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30 副団長

 ダンジョンを攻略して外に出ると、その頃には眠っていた冒険者達も起きだしている。助けられた冒険者は前にいた五人だけだったが、助けた五人は涙を流して全員抱き合い喜んでいた。


「騎士様、この度は本当にありがとうございました!」


「気が付いたら俺たち倒れてて、絶対死んだとばかり……でもお陰て助かりました!」


「「「本当にありがとうございました!」」」


 冒険者達は騎士の二人にお礼を言っている。状況だけ見れば、国を守護する騎士様と得体の知れない冒険者、どちらが冒険者達を助けたと思うのか、冒険者達の反応は当然だろう。


「いえ、貴方達を救ったのは私達ではありません。そちらにいる三人が貴方達を救ったのです。寧ろ、私たちも何度も助けられました。貴方達を攻撃した魔物も、彼らが倒したのですから」


「そうだな! 礼を言うならあの三人に言う事だ!」


 騎士の二人が説明すると、冒険者達はゆっくりとグロウ達の居る方向へ顔を向けた。そしてその姿を見て、頭に疑問符を浮かべている。


 四人の内三人は少女で、剣を下げている少女も腕には眠っている子供を抱いており、唯一戦えるであろう男も手ぶらで武器を持っている様子が無い。装備も剣を下げている少女以外は革鎧すら着ていなかったので、ギルドで見ていなければ迷い込んだ一般人だと思っていたはずだ。


 どう見ても自分たちを助けてくれたとは思えない四人だが、騎士が言うのならそうなのだろうと、冒険者達は四人に近づいて行く。


「君たちが俺たちのパーティーを助けてくれたと聞いた。俺はこのパーティーのリーダーをやっている、デュークだ。ダンジョンでは本当にありがとう!」


 大剣を持った黒髪の男がグロウ達に頭を下げ、それに続いて後ろの四人も頭を下げる。全員が歴戦の冒険者と言った雰囲気を持つ冒険者達だと言うのに、見た目はまだ若いグロウ達に躊躇うことなく頭を下げたことにグロウとエリカは少し驚いていた。


「あんた達を治療したのはこっちのナケアだ。俺は何もしていない」


「そうですよ、ナケアちゃんが居なければ治療は出来ませんからね」


 二人がナケアに視線を向けると、ナケアが笑顔を冒険者達に向けた。ナケアを見た冒険者達は、一瞬目を見開いて驚いていたが、魔法は才能によるところが大きい。見た目以上に強力な魔法を使えることもある。直ぐに冒険者達は表情を引き締めると、改めてナケアにお礼を言う。


「お兄ちゃん、ボク褒められたよ! みんな元気になって良かったね!」


「ああ、そうだな」


 グロウが喜んでいるナケアの頭を撫でると、ナケアはより一層笑みを強める。その様子を見ていた冒険者達の聖術士と思われる女性が、まるで聖母の様な笑みを浮かべてナケアに話しかけてきた。


「本当に可愛い冒険者さんね。まだこんなに幼いのに、ダンジョンは怖くなかったの?」


「お兄ちゃんもお姉ちゃんもとっても強いから、ボクは全然怖くなかったよ?」


「二階では涙目になって無かったか?」


「な、なって無いもんっ!」


「うふふ、兄妹で仲が良いのね。私は聖術士のユーナ。ナケアさん、だったわよね? 私たちは全員致命傷を受けていたと思うんだけど、凄い治癒魔法を使えるのね?」


 ユーナと名乗った女性は、母性溢れる笑顔を浮かべながらしゃがみ込んでナケアと目線を合わし、嬉しそうにナケアの頭を撫でた。褒められたナケアも、腰に手を当てて得意げに胸を張っている。


「魔法はお兄ちゃんに教わったから得意なの!」


「あらあら、お兄さんも魔法を使えるの? まだ皆若いのに騎士様の依頼を受けていたから不思議に思っていたのだけど、魔法を使えるのなら納得できるわ」


 ユーナとナケアが楽しそうに話しているので、邪魔をしないようにとグロウはエリカの元へ少し移動すると、二人の元へ片手剣に丸盾を装備した剣士の男、弓を持った狩人(ハンター)の女性、そして大盾を背負い槍を持っている聖騎士が集まってきた。


