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MEGA-KILLER ~地下衛生管理局特別殺虫係~  作者: 浪川晃帆
第二部
58/81

第58話 荷室ー2

 

 

 荷室の外が騒がしい。



 手足を失った潤史朗と、完全に拘束された少年仁太。そしてクガマルの電源は完全に落ちている。

 

 密閉された機動輸送車の荷室に籠っていても、十分に耳障りであるこの射撃音は車外にて例のあれがガトリング砲を撃ちまくっているからだ。

 そしてその数分前にあった激しい振動と、更に続いた微かな足音。

 生憎この荷室には窓がないため外部の状況は直接確認できないが、ゴキゲーターとカブタスが現在交戦中であることは見るまでもない。


 こうして今は荷室に閉じ込められている訳だが、車外の状況を考えると檻となっている機動輸送車に逆に守られている状態といえた。

 もしも車外に放置され、こんな身動きできない状態で晒されていようものなら、それは採虫用の置き餌になっているのと変わらない。その方が人の扱いとしてはアサルト・ゼロらしい。

 

 さてそうしましては、何とか助かっているこの現状を踏まえてた上で、今後予測される嫌な事態、確率的には起こり得るであろう不味い状況、というものがワンパターン思い浮かぶのである。

 結局は虫の餌になってしまう、という状況だ。

 例えばもし、外で暴れているのがゴキゲーターではなかった場合。

 要は何が不安なのかと言うと、カブタスが、何かしらのメガ級地底害虫に対して敗北した場合、やはりこの機動輸送車は餌が入った箱になるであろうという事態だ。

 まさか、そんなことはないと思うが。

 この手足が無い状況で、荷室の上からゴキゲーターが顔を覗かせて来た時には発狂ものである。


 それでも、そう発狂してる訳にもいかないということで、そんな最悪の場合を想定しつつ、脱出可能な状況は今にでも作らなければいけないのだ。


 だが、荷室の脱出戦力は無きに等しい。

 しかしそうは言っても、各員の力が完全にゼロという訳ではなく、合計それば何とか1になるだろうとの算段がついていた。というよりか、つかすしかない。


 今、この少年仁太に側頭部管制装置のコマンド入力操作を任せてある。

 少年にはまだ、動く指がついているのだ。

 それでコマンドは、ちょっと忘れた。一度か二度しかやったことのない、とある謎機能があるのだが、久し振りすぎてどうも記憶があいまいである。

 しかしそれでも何となくこれかな、というような道筋は立つわけで、たぶん恐らく、きっと何とかはなるのだろう。


「おい、それで次は!?」

「う~ん、じゃ真ん中のボタンいってみようか。」

「それさっき駄目だったろアンタ。」

「あれれ~。」


 思い出せ、頑張れ。きっと今が正念場なんだ。


「んじゃあ……。」

 と、潤史朗がそう言いかけた時だ。

 少年は不意にその作業の手を止める。


「な、なあ、何かおかしくねえか??」

「え?」

「なんか、……静かだ。」

「……。」


 コマンドを思い出すのに必死だったせいか、外の音声を気にしないでいた。

 しかし少年に言われてふと気が付く。

 銃撃音が止んだ。


「ああ、それじゃあきっとゴキゲーターの殲滅が完了したんだろう。」

「ゴキゲーター? なんじゃそりゃ。」

「まぁ続けて、はい、じゃぁ左のボタン。」


 というより、むしろそうであって貰わないと困る。

 まぁ言ってしまえば、絶対そうに決まっているし、そうならない筈はないのだ。

 先ほど目にした通り。ゴキゲーターではカブタスに敵わない。

 しかし何だろうか、この不穏な感じ。手足が無いからなのか、ほんの僅かな不安をずっと拭えないでいる。

 今だけはアサルト・ゼロを応援した。カブタスが勝利するという当たり前の結果を、当たり前らしく当然のように完了しろと密かに念じているのだった。

 

「そ、それじゃ押すぞ。これだな。」

「ほいよ。多分これで成る。」

「何が?」

「まぁいいから。」


 その当然という言葉も。

 結構、いい加減なものだ。


 突然に、荷室がぐらりと大きく揺れた。

 車内に響く衝撃音。

 嫌な感じ。


「ぬわぁああ、なな、なんだ。」


 少年は、奇妙な声で叫ぶと同時に、最後のコマンドを入力し終えた。


「な、なにが起こってるんだ!?!?」


 続けて揺れる車両の荷室。

 外では一体何が蠢いているのだろうのか。何者かが、車両の外装をガリガリと抉っている。


 削れる音。

 振動。

 天井の車内灯が一瞬点滅した後、その光を暗く閉ざした。


 伝わる振動は次第に激しさ増していき、丈夫な荷室が歪みを生じ始めた。

 形が捩れる。

 金属の軋む音。

 まるで、沈みゆく船の中であるかのようだ。

 しかし、外からガンガンと叩きつける音は決して助けに来た救援の手ではない。

 

