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51 古墓の怨念

実質春休みが一ヶ月延びた∑(゜Д゜)

皆さんも病気にはくれぐれもお気をつけください!

 古墓の東側に到着したエリカとルピナは、グロウに言われた通り、探知魔法で周囲の調査を始めた。


「お姉ちゃん、あっちにがいこちゅ()がいたの」


腐死体(ゾンビ)食屍鬼(グール)もいる様ですね。高ランクの冒険者さんって、いつもこんな危険な依頼を受けているんでしょうか?」


 この依頼は長期の調査を前提としている為、この依頼の報酬はかなりの高額に設定されている。通常ならば、この依頼の達成した時点で、数ヶ月は生活できるだけの報酬が手に入るのだ。もちろん、幾ら高ランクの冒険者でも、こんな依頼を頻繁に受けている訳では無いのだが、既に大分一般と感覚が離れていたエリカがその事に気づく事はなかった。


 二人はあちらこちらから出てくる魔物を討伐しながら、中心に向けて歩いていく。魔物はCランクのスケルトンに、同じくCランクの腐死体(ゾンビ)、C +の食屍鬼(グール)が主に出現していたが、エリカの斬撃にルピナの魔法の前には何も出来ず、本物の死体となって骨で出来た大地の一部と化した。


 本来、不死魔(アンデット)はその名の通り不死に近い再生力を持っており、ただの斬撃や魔法では直ぐに再生してしまい、討伐する事は難しい厄介な魔物なのだ。だが、エリカの振るう“陽光の剣”は不死魔(アンデット)が苦手とする陽の魔力が込められており、不死魔(アンデット)達は思うように再生出来ずに斬り伏せられていた。


 そしてルピナは、エリカの隣で強力な炎魔法を放ち、不死魔(アンデット)が再生不可能になるまで容赦なく消し炭になるまで焼いている。


「ルピナちゃん、そんなに魔法を連射して、疲れて無いですか?」


「まりょきゅ()はタマモちゃんからもりゃってるから、へっちゃらなの」


「そうなんですか? でも、ルピナちゃんはまだ小さいんですから、無理は良くありません。そろそろ一度、

 休憩にしましょうか」


 エリカはそう言うと、持っていたバックからクッキーとコップを取り出すして、目を輝かせているルピナに手渡した。そして周囲に結界を張ると、首に下げていた水筒から温かい紅茶を取り出したコップに注ぐ。


 周囲が骨と悍ましい姿の不死魔(アンデット)に囲まれているにも関わらず、結界内には和やかな午後の一時が流れていた。


 結局、二人の歩みを止める事が出来たのはおやつの時間だけであり、その後は二人の歩みを止める事の出来る魔物が出現する事なく、調査は順調過ぎる程に進んでいった。



 ◇



「全く、何故妾までこんな雑用をせねばならんのじゃ!」


 それぞれが四方から調査を開始した頃、南に向かった子狐状態のタマモは、グロウの文句を言いながらも言われた通り調査を開始していた。


「厄災たる妾が人間の営みを助けようとは、嘆かわしいのぅ」


 元々は人々から信仰を集める神獣の一柱であったタマモは、今や世界の厄災と言われる霊獣に変質しているとは言え、不死魔(アンデット)を浄化する神術を扱う事ができる。タマモはグロウの言いなりになっている鬱憤を晴らそうと、神術により作られた聖域を加減する事なく広範囲に放出していった。


 霊獣は人類に仇なす存在ではなく、寧ろ加護を与えたり他の動物を統率して自然界を管理する霊獣も多いのだが、タマモは人類に協力する事を嫌っている。もしグロウが人間のままであったなら、今度は逃げに徹して今頃何処かでグロウから隠れ住んでいた事だろう。


 人間であった頃のグロウでは、タマモを滅ぼすのなら相応の準備が必要になる。それはグロウが人間である為、扱える魔力には明確な限界があり、その限界値ではどうしようともタマモを滅ぼす事が出来ないからであった。


 つまり封印にさえ気をつけて居れば、如何にか逃げる事は出来ていたのだ。


「奴が龍なんぞにならなければ……‼︎」


 だが、久しぶりにあったグロウは、神獣であったタマモすらも超越する上位のドラゴンになっていた。前世では滅ぼす事が難しかった為に封印と言う手段を取ったグロウだが、今や純粋な力の勝負でも必敗する相手となってしまったのだ。人間の時でも勝てなかったタマモが、今のグロウに勝てる道理はない。


 今逃げ出せば、本来格下である魔王(ルピナ)の召喚魔法で呼びだされ、グロウに滅ぼされて死ぬだけだ。タマモが自由になるには、あのグロウを先に倒すしかない。


「と言うか、今の彼奴を滅する事が出来る者など、いる訳ないではないか‼︎ それこそ神でも、彼奴を倒せるとは思えんぞ‼︎」


 タマモはヤケクソ気味に叫び、自分の視認できる全ての範囲を神術により作り出した聖域で囲うと、範囲内の不死魔(アンデット)全てを一瞬で浄化させた。


 浄化された不死魔(アンデット)の中にはB +ランクの首無し騎士(デュラハン)が居たのだが、タマモにとってはその辺の雑兵と変わらず、纏めて一斉に浄化される。


「まあ、今の生活はそれなりに楽しいのじゃがな……もう暫くは、一緒にいてやろうかの」


 周囲の不死魔(アンデット)を全て浄化して満足したのか、タマモは少しだけ頬を赤らめて、誰にも聞こえない様に小さく呟いた。


「うん? 何じゃ?」


 その時、タマモの探知範囲に何かが触れた。タマモは意識を集中させてその何かを追跡しようとしたが、タマモの聖域を恐れたのか、その何かは直ぐき何処かへ消えてしまった為追う事が出来なかった様だ。


