79 ボス戦!
すみません遅れました(>_<)
途中からエリカ視点からトニー視点に変わります。
二体の魔物が私たちを見つけたのか、ゆったりとした動きでこちらに近づいてきます。私たちが入ってきた後ろの扉はいつの間にか閉まっており、撤退することはもう出来そうにありません。
生徒の皆さんは一瞬だけ動揺して、勝手に閉まった扉に視線を向けましたが、直ぐに魔物へ向き直ると臨戦態勢を整えました。
探知魔法で敵の凡その強さを把握して、いつでも魔法を放てるように魔力を高めます。
「あのオーガの持っている金棒は魔道具ですかね? さらに一体の強さはC+ランク、それが二体ですか……」
「Bランクの冒険者パーティーでも油断すれば簡単に喰われる。正直グロウの生徒とは言っても、ここは分が悪いと思うぜ?」
私の近くにいたヴォルグさんが、敵の魔物を見て担いでいた戦斧に手を掛けました。生徒の皆さんでは手に余ると判断したのでしょう。
確かに生徒の皆さんはグロウさんに日々魔法を教わっていますが、まだ皆さんは魔力が足りなく中級までの魔法しか使えず、冒険者で言えば一人一人はC~Bランクの冒険者くらいの実力しかないので、経験の浅さを考えれば私も分が悪いと思います。
相手が単体であれば、例えBランクの魔物でも生徒の皆さんなら問題なく討伐することが出来たでしょう。
しかし、複数の魔物が居る場合、一気に討伐の難易度は上がります。魔物の連携攻撃や多段攻撃はランク以上の脅威となり、手数の決まっている人間がその攻撃を防ぐには適格な判断力が求められるからです。
更に、皆さんの攻撃を一体に集中させられないのも辛いところですね。今の皆さんの魔法では、例えシュティーちゃんやゲイリー君でも、一人であの二体の魔物を倒すことはかなり困難になると思います。
しかし私は、やる気の籠った瞳を魔物に向けている生徒たちの様子を見て、ヴォルグさんに今は手は出さないで下さいとお願いしました。
「今は、生徒の皆さんに任せてみようと思います。危なくなったら、その時はお願いしても良いですか?」
「まあ、グロウからも手を出すなと言われてるしな。エリカの嬢ちゃんがそう言うなら了解だ。ナケアの嬢ちゃんも一応治癒魔法を準備しておいてくれ」
「はーい!」
「ルピナの出番、こんかいもなさそう……」
ルピナちゃんの少し落ち込んだ表情を見てしまっては、後で埋め合わせをしない訳には行けませんね。最近ルピナちゃんは、授業で生徒の皆さんと楽しそうに魔法について話している様子を見かけますが、ルピナちゃんの魔法は強力過ぎて思いっきり魔法を使わせてあげられません。
もしルピナちゃんがこの場で上級の魔法を使えば、あの魔物は一撃で消え去ってしまうでしょう。何処かでルピナちゃんが思いっきり遊べる場所があれば良いんですが……
それよりも、今は生徒の皆さんの戦いに目を向けます。いざとなれば、私も直ぐに皆さんを手助けしないといけませんからね。
「ハロルドとサムはあの蛇に行け! 俺はオーガの方と戦う! 作戦はBプランだ!」
「フェンとブレンダは付与魔法を全員に掛けて!」
トニー君とフィオナちゃんが中心になって、誰がどっちの相手をするのかを素早く決めていきます。
フェンちゃんとブレンダちゃんは、フィオナちゃんの指示で全員に魔力を上昇させる魔法を使いました。
そうしているうちに、二体の魔物はどんどん近づいてきます。あのオーガが持っている金棒を振れば生徒の皆さんに届くと言った位置まで二体の魔物が近づくと、トニー君たちは二手に分かれて左右に走り出しました。
騎士のお二人がトニー君たちに、私たちがフィオナちゃん達について行きます。
「黒い鱗に赤い目、あの魔物は確かアシッドパイソンです! 毒に触れれば骨まで溶けるから気を付けてください!」
普段は大人しいブレンダちゃんは、学校でも休み時間によく本を読んでいて、色々な事を知っています。
あの魔物についても知っていたようですね。魔法である程度解析できますが、それでも解析されていない最初の攻撃はどうしようもありませんから、こういった知識はありがたいです。
「サム! 俺があいつを引き付けるから、お前は魔法に集中してくれ!」