「おおおお、おい。あんたぁああ、どどおどおなってんだああぁああああ。」

 喚く少年。

 しかし。

 潤史朗は無言だ。


「おおおおおおおい!!! お前、なんで気絶してんだぁよおおおお!!」


 両目を閉じる潤史朗。 

 アクションカメラの赤ランプのみを点滅させていた。


「もう駄目だ、死ぬんだぁあ。」


 次の瞬間。

 車両の壁が破られた。

 縦方向におよそ15センチ。鋭い牙が貫通した。


「ああああああああああああああ!!」


 間違いない。

 この車両を襲っているのはゴキゲーターである。

 しかしそんな怪物を少年は知らない。いや、知っていたところで訪れる死は変わらない。

 

 餌を目の前に荒ぶるゴキゲーター。

 この機動輸送車は当初の嫌な予想通りに、餌が入った箱となったのだ。


「うわぁああああああああああああ!!!!」

 

 これが、少年の最後の叫びとなるのだろうか。


 いや。

 それにはまだ早い。

 光はずっと、そのすぐ傍に灯っている。


『オペレーションシステムが選択されました。』


 アクションカメラがアナウンスを始め出した。


『オペレーションを発動します。』


『オペレーション・マニピュレーターコンバージョン。……システムの起動が完了しました。マニピュレーターコンバージョンを実行します。』

 

 そして次の瞬間よりアクションカメラのランプは高速で点滅。

 電子音声はさらに続ける。

 

『無線接続作業実行中。外部端末を探しています、しばらくお待ち下さい……。』


 頭を抱え床に伏せる少年。

 彼はその時、不意に喋り始めた潤史朗のカメラに気が付いた。

 赤いランプを激しく点滅させ、同じフレーズのアナウンスを継続している。


「なんだ?。」


 今この時、1以下の戦力はここに集結し、一つの1が生み出されるのだ。


『しばらくお……、接続完了。オペレーションが成立しました。』


「お、おい?」


 そして再び沈黙するアクションカメラ。

 潤史朗は動かない。


「おいって!! もう意味がわかんねえよ!!」

 少年は、潤史朗の体を強く揺すった。


 その時。


「ここだよ。」


 うしろで。

 誰かの声がした。


 振り返ると。

 そこにいるのは、クワガタムシ型のAIドローンだ。


「へ??」


 クワガタドローンは、その両眼に青い光をピカピカ点滅させながら、ひょこりと床に這っている。


「僕だ。」

 喋るクワガタのドローン。

 ドローンはそのまま飛び上がると、ブンと飛んで荷室の壁につかまった。


「詳しい説明は後にしよう。まぁね、せっかく逃げ出す算段がついたというのに生憎外はこんな状況。何とかするしかない訳だけど、それには君の協力が必要だ。どうかな。君に、ここを生き残る勇気はあるかい?」


 突然喋り始めたクワガタが何か言っている。


「ん? どうした?」


「クワガタムシが、喋ってる。」


「ほら僕だよ。そこに転がってるイケメンの意識がこっちに乗り移ったんだ。」


「いや、何言ってんだ?」


 呆気にとられる少年だが、そうもぼんやりできる時間は無いようだ。

 次の瞬間に、またしても壁に牙が突き刺さった。


「うわぁあっ。」


「時間が無い、聞いて。いいかい? 僕は今から外に出る。そしたらゴキブリ達を一時的に追っ払うから、その隙に君も外に脱出して。扉は僕が外から開けよう。ここまで、オッケー?」


