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31 Cランクになった

 シルト騎士団とはフェルゴ王国の誇る猛者を集めた騎士団であり、団長や副団長は軍の将軍位に相当する権力を持つ。騎士団の団員と言うだけでも部隊長程度の発言力を有し、給料も高く生活は一生保証され、若者を対象としたアンケートでは、なりたい職業ランキング第一位に三十年間輝き続けている。

 シルト騎士団の団員になることは、この国で活動している冒険者や実力者にとって目標であり、憧れでもあるのだ。

 更にシルト騎士団は他国でもその実力が評価されており、面倒関所での検問や一部税金の免除などお得な特典が沢山付いてくる。


「そう言う訳でグロウ君、騎士団に入団しませんか?」


「断る」


 騎士団に入団すればこんな事やあんな事が等々、様々な利点を挙げてはグロウを勧誘するリリーと、勧誘を断り続けるグロウの言い合いは暫く続いていた。


「グロウ君も強情ですね~」


「アンタもな」


 リリーは肩を竦めてため息を吐き、漸くグロウへの勧誘を止める。すると次はエリカの方へ向かい、同じように勧誘していた。


「エリカさんも、騎士団に入団しませんか?」


「えっと、私はグロウさんの弟子ですから、グロウさんが入らないのなら私も入りません」


 エリカもリリーの勧誘に首を横に振る。勧誘を断られたリリーは、可愛らしく頬を膨らませた。


「普通騎士団からの勧誘なんて断りませんよ? 二人の実力なら直ぐに副団長になれるのに勿体無いです。何か騎士団に入れない理由でもあるんですか~?」


「理由、そうだな……俺とナケアは最近こっちに来たばかりなんだ。暫くは色々な場所を自由に見て回りたい。まだ何処かに所属する気は無いんだ」


 グロウが理由を言うと、納得したのかリリーは再び笑顔を浮かべ、グロウ達から離れて騎士の二人の元へ歩いて行った。近くで話を聞いていたデューク達は騎士団の勧誘を断ったことに唖然としていたのだが、金にも権力にも興味の無いグロウには、騎士の役職などただの枷でしかない。


「残念、断られてしまったのですよぉ。お二人も今回のお仕事ご苦労様でした。後の処理は私がやっておきますから、二人は皆さんを送ってあげてくださいねぇ」


「了解しました」


 リリーが騎士の二人に指示を出すと、クライブがグロウ達の近くに魔法陣を描いた。このダンジョンに来る時にも使った転移の魔法陣だ。


「皆さん、この度はお疲れ様でした。依頼料はそれぞれギルドの口座に振り込んでおきますので、後ほど確認をお願いします。それでは皆様、魔法陣の上に乗ってください」


「あ、ごめんなさい。その前に一つ確認することがありましたぁ。グロウさん達は少し残ってもらってもいいですか? 勧誘では無いので大丈夫ですよぉ?」


 魔法陣をクライブが起動して、グロウ達が魔法陣の上に乗ろうとすると、リリーが特にエリカを見つめて声を掛けてきた。


 呼び止められたグロウ達は、不思議に思いながらも魔法陣から外に出る。デュークや他のメンバーはグロウ達に何度もお礼を言ってから、先に転移されて行った。


「それで、確認って何だ?」


 グロウが問いかけると、リリーは含みのある笑みを浮かべて、エリカを、より正確に言えばエリカの腕の中で眠る魔王を見つめて口を開く。


「エリカさん、どうして魔王がこの場に居るんですかぁ?」


「ッ!?」


 カキィンッと甲高い音が辺りに響き渡る。クライブ達とナケアは目を見開いて驚いており、エリカは焦った様子で陽光の剣を自分の腕の前に召喚していた。


 そしてグロウも絶壁の護身剣を陽光の剣と交差するように召喚し、二つの剣が交差している個所にはリリーの持つレイピアの切っ先が突き刺さっている。


「やっぱり無理でしたか……結構本気だったんですけど、自身無くしちゃいますねぇ」


「殺気を隠すのが上手いようだな。警戒していなければ、反応出来なかった」


「あらら~、警戒されちゃいましたかぁ? 差し障りなければぁ、何処からバレていたのかお聞きしてもぉ?」


「アンタここに来た時、冒険者の気配が幾つか消えてしまったから来たと言っていたな。あんたが来たのは俺たちがダンジョンを攻略した後だ。冒険者達がダンジョン内でどうなっているか、こんな短時間で分かる訳が無い。

 つまりアンタは、何かしら俺たちの動向を知る術があるはずだ。なら、魔王が今どこにいるのかくらい分かっていただろう。それなのに一度も反応を示さなかったから、おかしいと思っていたんだ」


