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MEGA-KILLER ~地下衛生管理局特別殺虫係~  作者: 浪川晃帆
第二部
61/81

第61話 中央集積広場(2)ー3



 一帯のゴキゲーターは掃討完了。アサルト・ゼロα中隊にあっては壊滅状態にあり、幹部隊員一行は消息を絶った。

 これにて一件落着だ。流れた血は決して少なくは無かったが、かくして尾張中京都の平和は守られたのである……。



 もちろん。嘘だ。

 現状にあっては、単に目の前の危機を脱したに過ぎない。

 それでも随分骨の折れる戦闘であったが、かと言って何かが解決されたというわけでもなく、むしろ新たな問題が浮上している。

 

 まず問題その一。手足が全部ない。

 ここまで深刻なトラブルは初めてだ。あのニセ妹サイボーグ、よくもやってくれたと思う。

 応急的にクガマルの体を借りてはいるが、本体の体があんな芋虫では活動の継続は断念せざるをえないだろう。一旦引き揚げる他にどうしようもないのだ。

 ちなみに説明が遅れたが、これも側頭部アクションカメラ型管制装置の機能の一つである。オペレーションシステムと言っていたが、単純に動くこと以外の操作を総括した一連の便利機能である。今やって見せた他にも、下らないオペレーションが沢山あったと思うが、使っていなさ過ぎてほとんど忘れた。確か、オートランニングなるものもあったよう気がするが、一体何の役に立つのかわからない。

 そして今回発動したのが、マニピュレーターコンバージョン。この通りクガマルの体を乗っ取る事ができる。何も特別凄いことをしているわけでは無い。クガマルだって義腕義足のコントロールを奪えるのだから、その逆ができてもおかしくはないだろう。もちろん、それには両者の認証が必須であり優先権は本人の方にあるが、今回は少し例外だ。この前の時と同じ、こちらが気絶している時にクガマルは緊急的に義腕義足を動かしたのだから非常事態にはお互い様である。

 

 さて、それはさて置いて一刻も早く引き揚げなければならない。

 急いで手足の予備を取りに戻って、再びここまで潜らなければいけないのだ。

 というか、まだ予備の部品があるのか怪しいのだが、修理を待たなければいけない事態であったとしたら相当まずい。

 いや、その頃にはSPET部隊が来るからいいのか? 

 違うな。

 それでは駄目だ。

 最悪虫の方は彼らに任せれるとして、新たに発生した問題についてはこちらで対処しなければどうしようもない。

 その問題とは、まさしくアサルト・ゼロの幹部隊員らのことである。何としてでも連中からメガキラーのボンベを奪還しなければ、地下衛生管理局は終わる。終わるだけならまだいい。あの最強の毒ガス兵器を公安隊なんぞに持たせたらどうなるのか。決まっている、確実に人間相手に乱用するだろう。起こり得る大量虐殺は目に見えているのだ。


 それで具体的にどうするかという話になるが。

 やはり、この少年に車両の運転をさせるしかなさそうだ。クガマルの体では当然無理だし、この車両が遠隔操作に対応しているとは聞いてない。まさかルニアにハンドルを握らせるわけにもいかないだろう。ただ、少年とは言えどテロリスト。あまり頼りたくないのも事実である。

 それか、最悪カブタスで牽引するか。なるほど、それもいい。確かに、道中で怪虫に出くわさないとも限らない。


「なあ、あんた。おいって、人の聞いてんのか?」


 先ほどから、後ろで少年が喧しい。


「ん? なにさ。運転はさせないよ。」

「いや、そんな事何も言ってねえだろ。」

「じゃあ何さ。今僕はとても忙しい。」

「ぼーとしてたじゃんか。」

「頭の中が忙しいんだよ。」


「で?」

 と、改めて少年に聞き返すが。

 なにやらその手に機械を持っていた。

 

