53 火葬
投稿が滞ってしまって申し訳ございません。
風邪の後に胃腸炎になってました……。
だからこの時期に熱が出るとビビるからやめて?
ルピナの放った魔法が、先行するエリカを追い抜いてストムベールに直撃し、大規模な爆発が起きる。その攻撃を見たグロウは、エリカと入れ替わるように即座にその場から離脱した。
グロウと入れ替わりで、エリカが両手に剣を持ちストムベールの目の前に立つ。
「グロウさん、後は任せてください!」
「ああ、任せる」
グロウはエリカに一言言うと、そのままナケア達の集まっている場所の少し後ろに降りた。グロウもタマモと同じく、完全に傍観する構えだ。
グロウが降りてくるのとほぼ同時に、ナケアが両手を横に広げて魔法を発動させた。
【付与魔法:全能力上昇】
ナケアの両手の先から、誰が見ても超高度な魔法だとひと目でわかるほど複雑な魔法陣が展開される。すると、上空でストムベールの攻撃を引き付けつつ戦っているエリカの動きが、格段と良くなった。ソフィアの魔法ではストムベールの攻撃を回避する事で精一杯だったエリカが、徐々反撃ができるようになっていた。
「私の付与と、格が全く違う……⁉︎」
ナケアの隣では、自分も付与魔法を使っているソフィアが、今日で何度目かも分からない驚愕の表情を浮かべる。人とドラゴンの違いが、その身をもって実感しているグロウは当然だと思いはするが、何も言う事はない。聖女であるソフィアは、人間の中では最も補助系に秀でる聖属性魔法の使い手だろう。つまり、今までは自分よりも優れた聖術士を見た事なかったに違いない。しかし、だからこそ競う相手がいなければ、ソフィアの魔法はもう限界だと、これ以上はあり得ないと感じていた筈だ。
だが、上には上がいる事を知る事で、魔法はどこまでも道が続いているのだと気付かせることによって、更なる高みを目指せるようになる。実際には種族差という絶対的な壁があるのだが、何も言わなけれソフィアが気付く事はあるまいとグロウは考えていた。
グロウがそんな事を思っているとは知らずに、ソフィアははグロウの思惑通りにこれからも頑張ろうと心を新たにする。
「ルピナも、おてちゅだい、するです! 【空気砲】!」
ナケアの魔法によって明かに状況が変わったのを見て、ルピナも魔法を発動した。ルピナから放たれた、超圧縮された空気の塊が音を置き去りにしてストムベールに飛来する。そしてルピナの放った魔法がストムベールの頭に直撃すると、圧縮されていた空気が一気に解き放たれ、ストムベールの体を暴風が包み込んだ。
一気に解き放たれた空気は、ストムベールの周囲に幾つもの小さな竜巻を発生させる。低ランクの魔物ならば、数秒も保たずに暴れる風にその身を切り裂かれて死滅するであろうその魔法は、しかしストムベールを傷付けるには至らずに、ストムベールの羽ばたきひとつで掻き消されてしまった。
「そんな、ルピナちゃんの魔法でも傷一つ付かないなんて! でもさっきの炎は効いていた筈……ッ⁉︎」
暴風を間近で見ていたエリカが、口に手を押さえて驚愕している。エリカ達は、ストムベールが元々『嵐龍』と呼ばれた、風属性を司る上位のドラゴンであり、風属性の攻撃は如何なる攻撃であろうと無効化される事を知らない。
よって、魔法の耐性を見せられたエリカはストムベールを一層警戒した。そしてストムベールは、怨念が込められた禍々しい目をルピナへと向ける。今までストムベールに攻撃を当てたのは、グロウを除けばルピナだけだ。いつの間にかストムベールの標的はルピナに変わっていた。
「グァアアアアッ‼︎」
「ひっ⁉︎」
ルピナはストムベールの禍々しい殺意を受けて、小さな悲鳴を上げる。しかしストムベールは気にする様子も無く、骨でできた翼を広げて空中で翼を打つと、ルピナ以上の暴風を巻き起こした。そして巻き起こした暴風をルピナへと叩きつける。
「させません!」