「それ最初からじゃ無いですかぁ」


 ガクッと肩を落とし、レイピアを挙げてリリーは恨みがましそうな視線をグロウに向ける。グロウは当然だと腕を組み、魔剣を送還してエリカの前に立った。


「その判断力と先程の反応速度、やっぱり騎士団に入って頂けませんかぁ?」


「この状況で良く勧誘できるな……」


 呆れた様にグロウはそう呟きながら、視線だけはリリーの動きを見逃すまいと最大限の注意を払っている。先程の攻撃は、リリーがレイピアの柄に手を掛けていない状態で放っていた。それでも魔剣を一本召喚して、エリカを守ることで精一杯だったのだ。恐ろしく速いリリーの刺突は、もし完全に構えて放った時、グロウでも止められるのか分からなかった。


「まあ、報告は後でそこの二人から聞く事にしましょう。そんなに警戒されていては、そもそも私ではどうしようもないですしぃ」


 下げたレイピアを鞘に戻したリリーは、戦意を霧散させてダンジョンの入り口に向かって歩いて行く。そしてダンジョンの入り口の前に立つと、顔をグロウ達へ向けた。


「それでは皆さん、またお会いしましょうね?」


 そう言うと、もう振り返ることなくダンジョン内へ入って行く。クリア済みとは言え、まだ魔素の抜け切っていない『魔王城』にたった一人で大丈夫だろうかと、エリカは心配そうにその後ろ姿を見つめていた。


「いきなり殺しに来ていきなり去って行ったな……」


「リリーさん、凄い刺突でしたね」


 ダンジョンの入り口からエリカは手元に視線を移すと、まだ送還していなかった陽光の剣が握られている。魔剣の剣身は真ん中に大きく穴が穿たれており、直ぐにヒビが広がって折れてしまった。


 召喚した魔剣の強度は召喚主の魔力量、そして魔力の変換効率に比例してより強固になって行く。今のエリカなら、鋼鉄など遠く及ばない強度の魔剣を召喚出来ていたはずだ。幾ら剣が横からの衝撃に弱いと言っても、剣を折るのではなく貫くなど、人間の出来る技では無い。


「副団長の名は伊達じゃないという事だろう。奴も行ったことだし、俺たちも帰るか!」


「そうですね!」


「ボクお腹減った~」


 そんな一波乱が起きつつも、グロウ達はクライヴの準備した転移陣の上に乗り、セルゲンレイクの街へ転移したのだった。



 ◇



「帰ってきたー!」


「ナケアちゃん、走ると転んじゃいますよ!」


 転移の魔法による光が収まると、目の前には見慣れた街並みが広がっていた。朝に出発して、まだ日が落ち切っていない夕方に帰ってきたのだが、随分と久しぶりに帰ってきた様な懐かしさを覚える。


 セルゲンレイクの入り口へ転移して、待った先にナケアが街の方へ駆け出していく。ギルドへの報告があるからと、騎士の二人も一緒に転移してきていた。


 ナケアを追って魔王を含めた五人も街の中へ入りギルドへ向かう。グロウ達がギルドへ到着すると、騎士の二人はギルドマスターの元へ報告に向かうために、一旦グロウ達と別れた。


「グロウさん、エリカさん、ナケアさん、今日はありがとうございました」


「この後は副団長へ報告があるからここでお別れだが、今度機会があれば飯でも奢るぜ!」


「今回の依頼は俺たちにとっても良い経験になった。また何かあれば呼んでくれ。都合が合えば駆けつけよう」


「お二人ともお世話になりました」


「またねー!」


 グロウ達は騎士の二人と別れると、依頼の達成報告を行うために正面の受付カウンターへ向かった。ギルド内にはまだあまり冒険者達がいなく、こちらに気付き手を振っていたナタリアの受付に行く。


「グロウさん達、今回もとんでもない依頼を達成した様ですね!」


「とんでもないかは知らないが、依頼は達成してきた」


 ナタリアに今回の依頼書を渡すと、ナタリアは「また世界救ってますよ……」と苦笑いを浮かべて手続きを進めた。そしてナタリアが依頼書を何かの魔道具に通すと、その魔道具が輝き出して近くのモニターに文字が浮かび上がる。


 するとナタリアは胸の前で手を合わせて「おおー!」と驚いた声を上げると、笑顔でグロウ達に振り向いた。


「皆さんおめでとうございます! 今回のご活躍で皆さんの冒険者ランクがDからCへランクアップしました! これで皆さんも、上級冒険者の仲間入りですね!」


 ナタリアは、まるで自分の事の様に両手を上げて喜んでいた。だがグロウとエリカは不安そうに顔を見合わせる。


「そうか、まだ依頼を殆ど受けていなかった様な気がするんだが、大丈夫なんだろうか?」


「他の上級冒険者の方々に、因縁とかつけられたりしませんよね?」


 意味が殆ど分かっていないナケア以外の二人は、今後起こり得る面倒事を想像して、何処か複雑な心境でランクが更新されて行く登録証を眺めていた。

明日はちょっとお休みします……

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