「任せて!」
ハロルド君はアシッドパイソンの正面に走ると、手に持った片手剣を上段に構えました。
「これでもくらえッ! 【巨岩剣】」
ハロルド君の持った剣に周囲の岩が張り付き、剣はアシッドパイソンの顔と同じくらいの大きさとなると、ハロルド君は岩で出来た大剣を思いきりアシッドパイソンに向けて振り落としました。
「ギシャアアアアアァァッ‼」
ハロルド君の振り下ろした大剣がアシッドパイソンの頭に直撃し、アシッドパイソンは苦悶の悲鳴の様な鳴き声を上げました。
大剣はアシッドパイソンに当たるとそのままの勢いで地面に当たり、剣についていた岩は粉々に砕け散りました。
しかしアシッドパイソンには、見たところ然程目立った外傷はありません。ただそのことを分かっているのか、ハロルド君は落ち込んだ様子もなくサム君にアイコンタクトを送りました。
「次は俺だよ! 【巨岩豪雨】」
「私も手伝うわ! 【深紅の業華】」
サム君の魔法に合わせて、フィオナちゃんも魔法を発動させました。
アシッドパイソンの頭上に巨大な岩が幾つも生成され、フィオナちゃんの魔法によって赤く熱せられると、直ぐにドロリと溶けて溶岩となったサム君の魔法がアシッドパイソンに降りかかります。
二人とも最初に見た魔法とは比べ物にならない程、魔法の威力が上がっていました。最初は詠唱しなければ魔法を発動させられなかったというのに、今では息をするように容易に魔法を発動させています。
溶岩の雨を大量に浴びてしまったアシッドパイソンは、痛みからなのか洞窟内を暴れまわっていました。
「キシャアッ‼」
アシッドサーペントは怒りの声を上げながら、冷えた溶岩を弾き飛ばしてこちらに突進してきました。
私たち全員を一口で丸のみにできそうな大きな口を開けて、アシッドパイソンは迫ってきます。狙いは後ろにいたフィオナちゃんとブレンダちゃんの様ですね。
ブレンダちゃんの付与魔法が無くなれば、この戦いは一気に不利になってしまいます。それにフィオナちゃんが居なくなれば、あと残っているのは不慣れな前衛を担当している二人だけ。
アシッドパイソンの攻撃をまともに受けてしまえば、これ以上戦い続けるのは不可能でしょう。
フィオナちゃんとブレンダちゃんは、その場から動こうとはせずに次に使う魔法を準備していました。
「行かせないよ!」
「お前の相手は俺たちだ!」
アシッドパイソンの横から、ハロルド君とサム君が剣に岩を纏わせて斬りかかりました。
もちろん、この程度ではダンジョンのボスを討伐することは出来ません。先程の魔法ですら、精々アシッドパイソンの鱗を何枚か剥がし、焦がす程度だったのですから。
二人の攻撃も、アシッドパイソンの鱗にほんの少し傷を付ける程度でした。
しかし、アシッドパイソンはそれが不愉快だったのか、大きく身をよじって二人を弾き飛ばすと、二人に向かって酸性の毒液を吐き出します。
「あっぶな!」
「サム、伏せろ! 【土壁盾】」
ハロルド君は咄嗟に正面の地面を盛り上げて、簡易的な盾としてアシッドパイソンの毒を防ぎました。
ジュウジュウと音を立てて、ハロルド君の作り出した盾が溶けていきます。
追撃とばかりに、アシッドパイソンは溶けかけた岩盾に突進してきました。岩盾が砕かれる直前、ハロルド君は魔法を準備していた二人の方をチラッと見ると、サム君と一緒にその場を離れます。
「やれ! フィオナ、ブレンダ!」
「オッケー! 見せてあげるわ、とっておきの上級魔法! ブレンダ、お願い!」
「分かりました! 最大魔力増加エンチャント!」
今まで集中していたブレンダちゃんが、全員に掛けている付与魔法が解けないように注意しながら、同じく集中して魔力を溜めていたフィオナちゃんに魔力を上げる付与魔法を施しました。
フィオナちゃんの魔力が、一時的に倍以上に膨れ上がります。魔力だけなら、どんなに頑張っても魔法剣士である私では追いつけませんね。
「これが私達の全力よ!」
【白熱の不知火】
フィオナちゃんの目の前に膨大な魔力が集まると、全ての魔力が超高温の炎へと変換されて行きました。魔力が足りず使えなかった上級魔法も、二人でならいつの間にか使えるようになっていたんですね!