「あんたが聖騎士の俺でも一瞬でやられた魔物を倒したんだってな! 本当によくやってくれた!」


「貴方達には本当に助けられました。まさかあんな魔物が居るだなんて……」


「剣が通る相手なら倒せたんだぞ……君たちが魔法を使えて本当に良かったぜ……」


 元々人柄の良い冒険者達だったのだろう。三人はグロウ達の手を取ってそれぞれ感謝の言葉を言っていった。


亡霊(ファントム)は魔法を使えない奴にとっては天敵だからな。今回は運が悪かった。そう気にするな」


「そうですよ、あまり気に病まないで下さい」


 助けたと言っても、あの魔物は魔法が使えればそこまで強力な敵と言う訳では無い。この冒険者達ならフロアボスでもそれなりに戦えていたはずなので、今回は本当に運が無かっただけなのだ。現代の冒険者や、練度の高い連携を見させて貰ったのだから、このくらいは当然だとグロウが言うと、三人は笑みを浮かべてもう一度「ありがとう」とお礼を言った。


「この借りは必ず返すから、何かあれば俺たちを頼ってくれ!」


「私たちはAランクの冒険者パーティーだから、色々と役に立てるはずよ?」


「この国の王都に拠点があるから、王都に寄ることがあれば遊びに来てくれな!」


 この冒険者達がAランクのパーティーだと知り少し驚いたが、グロウは借りならばと三人の勢いに押されて冒険者達の連絡先が掛かれたメモを受け取った。


 Aランクの冒険者は数いる冒険者達にとっては目標であり憧れだ。人脈も広く、その分様々な情報も多く入ってくる。更にこの五人は騎士から直々に依頼が来る程の実力者だった。未完成とは言え、最高難度のダンジョンを魔法に頼ることなく、一階層の最奥の部屋まで進んだのだから、その実力は折り紙付きである。この世界の情報に疎いグロウにとっては、これ以上ない収穫だった。


「何か困ったら頼ることにするよ」


「ああ、必ず力になろう!」


 リーダーであるデュークも話に混ざり、グロウはメモを収納魔法にいれる。するとデュークたちは目を丸くして、口をあんぐりと開けていた。


「どうしたんだ?」


「どうしたもこうしたも……今、メモを何処にやったんだ……?」


「何処って、収納魔法にだが?」


「どうしてそんな普通に収納魔法を使えるんだ……」


 いつもの癖で収納魔法を使い、収納魔法が失われた魔法だという事を忘れていたグロウは頭に疑問符を浮かべて首を傾げている。その様子をみてエリカが苦笑いを、デュークたちが呆れた様な表情をグロウに向けた。


「あら~? もうダンジョンを攻略してしまったのですか? 折角足を運んだというのに、無駄骨でしたね~」


 グロウ達が話していると、グロウ達の背後から足音と声が聞こえてくる。声が聞こえた方向へグロウがゆっくりと振り返ると、腰に美しい装飾の施されたレイピアを下げた長髪の女性が、優雅な足取りで歩いてくるのが見えた。


「あれは誰だ?」


 近くにいた騎士の二人に他に雇った冒険者か何かかと思ったグロウが問いかけると、騎士の二人は真剣な表情で手を体の横に揃え、深く頭を下げた。


「「お疲れ様です、副団長殿」」


「は~い、副団長ですよ。冒険者の気配が幾つか消えてしまったので、心配になって来てしまいました~」


 副団長と呼ばれた女性は、朗らかな笑みを浮かべながらグロウの前までやって来た。キメの細かいローズゴールドの髪が揺れ、花の様な甘く心地良い香りが鼻腔をくすぐる。身長はエリカよりも少し高いくらいなので、副団長は自然とグロウを見上げる様な形になったのだが、副団長がそれを気にする様子は無い。


「貴方がグロウ君なのですね? 話は聞いていますよ。私の部下がお世話になりました。私はシルト騎士団の副団長をしているリリー=マクファーレンなのですよ~。気軽にリリーとお呼び下さいね~」


 上目遣いのまま、リリーは常に柔らかな笑顔を浮かべて簡単な自己紹介をしてきた。その後にエリカやナケアにも同じように自己紹介をする。リリーは自己紹介を終えるとグロウの前へ再び移動して、右手を差し出して口を開いた。


「ところでグロウ君、騎士団に入団しませんか?」


「断る」


 一介の冒険者から貴族にも匹敵する権力と名誉を持つ騎士に入らないかという、有り得ない勧誘をグロウは迷う事も無く一瞬で断る。


 有り得ない事態が起き過ぎて理解が追い付かなくなった歴戦の冒険者達と騎士、そしてエリカは、理解を拒むようにただ笑顔で思考を放棄するのだった。

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