「これ、あんたの部品じゃないのかよ。」


 未塗装の義腕が光を跳ね返す。

 それは紛れもなく、自分の体の一部ではないか。


「おおお!! でかした!! 少年仁太!! 一体それをどこで??」


「いや、そっちの女の子が入ってたケースの中にあったぞ。」


「マジか! じゃあルニアが??」


 と言って、眠そうな彼女の方を振り向いた。


「ルニア、モッテキタ。」


「よっしゃぁああああい!!」

 スピーカーの音が割れる。


 反撃の狼煙だ。

 この戦い、まだまだ全然不利なんかではないではないか。

 勝利の天使が降臨したのだ。

 天使はここに手足をもたらした、尚且つ彼女自身が強力な助っ人でもある。

 やはり天使、もはや天使、天使としか言いようがない。 

 ルニアは天使。


 そうとわかれば早速作業に取り掛かる。

 機動輸送車のところまで少年に手足を運んでもらい、車載の工具を拝借したら付け替え作業を開始。

 クガマルの体では少々やりずらい場面もあったが、そこは少年の手を借りた。


 いい具合だ。


『オペレーション・マニピュレーターコンバージョン。マニピュレーターコンバージョンを解除します。』


 体が戻る。

 真新しい、傷一つ付いていない両腕に両足が、今この体に連結した。


『システムチェック。しばらくお待ちください。……、システムチェックが終了しました。システムに異常は認められません。』


 今度こそ間違いない。

 完全に良好、不安要素は欠片も感じ取られない。

 今回の失敗はよく反省しておくとしよう。システムに少しでも違和感を感じたらすぐに点検、小さな異常は見落とさない。そうしなければ、肝心なところでぶっ壊れ、死に直結するような事態が招かれる。

 戦闘機をしょっちゅう点検や整備するのと同じ事だろう。


「ジュンシロウ!!」


 小さなルニアが飛びついてきた。

 そんな彼女を全身で受け止め、そして頭を撫でてやれる。ようやくこの手で触れられた。

 

「ありがとな、ルニア。」

「ンフフフフ。ルニアエライ。」


 さて、続きましてはこちらの修理。

 クガマルよ、いつまで寝ているのだ。

 あのテントウムシに何をされたのかは知らないが、いま体を借りた感じでは特に異常は見当たらなかった。

 

 胡坐をかいて、膝の上にはクガマル。

 興味深そうにするルニアは、背中に張り付いて後ろから覗き見た。

 というかその眼、閉じたままで見えてはないだろうに。


「コノヘンナヤツ、ネテルノ?」

「寝てる。」


 両手に持ったクガマルを裏返し、工具を使って部分的に外装を外した。すると見えてくるのは電源スイッチとバッテリー。

 一度切ってバッテリーを抜く。抜いたら再び入れて、電源オン。

 クガマル再起動。

 これでだめなら一度戻らなければ修理できない。

 だが。

 そんな心配は、どうやら不要であったようだ。


「……。時刻は?」

 その目に赤いランプが灯ったかと思うと、クガマルはすぐにしゃべりだした。


「いい具合に腹が減りそうな時刻さ。おはようクガマル。気分はどう?」


「最悪だ。ゲロが出る、頭痛も半端ねえ。」

「冗談が言える程度には良好、ということだね。」

「で、何がどうなってんだ。説明しやがれ。」

「はいはい。」


 120パーセントの戦力が集結した。

 クガマル、ルニア、少年、そしてアサルト・ゼロの置き土産たるカブタス。

 メガキラーを失ったものの、それを差し引いても100を上回る戦闘力があるかもしれない。


「……、成程な。」

 

 広場中央にて、滞空するクガマルが呟いた。


「どう思う、クガマルさんや。」

「ジュンシロー、きちんと数えてみろ。」

「ん?」

「アサルト・ゼロの数だ。人と車の両方。」

「最初が何人だったかをまず知らないよ。」

「オレが把握してる。いいから真面目に数えてみな。」

 

 そう言うクガマルに従い、死体の数を丁寧に数えて回る。

 そのどれもが損傷が激しいため正確な数を出すのは困難だが、何とか残っていた頭蓋骨をカウントしていけば、大雑把な数はわからなくもない。それでも頭すら食われた奴はどうしようもないが、とりあえず出た数字をクガマルに伝えた。


