グラタンとオムライス。
目の前に座るお姉さんに、どうしてこんな事になっているんだろうと思いつつ、すぐに答えはでてしまう。
気付いてみたら、なんだか押し切られていただけだから。
「うーん、どうしようかしら」
爪先まで綺麗に整えているお姉さんは、私の向かいであごに手を当てて悩んでいる。
そのしぐさも大人の女性、というものを私に感じさせて。
何だかやっぱり、落ち込んでしまう。
今日は考えないようにしようと目を逸らしていたけれど、その時々で浮かんできては悩んでた。
その元となった人だから、どうしても紘太先輩の事、私自身の事を考えてしまい。
その上で、よく分からないままにただ何だか落ち込んでしまうのだ。
やっぱり、紘太先輩は綺麗で大人なこんな人が好きなのかなとまでは思うけれど。
どうしてそれで落ち込んでしまうのかは分からない。
悩んでいる私に、また別の事で悩んでいたお姉さんが声を掛けてきた。
「決まった?」
お姉さんに押し切られるままに相席することになった私は、まだどれにするか決められなかったので。
見ていたメニューをお姉さんにお先にどうぞと差し出しすと、お姉さんがじゃぁ一緒に見ましょうと、二人で見やすいようにテーブルの上に横向きに置いてくれて。
それを覗き込むように見ていたのだけれど、いつの間にか視線をお姉さんに向けて別の事を悩んでいた事に、お姉さんの声でやっと気付いた。
ので、当然まだ決まっていないメニューに慌てて。それでも二つに絞っていた候補で悩む。
「あ、いえ。えっと、これかこれで悩んでて」
ブロッコリーも入ってて、上にかけられたあつあつのチーズがとろけるニョッキのグラタンか、ドミグラスソースのかかった卵が、とろとろしているオムライス。
どっちもランチセットにあって、他にサラダとスープとドリンクもついてくる。
グラタンとオムライス。
どちらもそれぞれ美味しいのが分かっているから、悩んでる。
それを告げると、お姉さんがどこか嬉しそうに声を上げ
「それなら半分こって、どうかしら? 私もその二つで悩んでいたの」
願ったり叶ったり? 素敵なお誘いに、私はすぐに頷いた。
「お願いします!」
朱莉ちゃんや翔くんと一緒の時も、一口貰ったりしているのでそのお誘いはとっても魅力的なもので。
知らない人と? とも思うかもしれないけれど、このお姉さんなら、って素直に思えたので抵抗もなく、どっちを選んでも、もう片方が気になって決めきれなかっただろうから。渡りに船というやつだった。
無事に注文ができてほっとしていると。お姉さんがそういえばまだ自己紹介してなかったわねと話し始めた。
「私、日下 由美子って言います。よかったら、由美子って呼んで?」
お姉さんのご希望通りにと、由美子さん。口の中で呟いてみたけれどそれと違う、なにかも頭に引っかかる。
あれ?
けれどそれは一度置いておいて、今度は私の番と口を開く。
「佐々木 めいです。よろしくお願いします」
「めいちゃんね。よろしく」
朗らかに笑って応えてくれた由美子さんは、さっそくとばかりに聞いてくる。
「この前、駅前の洋菓子店で会ったわよね?」
「あ、はい。えっと、紘太先輩と歩いてましたよね?」
由美子さんの問いかけに、頷きながら答えて。私もそれを確認するように補足の問いかけを。
すると、由美子さんは私の言葉に目をぱちりぱちりとし(長い睫が似合うのは、この表現じゃないかと思うのです)呟いた。
「あら? 紘太の事知ってたの?」
「えっと、兄の友達で。家にも遊びに来てもらってます」
さらりと、紘太先輩を呼び捨てにする由美子さんにどこか遠くで痛みを感じるけれど。
由美子さんが紘太先輩の恋人であるなら、ちょっと嫌な気分になるかなぁと思いつつ、後々知られて隠されていたと嫌な気持ちになるよりはと、遊びに来てくれてるのも言っておく。
それが正しいかは分からないけれど。
でも、そんな風に考えていた私に、由美子さんは思いもしない事を聞いてきた。
「もしかして……この前クッキーとか作ってくれた?」
はっと驚いたように息をのんだ後、きらきらと目を輝かせて、弾んでいる声音。
そんな由美子さんの様子の変化と、急に出てきたクッキーの単語に、目を瞬いてその言葉にも頷くと
「あ、えと。はい」
戸惑いながらも肯定した私の言葉に、由美子さんは嬉しそうに声を上げた。
「めいちゃんが作ってたのね! とっても美味しくて、全部食べちゃったんだけど。そしたら紘太が怒っちゃってね」
「紘太先輩が、怒るんですか?」
いつも優しくて、微笑んでくれている紘太先輩しか見たことがないから。想像できないその言葉に驚いてしまう。
そんな私に、当然とばかりに頷いた由美子さんは、
「怒る怒る。あの子ったら、ちょっとした事で怒るんだから。ほんと、子供の頃から変わらないのよ」
呆れたというように、ひらひらと手を振る由美子さん。
子供の、頃から……?
自然体で言葉を紡いでいく由美子さんに、恋人への想いみたいなものは感じられなくて。
それに言葉とは裏腹に、暖かな眼差しと顔つきは。
それはまるで。
そう、まるで。
……まるで、お母さんみたいで。
……えっと、あれ?
そこでやっと、私はさっき由美子さんが自己紹介をしてくれた時の違和感に思い当たる。
由美子さん、苗字って。日下って、言わなかったっけ?
あれ??
今更な関連性に、ぱにっくになっている私をおいて、さらりと由美子さんから事実が告げられた。
「でもまぁ、何だかんだ言っても甥っ子も可愛いんだけどね」
ちゃめっけたっぷりに、笑う由美子さんが綺麗で素敵で。
なんだか。
なんだか、色々考えていたことが飛んでいく。
気付いたら、一緒に笑っていて。注文したセットが全部そろう頃には、仲良くなっていた。
いつの間にかぐるぐるしていた気持ちも落ち着いて、晴れやかな気持ちにすらなっている。
なんでだろうと思っても、今は深く考えないで。ただ由美子さんとの楽しい時間を過ごすことにして。
「それでね、」
楽しそうに教えてくれる、小さい頃の紘太先輩の話がなんだかくすぐったく聞こえた。