 直ぐに逃げたが、タマモですら見失うほどの生物。それは、相当な力を持つ生物であると予想される。


彼奴(グロウ)め、あの邪悪な笑みはコレが理由か」


 その存在を感知したタマモは、この場所に来た時のグロウの邪悪な笑みを思い出して、あのお人好しそうな少女(エリカ)へ静かに同情の念を抱くのだった。



 ◇



 古墓の西側からは、ナケアとソフィアの楽しそうな声が聞こえていた。


「あ、本当に魔道具があった!」


「ふっふっふ、すごいでしょ! ボクの探知魔法!」


 ナケアに指示された場所を探していたソフィアが、まだ使えそうな魔道具を見つけて目を見開いていた。その魔道具は、魔力を込めれば無限に水が出てくると言う水筒だ。


 売れば一生金に困らずに生活できるくらいの価値がある魔道具を見つけて、ナケアはエッヘンと自慢気に胸を張る。


「その魔法って、どうやったら使える様になるの?」


「えっとねぇ、確か自分の魔力を周囲に薄く広げる感じで放出するってお兄ちゃん言ってた!」


「貴方のお兄さん、よくそんな事思い付いたわね……今の魔法技術なんて、如何に魔法の詠唱を短くするかで躍起になってるって言うのに、無詠唱でそんなに魔法を使われたら、今の魔法研究者の立場が無いわ……」


 楽しそう? な声を響かせ、ナケアとソフィアは埋もれている魔道具も見つけつつ、周囲の不死魔(アンデット)も浄化していく。と言うよりも、聖龍であるナケアの周りは常に聖域となっている為、不死魔(アンデット)はナケアに近づいた瞬間浄化されていった。


【聖魔法:聖女の浄化(プリフィケーション)


 そしてソフィアも、いつもとは数段威力の上がった浄化魔法を放ち、辺りの不死魔(アンデット)を次々と浄化していく。


「それにしても、今日は魔法が凄く調子良いわ! どうしてかしら? 今までこんなに魔法を使えた事なんて無かったのに?」


「どうしてだろうね?」


 二人は顔を見合わせて、首をこてんっと傾ける。それは隣に聖属性の最上位種である『聖龍(ナケア)』がいて、ソフィアは聖の魔力ととても相性の良い聖女であったため、知らない内に『聖龍』の加護を受けていた為だが、その事を二人が知るのはもう少し後の事だった。


 二人は他の四人と同じ様に、中心に向けて進んでいく。途中でソフィアはナケアに魔法を教わりながら、教わった魔法を周囲に出現した不死魔(アンデット)に試していった。


 二人はまだ気がついていないが、『聖龍』の加護によりソフィアはいつでもナケアから人間の感覚では無尽蔵と言える魔力を貰う事が出来る。いつまで経っても減る事の無い魔力を疑問に思いながらも魔法を放ち続けたソフィアは、全員と合流する頃には無詠唱で完璧に魔法を発動できる様にまでなっていた。




 そして全員が四方に分かれてから数時間後、全員がそれぞれの姿を視認する事が出来た辺りで、その魔物は全員の合流予想地点に姿を現した。


 骸の大地から、次々と骨が浮き上がっていく。六人がそれぞれ警戒態勢をとるも、予想していなかった四人は積み上がっていく骨を見て言葉を失っていた。


 グロウはその望み通りの姿を見て、僅かに口を歪める。この地は、嘗て一匹のドラゴンによって滅ぼされていた。その理由は、ドラゴンすらも操る高度な記憶改竄魔法により、ドラゴンの記憶を改竄した結果、その記憶改竄を受けたドラゴンが怒り狂い、殺戮の限りを尽くしたからだと言われている。


 そしてその都市を滅ぼしたドラゴンは、その後どうなったのか定かでは無い。グロウの見た文献では、そのドラゴンは都市を滅ぼした後、不完全な記憶改竄魔法により自我を失い、コントロールを失った自分の魔力により貫かれ、この地を呪いながら死に絶えたとされていた。


 そのドラゴンが今もこの地を呪っているのなら、この骸だらけとなった死の大地が形成されるのも納得できる。そして、ドラゴンがその様な死に方をした場合どうなるのか、前世で何度かドラゴンと戦った事のあるグロウは知っていた。


 骨が徐々に組み上がり、一つの形を成していく。骨は出来上がったばかりの翼を広げ、窪んだ目のあったであろう場所には紫色の光が灯る。


 骨は組み上がった瞬間に口だった場所を大きく開き、棒大な魔力を噴出して怨念の様な声で悍しく咆哮した。


 六人の前に現れた魔物の名は“邪骸龍ストムベール”


 嘗ては“嵐龍ストムベール”と呼ばれた、神と同等の力を持つと言われる上位龍の一柱である。

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― 新着の感想 ―
[一言] タマモの立ち位置が良くわからん。霊獣なのか神獣なのかが?。それとも、タマモは親が霊獣と神獣の子供だから、霊獣でもあり神獣なのかな。
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