40 ダイナミック帰還
遅れてしまって御免なさい!
「それで、どうしてグロウさんはダンジョンに行ったんですか? グロウさん程の人が、態々足を運ぶんですから、何か凄い物が有ったとか?」
グロウが今までの成り行きを説明し終わると、ナケアの興味はタマモに移り、エリカは目を輝かせてダンジョンについてグロウに質問して行く。
「ああ、あのダンジョン、無限迷宮エターナルには神の創造物と言われる剣、“神剣”が眠って居ると言われていた。俺はその神剣を手に入れる為に、無限迷宮エターナルへ入ったんだ」
神剣と言う言葉を聞いた瞬間、エリカがこれでもかと言うほど目を見開いた。
「神剣って、あの遥か昔、この星の誕生と共に神から授けられた神器の一つである、あの神剣ですか⁉︎」
神器とは、エリカが言った通り、この星が誕生したと同時に、この世界の秩序を守る為に齎された、強大な力を秘めている道具のことだ。その神器が、この世界には未だ未発見で何処かに存在している。神器の数は不明だが、グロウの前世では、槍、宝珠、杯の三種類の神器の破片が発見されていた。
そして、その神器は破片と言えど、どれも人では及びもつかない力を秘めていたのだ。その強大な力故、度々戦争にも利用され、戦争にも駆り出された事のあるグロウも、神器の破片を持った相手と幾度か戦った事もある。
「そうだ。その神剣だ。俺が入り、そして死んだダンジョン“無限迷宮エターナル”のボスが、その神剣の破片を持っているらしい。いつかはもう一度、あのダンジョンに挑戦したいものだ」
「グロウさんでも攻略出来なかったダンジョン……とてつも無いですね……」
エリカがゴクリと生唾を飲み込む。グロウが死んだ理由は、ダンジョンではなくただのうっかりなのだが、上手く勘違いしてくれたらしい。
それでも、無限迷宮エターナルが危険な場所である事は変わらず、もう一度ダンジョンに挑むにしても、グロウ一人で行くつもりなので、エリカの緊張は無駄になるだろう。
「妾を封印しよったグロウが、たかがダンジョンで死ぬ訳無かろう。大方、準備を忘れてのたれ死んだんじゃ無いのかの?」
二人が話していると、その話を聞いていたタマモがナケアとルピナを連れて近づいてきた。この短時間で、タマモは子供二人から随分懐かれた様だ。こちらに来る間にも、タマモはナケアには耳を、ルピナには尻尾をモフられていた。
世界から厄災と恐れられたタマモが、今は子供の遊び道具になっているのだから、この世の中分からない。エリカはその様子を見て、自分も触りたそうにしていたが、図星を突かれたグロウがタマモを睨みつけた事により、タマモが耳と尻尾を隠した為触る事が出来ずに肩を落とした。
「取り敢えず、これで俺たちの依頼は達成だな。思わぬ副産物も手に入ったし、そろそろ帰るか」
グロウが上を見上げると、既に日は大きく傾き、空は赤く染まっていた。もうすぐ夜の闇がやってくる。危険な生物が蔓延るこの森で野宿するのは、グロウやタマモ、冒険者であるエリカは兎に角、ドラゴンでも子供のナケアやルピナは辛いだろう。
今の時間でも、急げば泊まっている宿が閉まる前には帰る事が出来る。タマモは明日、グロウ達の故郷に案内すれば良いだろう。
「でもグロウさん、今から帰るとなると、かなり無理する事になりませんか? 行きは私達がルピナちゃん達をおぶって走って、数時間かかりましたよね? でも今はタマモちゃんもいますし、私も魔力が余り無くて、夜道に警戒しながら走るのはちょっと厳しいです……」
グロウが帰り道に向かって歩き出すと、エリカが申し訳なさそうに手を上げた。エリカの魔力を見てみると、確かに魔力が心許ない。魔力はナケアに回復してもらっても良いが、精神的な疲労は回復させる事が出来ないので、視覚に頼れなくなる夜道を全力疾走するのは危険だ。
「そうか、それなら別の方法を取るとするか」
「別の方法?」
エリカが首を傾げる。その様子を見て、いつもの様にニヤッと邪な笑みを浮かべたグロウは、自分に掛けられていた魔法を解除した。
鬱蒼とした森の中に、鮮やかな深紅の鱗を纏うドラゴンが出現する。タマモは呆れて、ナケアは普段通りに笑みを浮かべて、エリカとルピナは初めて見るその姿を見上げて口を大きく開けて驚いていた。
「あのグロウが上位のドラゴンになるとは、この世で最も組み合わせてはならぬ組み合わせなんじゃがのう。一体誰がこんな事をしでかしたのじゃ?」
「お兄ちゃんカッコいい!」
「ナケアちゃんのは何度も見ましたが、グロウさんのその姿は初めて見ました。本当に大きなドラゴンさんですね……」
「おっきいの……」
「ふむ、久しぶりにこの姿になったが、やはり羽を伸ばすと心地良いな。それと、認識阻害系の魔法を使っているから、俺の姿はお前達にしか見えない。これで全員を街まで運べるぞ」
ドラゴンとなったグロウは、全員が登りやすい様に頭を下げる。すると、まずはグロウに慣れているナケアが頭の上に登り、その次に魔法で浮かび上がったタマモが、驚いて固まっていたエリカとルピナも浮かせて、グロウの頭に登った。
全員が登った事を確認すると、グロウは頭を上げて翼を羽ばたかせる。周囲には暴風が巻き起こり、運悪く近くに生えていた木々は薙ぎ倒されてしまった。しかし、頭の上にはグロウが結界を展開しており、結界の中は外の影響を殆ど受けていない。
徐々にグロウの体が浮き上がっていく。十分に高度を上げると、グロウはセルゲンレイクのある方角に向けて飛び出した。
「ぐ、グロウさん、速すぎじゃないですか⁉︎」
「あはは、流石お兄ちゃん! 速〜い!」
「もう、森があんなに小さくなった……」
「本当に、この組み合わせは反則じゃろう……」
グロウの頭の上では、それぞれがそれぞれの感想を言っている。ドラゴンの姿となったグロウは、上に乗るエリカ達を考慮して速度を落としているが、それでも地上を全力疾走するより余程速い。
飛び立ってから一時間も経たずに、セルゲンレイクの街が見えてきた。そろそろ降りた方が良いだろうと、グロウが徐々に速度を落とし始める。
「イタッ⁉︎」
「? グロウさん、どうしたんですか?」
「いや、そろそろ降りようかと速度を落としていたら何かにぶつかってな。中々の速度で飛んでいたから回避が間に合わなかった」
「そうですか、鳥か何かでしょうか?」
「俺に痛みを与える程の速度で飛ぶ鳥か? 余り思いつかないが、それよりも、いつもの森の上空で人間に戻るから、着地の準備を始めてくれ」
グロウが頭でセルゲンレイクを示す。その方角に見える見慣れた街を見て、頭の上で遊んでいたナケア達を近くに呼んだ。
この周囲は森に囲まれており、巨大なドラゴンが着地できる場所が無い。エリカ達なら木に当たるすれすれの高度まで降りれば、問題無く着地できる。
グロウは空中で当たった何かの事など既に忘れて、いつも勉強している、森の中で少し開けた場所の真上に到着したので、自分の姿を人間に変えた。
五人の人影が宙に放り出される。
「「きゃあああああ‼︎」」
「あはははは‼︎」
エリアとルピナの悲鳴と、ナケアの楽しそうな笑い声が、夜の空に響き渡った。




