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MEGA-KILLER ~地下衛生管理局特別殺虫係~  作者: 浪川晃帆
第二部
60/81

第60話 中央集積広場(2)ー2



「ン……、ンン。ルニア、マダネムイ。」


 箱から出てきた銀髪少女のルニア。

 少年仁太は目をぱちくりと良いリアクション。一方の潤史朗も頭の上に大きな疑問符が浮いて漂っていた。


 小さな口を丸く開いてあくびする。まるで子猫か何か、小動物を連想させる仕草だ。

 閉ざされた目の端からは涙を少しだけ滲み、ちいさな両手でそれをごしごし拭っていた。

 

 緊迫した状況である筈なのだが、現れた少女の周辺のみが急に和やかな雰囲気で包まれる


 いやいやいや。

 眠いとか、それどころじゃない。

 車両の付近にはゴキゲーターがうろついてる訳で。危うく少女につられてリラックスしてしまうところだった。

 しかしまぁ不要に緊張するよりかは、一旦落ち着いて冷静に立ち回るべきというのも一理はある。


 彼女がどうしてこんなところにいるのか。それは大体想像がつく。この車自体が研究所に置いてあったものであるし、それに彼女が忍び込んでいたとして何ら不自然ではない。ただ、ここまでの間ずっと眠っていたのだとすれば、それはとんでもない図太さ、いや、また別の特別な体質か。


「ジュンシロウ、ルニアキタ! ズットマッテタ、ルニア!」


 何の偽りもない、とてもシンプルで純粋な笑顔。

 彼女は真っ直ぐにその感情をこちらに向けた。

 そんなルニアに対して、頭を撫でて応える手も今は失ってしまっている。そのことに申し訳ない気持ちで一杯になった。

 思えば、遺跡で出会って以来ずいぶん長い間ほったらかしてしまっている。彼女に何かおいしいご飯をと意気込んでいただけに、期待を裏切ったようで今更ながらに悪いことをしたなと思う。

 今度こそ彼女に地上を見せて、できるだけのことをしてあげたい。


 さて、そのためにはこんな場所でゴキブリごときにやられている訳にはいかないのだ。

 何が何でもこの窮地を脱し、全てを終わらせて地上に戻らねば。

 守ってみせよう。

 ルニアも、少年も、そして自分が言った言葉もすべて。


「ジュンシロウ。モシカシテ、チッサクナッタ?」

 小鳥のように首を傾けるルニア。

 見ての通り彼女は見えてない。だが見えている。


「ははは、ちょっと色々あってだね。一時的に小っさくなっちゃった。ははっ。」

「ンフフフフ。ルニアトイッショダネ、ジュンシロウ。ンフフ。」

 またそうやって嬉しそうにする。

 緊張感緊張感、緊張感がどっか行ってしまうではないか。


 そうしていると、おもむろに箱を這い出てきたルニア。いそいそと移動して、その小さな手をこの体の真上へと持っきた。

 クガマルの体、この頭を撫で始める。


 悪くない。


 が。

 外のゴキブリはいつまでも待っていてはくれないのだ。


 急に左右振られる大きな揺れ。

 ゴキゲーターが車体を小突いた。


「ムムム、テキ。」

 これでようやくルニアは外のゴキゲーターを意識し始めたようだ。


「コロス。」


 と、そういうルニアは前触れなく右手を持ち上げると、今まさに目線があった車外のゴキゲーターへと向け、片手をかざす。

 同時にゴキゲーターの方も、中にいる人間の存在を確実に認識したようだ。

 牙を左右に大きく開き、両手を広げて襲い掛かった。

 だが、ルニアの力が先に働く。

 彼女が薄っすらと目を開きかけると、その瞬間にゴキゲーターは後方に数メートルにわたり、謎の力によって突き飛ばされた。


「ジャマ。」


 ルニアは続けて、触れぬ力の作用によって車両の窓ガラスを突き破る。

 そして車を降りてひょいと着地すると、体勢を立て直すゴキゲーターと向かい合った。


 彼女を守らねば。という考えには少し修正が必要だったことを思い出す。

 この少女は非常に大きな戦力だ。特にこの場においては頼もしいことこの上ない。

 落ち着いて考えてみれば、義腕義足をすべて失い、クガマルという戦力を奪われ、更にメガキラーを盗まれたというこの状況は、もっとすごく絶望したっていいはずなのだ。なんとなく何とかなってしまったが、笑えるほどに大ピンチ。

