきたのは、私の身長の倍はありそうな一本の諸刃の大剣でした。剣の幅も広く、グロウさんの持つ”絶壁の護身剣”を彷彿とさせますが、あの剣よりも更に大きく、剣というよりも鉄塊というような見た目です。
「やっぱり、あの感覚は私の中に剣霊が入って来た時と同じ感覚だったんですね。でも、見た目が金棒から剣になっているのはどうしてなんでしょうか?」
まあ、それは帰ってからグロウさんに聞けば分かる事です。私は取り合えず問題ないと騎士のお二人に伝えると、素材を回収し終えた騎士のお二人と一緒に生徒の皆さんの元へ歩いて行きました。
ブレンダちゃん超有能! 因みに図書委員とかやってそうな丸メガネの文学少女をイメージしてます。
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