白く輝く炎が、対照的に黒い鱗を持つ巨大なアシッドパイソンを飲み込み、洞窟の反対側の壁まで押し込んで行きました――
◇
「トニー、お前は直ぐ突っ走るからな。今回は斬りこみ過ぎないでくれ!」
「突っ込んだらお前の魔法に巻き込まれるだろうが! ゲイリーは俺が離れるまで大人しくしてろ!」
「二人とも、もうオーガ来てる」
全く、こんな時まで軽口を言えるゲイリーの神経には、本当に呆れかえるぜ。
フェンの相変わらず女みたいな声でオーガの方を見ると、オーガは既に手に持った棍棒を振り上げている所だった。
振り下ろされた金棒をギリギリの所で躱す。身体能力を魔力で強化してなかったら、躱すことも出来ずにペチャンコになっていた。
「あっぶねーな! フェン、言うならもっと早く言ってくれよ!?」
「ぶぅ……間に合ったから良いでしょ? そもそも、戦ってるのにお喋りしてる方が悪い」
何も言い返せない。
「ぐぅっ! と、とにかく、俺が抑えるから二人は作戦通りにな!」
「分かってるって」
「りょうか~い」
軽い返事を返してきた二人に一抹の不安を感じるが、魔法だけならこの二人はクラスの中でも上位の実力を持っている。ここは二人を信用して任せるしかない。
俺たちは不測の事態でも対応するために、グロウ先生から様々な作戦のパターンを教えられている。実戦で使うのは初めてだけど、授業通りにできれば俺たちでも十分にダンジョンのボスとだって戦えるはずだ。
「まさか俺があの上級ダンジョンのボスと一騎打ちすることになるなんてなぁ! 燃えて来たぜ!」
グロウ戦の授業を受けてから、俺たちは格段に強くなれた。このダンジョンは俺たちの実力を見るのに丁度良い。
正直、グロウ先生とか強すぎてどんなに実習で挑んでも負けるから、成長が実感し辛いんだよな……
「グルァッ‼」
金棒を躱されたことで怒ったのか、巨大なオーガは更に発達した筋肉を膨張させて、金棒を横に薙ぎ払った。
攻撃を受け止めることは出来ない。
幾ら魔法で筋力を強化したって、人間とは比べ物にならない程の力を持つオーガに、ただの子供である俺が勝てる訳が無い。それが出来るのはグロウ先生か、明らかにそこら辺の魔法剣士よりも圧倒的に強いエリカ先生やシルト騎士団の騎士様くらいだと思う。
何故かグロウ先生たちと同じパーティーにいるナケアや、親が居ないので引き取って育てていると言うルピナも出来そうな気がするけど、流石にこれは気のせいだろう。気のせい、だよな……?