 して、そんなところに現れたこの小さな少女が、天使でなかったら一体何だというのだろう。そう、ルニアは天使で間違いないのだ。


「コロス、テキ。」


 そう言って、またしてもゴキゲーターを突き飛ばす。

 今度は先ほどよりも強く、そして螺旋を描くような軌道を見せた。


「ルニア、見てのとおりの状況だ。」

「ウン。」

「無理はしなくていい。実際どの程度いけそう?」

「イケルヨ? ルニア。ミンナ、ブッコロス。」

「そ、そうか。頼もしいなルニア。」

「ムフ。」


 で、その言葉を鵜呑みにするわけにもいかないというのが正直なところだ。

 彼女の力は見た事があるし、アクションカメラで撮らえていた映像でも確認した。

 しかし、そうであるからこそ、いくら強力な力を内に秘めていようともサポートは欠かせないのである。

 彼女の力は未知数だ。そして非常に不安定でもある。

 見たところ、恐らくこの状態のルニアではゴキゲーターを一頭仕留めるほどの力はない。駆逐トラックと喧嘩した時のような、例の大量虐殺モードに変身しなければ本来の力は発揮されないであろう。というのが現時点での見解だ。

 して、どうやったら変身、いや成長? するのかは、その原理も含めて完全に謎である。ルニア自身も知りはしないのだろう。

 何にしても援護だ。

 彼女を前線に立たせるつもりなどさらさらなかったが、仮にそうするにしても時期尚早すぎる。


「ルニア! とりあえず一瞬動きを止めるだけでいい!」

「ワカッタ。」


 迫りくるゴキゲーター。

 その突撃はあと数メートルのところで全身の動きが止められた。

 必死にもがき触覚を振り回すも、その足、腹部すらも一切の動きを許されない強烈な拘束作用で固められる。

 タイミングを見計らい、クガマルの体にてその首根っこに食らいついた。

 クガマルの大顎は最強のペンチでもあるが、この首を完全に落とすには短すぎる。

 しかし今、切れ込みさえ入れれば十分だ。

 彼女と最初に出会ったときのゴキゲーター戦が思い出される。

 手斧を食い込ませ、切れ目が入ったところにルニアが力を加えた。

 最初からわかっていれば容易い。


「ルニア! 捻じ切れ!」


 開く両目。

 金の瞳は煌々と光を解き放った。


 そして、その瞬間にはぐるぐる回って吹っ飛ぶ首。

 首を落とされたゴキゲーターの体は完全に目的を見失った。どんなに激しく暴れてもその徘徊行動には意味がない。


「ジュンシロウ! ヤッタヨ! ルニアヤッタ!」

「よっし、いいぞルニア! その調子だ!」

「ルニアスゴイ?」

「すげー!!」

「ルニアエライ?」

「偉い! ルニアええ子や!!」


「ンフフフフ。ホメラレタ、ルニア。ンフフフ。」


 先ほどよりも、彼女の瞳が光の強さを増している。

 勘違いだろうか。いやしかし、明らかに、すごく光っている。

 さっきはまだ寝起きだったのだろうか。

 続いて襲い掛かる二体目のゴキゲーターだが、難なく彼女は受け止める。

 目には見えない不思議な力。

 今度はその触覚さえも、完全に動きを封じてみせた。

 

「ジュンシロウ!」

「そのまま!」


 この連携攻撃。

 いける。

 さっきにもまして素早い首の切断だ。

 もはやこれにて二頭もの戦闘力を奪ってしまえた。


 さて、しかし問題はここからだ。

 ルニア弱点はといえば、その力の作用の対象が狭く、複数方向からの攻撃には対応が困難であることだ。

 そして今まさに、それが起ころうとしている。

 こうも派手に暴れれば、広場一帯のゴキゲーターに存在を気づかれるにも当然だ。

 残りのゴキゲーターは10頭未満。

 それでも一斉にやってこられるのはいささか不味い。


 コンテナ上に数匹、テントに数匹、他公安の車両に数匹が群がるがそれらはこちらに触覚をむけると、各々のタイミングでこちらに向かって走り出す。


 どうする?