ストムベールとルピナの間にエリカが立ち塞がり、退魔の剣の振り上げる。ナケアとソフィアの付与魔法も合わさり、猛烈な威力で暴風を切り払った。
「はぁああッ‼︎」
そしてエリカはそのまま自分の剣に、切れ味を上げる効果を持つ“水刃”を付与してストムベールに斬りかかる。今度は風属性の魔法ではないので、弾かれる事なく刃がストムベールの翼の先の骨を断った。
骸となっても痛覚はあるのか、ストムベールは上空で暴れだすと、バランスを崩して地上に派手な音を立てながら墜落する。
「ルピナちゃん、風以外の魔法を使ってください!」
「ほう」
グロウは、この短時間で風属性の効果が無いと気がついたエリカを称賛する。さっきの“水刃”は、他の属性ならば通用するのか、確認する為でもあったのだろう。
ルピナはエリカに言われた通り、今度は炎属性最高位の魔法である“地獄の業火”を発動させる。魔法陣からストムベールが丸々入ってしまう程巨大な炎が現れ、骨の大地に落ちたストムベールを骨の大地ごと焼き払った。
そこら中から骨の焼けた匂いが漂い、炎の通った大地はどこも例外なく融解して赤く焼けている。大地に転がる骨の隙間から白い煙が立ち上っていた。爆煙が晴れると、中からストムベールが姿を表す。体を至る所から煙を出し、溶けた骨が歪に歪んだ姿でも、何かに突き動かされている様にストムベールは無理やり動いてエリカ達に対峙した。
「ダメージは、あるみたいですね。このままいけば押し切れそうです!」
間髪入れずにエリカがストムベールに向けて走りだす。付与魔法により身体能力が底上げされ、音速を超えたことによる衝撃波が辺りの骨を散らし、近くに出現した不死魔を倒していく。地面にくっきりと足跡が付く程強く踏み込んだエリカは、二本の剣に魔力を込めて思いっきり立ち上がろうとしているストムベールを切り裂いた。
ストムベールの頭蓋骨が三つに割れる。
「これでどうですか!」
更にエリカは着地中に何度も骨でできたストムベールの体を斬り付け、自立が不可能になるまで肋骨や足の骨を切断した。
骨が支えられなくなれば、体はどんどんと崩れて行く。ガラガラと音を立てながら、ストムベールの体は崩壊を始めた。
これで起き上がられたら、もうこのドラゴンをグロウ抜きで倒す術を思いつかない。お願いだからもう眠ってと祈りながら、エリカは崩壊して行くストムベールを見つめていた。
「た、倒したの?」
エリカに付与魔法を付与し続けていたソフィアが、怯えながらそっとストムベールの様子を確認する。
その様子を見ていたグロウは、心の中で「あーあ」と嘆息した。グロウは経験から、この場面でその様なセリフを言った冒険者が次にどうなるのか、なんとなく予想できてしまったからだ。
グロウの予想した通り、崩れたと思ったストムベールの骸が、ものすごい速度で組み上がっていった。数秒で元通りに組み上がったストムベールを見て、最も近くにいたエリカと、フラグを立てた張本人であるソフィアが目を見開く。
「まだ動くんですか⁉︎」
一度倒したと思って油断してしまったのか、二人の付与魔法が切れている。あの状態ではストムベールの攻撃を受けることは難しいだろう。
そう判断したグロウは、一瞬だけ自分に掛けている【龍人化】の魔法を解除した。
【不滅業火葬】
周囲でグロウの姿を見ることが出来たのは、タマモとナケアだけだっただろう。一瞬未満の時間でソフィアからは死角となるストムベールの後ろに回り込んだグロウは、自分で開発した固有魔法を発動する。
その瞬間、ストムベールの体がルピナの魔法とは桁違いの熱量を持つ炎に包まれた。炎は無機物すらも可燃物へと化して、永遠と燃え続ける。魔法を唱え終わったグロウは、自身にもう一度【龍人化】の魔法を唱えると、ナケア達のいる場所まで戻ってきた。
「中々骨のある奴だったな」
グロウは、周囲が白けたのは、いきなり燃え出した(と思われている)ストムベールのせいだと自分に言い聞かせた。