そんな事よりも、俺は咄嗟に上へ跳び上がりオーガの攻撃を躱す。どんなに強い攻撃も、当たらなければ何ら怖くはない。
全く、希望者参加型のグロウ先生主催『格上の魔物からひたすら逃げ続けてとにかく生き延びる訓練』を受けておいて良かったぜ。
あの時のグロウ先生、何発もの上級魔法を発動して街の近くにある森の一角を丸々消し飛ばした挙句、その時の魔法で出来たクレーターの底から地下水が溢れ出して街にもう一つの湖を作り出していたけど。
よくよく思い出してみれば、良く俺生きていられたな……
「もう、また考え事して……」
「当たらないから良いだろ?」
「まあ、その程度の攻撃に当たるようなら、今頃授業で死んでるだろうな」
それが全く冗談じゃないから笑えない。
他のクラスの生徒は強くなった俺たちを見て羨ましいと思っている様だが、座学はともかくグロウ先生の実習で常に笑っていられるのは、ナケアとルピナ、それとシュティーくらいの者だ。
まあそのお陰で、こうしてダンジョンのボスと戦えるだけの実力を持てたんだから感謝してるけどね。
「逃げ回ってるだけじゃ倒せないよ~?」
「うるせえ! フェンは俺に出来るだけ付与魔法の効果を上げろ! ゲイリーはいつまで見てるつもりなんだよ!」
「しょうがないな。そろそろ仕事するか」
「はいよ~ 【付与魔法:加護の水泡】」
フェンの魔法で、俺の周りに薄い水の膜が張られた。この水泡は中々割れず、水泡が割れない限り俺の魔力と筋力が上がる。
それに少しだけ防御力もあるとても便利な魔法だ。
俺は剣に炎を纏わせると、オーガに向かって走り出す。巨大なオーガに向かって行くのはかなり怖いが、グロウ先生に向かうよりは断然マシだ。
オーガの近くに行くと、オーガのまるで血の様な深紅の皮膚が恐怖を更に掻き立てる。血走った目で睨みつけられるたびに足が震えそうになったけど、探知魔法であのオーガはエリカ先生よりも弱いことは分かってる。
こんなに恐怖る様な相手じゃ無い筈なんだけど、これは何かの魔法だろうか?
オーガの攻撃を躱しながら、俺はオーガの弱点を探る。あのぶ厚い皮膚を俺の剣で斬れる気はしないし、やっぱり大体の生物の弱点である目を狙うか。
攻撃を躱していると、怒っているのかオーガの攻撃がどんどん速く、単調になって行く。この程度の攻撃なら、集中してなくてもどうにかなるな。
「ゲイリー、三秒後にぶっ放せ!」
「はいはい」
オーガの攻撃をかいくぐり、一秒でオーガの懐に入る。一瞬で込められる魔力を出来るだけ剣に込めると、一気に纏っている炎の火力を上げた。
「【炎刃】最大火力! 焼け斬れやがれ!」
身の丈の倍以上まで伸びた炎の剣身を、オーガの目に叩き付ける。俺は剣を叩き付けた反動を使って後ろに跳ぶとその瞬間、轟音を轟かせながらオーガの頭上に雷撃が落とされた。
「ありゃ、魔力を温存しすぎたか? やっぱりフェンと順番逆だったんじゃない? 仕留めきれなかった」
「もう、結局こうなる……しょうがないな~【うぉーたーきゃのん】」
眠そうなフェンの声とは裏腹に、猛烈な勢いで水流がオーガに向かって発射される。フェンの水流で、オーガはこの洞窟の壁にまで押しやられる。
その時に丁度、フィオナたちの方に向かった大きな蛇の魔物も飛んで来た。
あの蛇の魔物は、体の大部分が燃えて焦げているがまだ生きている様だ。オーガの方も、俺たちの攻撃を受けてもまだ生きていた。
でもこれで良い。俺たちでボスを倒せればそれでも良かったけど、まだこのクラスで一番攻撃力のある二人が残っている。
俺たちは今まで戦闘に参加せず、ひたすら魔力を練っていた二人の方向に顔を向けた。
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