 車で走って逃げ去るか。

 いや駄目だ、それでは自身の本体を置いていくことになる。というかこの体じゃ運転できない。

 ならば。

 やはり、カブタスに頼るしかないということか。


「ルニア。」

「?」

「あのテントの中、ボタンとか、画面とか、レバーとかついてる道具なんだけど、引き寄せれる?」

「ルニア、ワカンナイ。」

「だよね。」

 自分で飛んで取ってくるか、しかしそれには時間的に厳しい。


「ン、ンン。」


 ルニアが小さく唸っている。

 なんだろうかと見ていると、あの作戦本部のテントがそれごとそのまま、こちらに向かって引きずられてきた。


「ル、ルニア??」


 一瞬驚いたが、考えてもみればゴキゲーターの動きを封じるほどの力があるのだ。テントくらい、いくら体積が大きかろうが引きずるくらい簡単か。


「モッテキタ。ドレ?」

「おっけおっけ。ルニアいい子。」

「ンフ。」


 その作戦本部跡には血みどろ死体が大量に転がるが、一緒にカブタスの操縦装置も落ちているわけだ。


「できる範囲でいい。敵の数は多いから、順番にね。落ち着いてやろうか。」

「ワカッタ。」


 再びカブタスを起動する。

 弾丸もまだまだ余裕はありそうだ。

 こいつを立ち上がらせば、ゴキゲーターの群れも二手に分かれるだろう。

 対象の敵は半数、5体もない。


 迫りくるゴキゲーター。

 

 と、その時である。


「俺もやるぜ!」


 いつの間にか隣にいた少年仁太。

 その両手が握っているのは紛れもなくカブタスの操縦装置だ。


「え? やれんの? ちょっと大丈夫?? おもちゃ違うよ?」

「おいおい、テロリスト舐めてもらっちゃ困るぜ。」

「いいけど、これ遠隔操縦なんだからさ。自分打たないでよ。」

「わーってるっての!」


 これで3対10未満。

 少年のカブタスは適当にやらせて、こちらはルニアと連携するか。

 どこまでいけるかわからないが、取りあえず今、やられる気はまったくしない。


「くるぞ!」


 襲い掛かるゴキゲーター。

 咆哮するガトリング。

 無言に発するルニアの力。


 二体のカブタスは、攻撃対象に戸惑う彼らをその隙に射撃で砕いて倒す。

 この操作も慣れてきた。

 射撃は最低限、ゴキゲーターの足を狙ってそれが3本以上ちぎれれば、狙いを次に移した。

 完全に殺さなくとも行動不能にするだけの方が効率的だ。

 一体、二体。

 彼らの足を次々に吹き飛ばす。


 そして余裕ができたところでルニアを狙うゴキゲーターに標的を移す。

 こちらはもはや動かぬ的。

 正確なヘッドショットが可能である。

 少し場所を移動しながら、複数体のゴキゲーターを牽制しつつ、ルニアが拘束した個体の頭をつぶす。

 

 どうやら、少年の方も順調であるようだ。

 さすがはテロリスト? 武器の扱いは何だかんだ優れている。


「フフ、コロスヨ、ルニア。フフ。ルニアエライ。」


 それから数分は続いただろうか。


 中央集積広場は、まさにゴキブリの死骸畑となっていた。

 中にはまだ、頭を失ったのみで、ゾンビのごとく動きまわっている個体もあるが、そいつらも余裕ができれば完全に殺し、また何頭かは勝手に自分でどこかに行ってしまった。


 最後の弾丸が飛んで行く。

 空でローリングし続けるガトリングは、トリガーを離すと間もなく停止した。


 殲滅、完了。

 もはやここにゴキゲーターはいない。

 我々の勝利である。


「ジュンシロウ!」


「やったな。」


 と、そう言ってクガマルの体に飛びつくルニア。

 小さな腕、小さな胸一杯に抱きかかえられた。


「ンフフフフ。」


 すごく満足そうな、その少女の笑顔を見上げた。


「フフ、ジュンシロウ。フフ。」


「改めて久しぶり。ごめんねルニア、だいぶ待たせたよ。」

「イイヨ。ルニアマッテタ。」

「この戦いが終わったら、今度こそ旨いもん食いに行こう!」

「クウ! ウマイモン!」

 と、口から出てしまった後に気が付くも、きっとこれは何かのフラグではないことを密かに祈る潤史朗であった。


「ジュンシロウ?」

「ん?」

「ナンカ、カラダチガウ?」

「一時的にね。」

 そう言えば、自然に受け入れられすぎて何も意識していなかったが、何故彼女は迷うことすらなく、この体を潤史朗だと言ったのだろうか。

 いや、そのような疑問。そんな野暮な質問をぶつけるのはやめておこう。

 彼女は目を閉じている、開いて光らせている時だって恐らく光を捉えてはいない。そもそも目で見ていない彼女に、見た目の姿形など関係はない。

 彼女が見ているのは内側だ。初めて会ったあの時も、彼女は内側から呼んでいたのだ。



「ところでよう、あんた。この箱の中だけど、まだ何か入ってんぞ。」

 後ろで少年が何か言っていた。

 


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