「……、ほう。」

「つまり今日はクガマルが探偵役というわけだね。」

「バカか。俺はヒントをくれてやるだけだ、そっから先はテメエで考えろ。」

「なんだよ、探偵かと思ったじゃないか。」

「それはオメエだ。」


「で?」

「オメエ一人で何本ボンベ持てる? いや、一人で何本ボンベを持って走れる? もちろんアクティブ設定はセイフティ以下だ。」

「1。」

「で、車両の総数は減ってないときた。ここまで来ればわかるな?」

「え、まさか?」


 少年仁太とルニアを動員し、片っ端から機動輸送車の中を捜索した。

 そしてそれが見つかるまでには5分と掛からなかった。

 別に彼らはそれを隠していたわけではない。

 普通に、荷台の中に積まれていた。


「あったぞー!」


 メガキラーが機動輸送車の中から見つかった。二人が捕まっていたのとは別の車両である。


「数は。」

「6。」

「2本持っていかれたな。おそらく幹部の女とメガネが背負って逃げた。」


 幸い、というべきなのだろうか。

 手元にメガキラーが戻ったのはありがたいが、それでもやはりメガキラーを盗まれたことには変わりない。


「やっぱり探偵じゃん。名探偵クガマル。」

「オメエが冷静じゃねえだけだ。さっきまで戦闘してたんだろ、すぐに頭が切り替わらねえのも仕方ねえ。」

「ん? なんか優しい。」

「んでこっからが本題だぞ、探偵さんよ。わかってんだろ、一連の流れで不審な部分があることくらい。」

「むろんよ。」


 クガマルの言う通りだ。

 一番肝心な部分を、誰一人直接見ていない。

 その瞬間を見た者達には、もはや喋れる口がついていない。死人に口なし、それが利益をもたらさない形で転がっている。


 なぜ、アサルト・ゼロの精鋭たちは、いや、最新鋭の機動兵器であるカブタスがゴキブリの軍勢に敗れたのだろうか。

 彼らの迫りくる足音と共にガトリングの射撃音を耳にして、それが収まったとお思ったら外はゴキブリの天下になっていた。

 

「数のことを考えれば、負けはしねえんじゃねえのか? 重大なシステムトラブルがあったとも考えにくい。」

「そうだね。数の上でもカブタスはゴキゲーターを上回っていた。彼らの戦いぶりはこの目でじっくりと見させてもらったけど、ゴキゲーターに勝ち目はないだろう。」

「仲間割れでもしやがったか、公安連中は。」

「いや、どうだろうね。まずは現場をしっかりと見よう。話はそれからだよ、ワトソン君。」

「ワトソンじゃねえ。」


 四つん這いで地面を這い回る潤史朗。

 死体を見て、カブタスの損傷をみる。

 破壊された車の跡、アスファルトに刻まれた戦闘の跡。

 その臭い、性質、形状、不審な点を探し回った。


「ジュンシロウ、ナニカワカッタ?」

 後ろをついて回るルニア。それに少年も続く。


「んん。まぁ正直、不審すぎて。挙げだしたらきりがない。」


「俺にはさっぱりだぜ。そもそも、なんなんだよあのでけえ虫はよぉ。」


「うーん。なるほどなるほど。で、極めつけがこれか。」


 不自然に地面に溜まった謎の液体。

 ガソリンかオイルか、一体何なのか。

 カブタスの残骸から金属片を取り出して、不審な液体をつついて触る。

 若干の粘土がある緑色の液。冷却水というわけでもなさそうだ。

 決定的なのはこの刺激臭。

 

「わかった。」

「はああ? こんな地獄みてえなぐっちゃぐちゃから何がわかるってんだよ。一体どこを見てんだ??」

 少年。

 いいリアクションだ。

「そうだね。まぁ不審な点をあげると、ほら、そこのアスファルト。」

「銃弾だろ。」

「かもしれない。けれど、この破壊のされ方。破損を中心に大きく亀裂が広がっているね。もし弾丸なら局所的に砕かれるだろう。」

「じゃあなんだってんだ。」

「それに関連してカブタスの壊れ方、なんか変でしょ。ちなみにあっちのがゴキブリに食われたやつ。」

「違いがわかんねえ。」

「それに積んであったコンテナも倒壊してる。まぁそれは何とも言えないけど。」

「確かに。」

「で、これ。その液体ね。ああ、触っちゃダメだよ。やばいやつだから。」

「ひええええっ。」


「この答えは簡単だ。それはクガマルが前に言っていたとおり。この機動兵器が対ゴキゲーター殲滅兵器であるからこそ、まだまだ欠陥品と言われる所以だ。」


 一連の現場検証を終えた潤史朗。

 彼はそう言うと、手に持った金属片を捨てて立ち上がる。


「今こそ声を大きく言いたいよ。人類の敵はゴキゲーターではなく、メガ級地底害虫であるのだとね!」

 と。

 そう言ってルニアと少年の方を勢いよく振りかえった。


「……。」

「……。」


「うむ、君らに言っても仕方ないな。」


 そうしていると、向こうの方からクガマルが飛んでやってくるのが目に入った。

 何やら六本足に装置を抱えている。


「おうおう、決め台詞のとこ悪いなぁ、ホームズさんよ。だがもうちっと文明の利器を使おうぜ。」

「クガマル、それは?」


「カブタスに積んであったカメラだ。ぎゃははははっ。」


 


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