「お、おっけい。」


「で、ここから外に出たら、君はオレンジの車に向かって全速力で走れ。それに乗り込むんだ。そこから先はまた説明しよう。」


「わかった。」


「よしいいね。んじゃ、早速やるよ。」


 所々に穴の開いた内外装。

 クワガタのドローンは、ゴキゲーターの牙によって貫通した箇所に自身の大顎を突っ込むと、それを挟んで思い切り引き剥がしに掛かった。

 そうして更に穴を広げる破損個所。ある程度の幅ができると、クワガタはその平らな体を上手く潜り込ませて、荷室内部からすり抜けた。


 飛び出すクワガタドローン。



 外は……。

 期待どおりにゴキゲーターまみれであった。ざっとみて10体はいるだろうか。

 こうして上から眺める景色も新鮮だが、残念ながら今はこの小さい体を堪能している暇はない。 

 のんびりしている内に、荷室が破壊され本体の体が食われてしまう。


 観察した限り、例の司令官とサイボーグ女は見当たらない。

 破壊されたテントには、今まさに体を貪られている公安隊員が数名。もう死んでいるのだろう、悲鳴はない。

 他、何基かのカブタスが破壊されているのが確認できる。


 一体何事か。

 いや、まずは機動輸送車周辺のゴキゲーターを駆逐する。

 殺虫爆散グレネードで絞めるか。

 しかしすでに荷室の密閉性は失われた、それではメガキラーを吸って体が死ぬ。

 となると。

 ちょうどいいところに、対ゴキゲーター殲滅兵器が沢山転がっているではないか。これを使わない手はないだろう。


 思いついたが即実行。

 急降下して向かった先は、死体の肉団子が重なるテントである。

 このドローンの体、ゴキゲーターからは見向きもされないのだ。便利すぎる。彼らはこんな小さな虫けらなど完全に無視。死体漁りに夢中である。


 地面に転がった操縦装置。

 もうどれでもいいだろう適当に起動して、選んだ一基を殲滅に向かわせる。

 本当はクガマルのようにカブタスの身体を完全に乗っ取れれば楽なのだが、今はそれをするには時間が惜しい。ハッキングをするのも簡単ではないのだ。


 そういう訳で損傷が無さそうなカブタスを起動。

 残弾は少ないが、弾が切れた時は別の個体に乗り換えれば済む。

 とにかく今は急げ。

 

 六脚で立ち上がらせ、輸送車付近まで移動させる。

 車に群がったゴキゲーターは三体。

 ガトリング砲の射撃を開始した。

 して、それと同時か。動き出したカブタスの存在に気がついたゴキゲーターはそれに向かって走り出す。

 

 三体を一度に撃破できるか。

 体のパーツを四方にぶちまけながらに突進するゴキゲーター三体。

 その距離、残り僅か10メートルほどでガトリングの弾が尽きた。

 カブタスが破壊される。

 しかし、すばやく別の操縦装置へと自分が飛んで移動。

 また新たなカブタスを起動した。

 二基目のカブタスで立ち上がり、ゴキゲーター三体を側方より射撃する。

 いい具合に飛び散った。


 これにて機動輸送車付近のゴキゲーターを殲滅完了した。

 クワガタドローンの体で再び飛び上がり、輸送車荷室を目指して飛翔する。

 それに取りつくと外部のボタンを操作して荷室後方ゲートを開放。 

 中にいるのは少年と、床に倒れる自分の体。

 

 少年を拘束する手足の錠を素早く切断し、彼を外に連れ出すと再びゲートを閉鎖した。


「な!? なな、なんだこれ、ゴキブリが……。」


「いいから急いで。ほら、あっちのオレンジの車だ。」


 少年を高機動殺虫車のところまで誘導する。


 しかしその間、こちらに気が付いて向かって来るゴキゲーターが数頭。


「お、おいいいっ、なんかやべえのがこっちくるよぉおおおっ。」


「振り返るな! 全力で走れ!!」


 オレンジの車はその一台だけであるし、これ以上の誘導は必要ない。

 一旦少年と離れて再び操縦装置のところまで飛んで戻る。


 走る少年。

 それを追うゴキゲーターは怒涛の速さで襲い掛かる。


 カブタス。

 間に合うか、間に合わないか。


 操縦装置に取り付く。

 既に起動済みの一基。


 ガトリング砲塔旋回。やはりこの鈍重さが弱点だ。


 少年とゴキブリの距離は残りあとわずか。

 

 この際当たらなくてもいい。

 射撃を開始する。

 

 滑走する衝撃音。

 その激しい炸裂音にゴキゲーターは足を止め振り返る。

 

 しめた。

 車両に飛び込む少年。

 そして振り返ったゴキゲーターは、弾丸の嵐を体全体で受け止める形となった。


 ゴキゲーターは飛散する。

 とりあえず第一関門はクリアしたか。


 ここまでくれば何とかなる。

 殺虫車の中にはメガキラーが8本。

 ここ一帯のゴキブリ共を駆逐するには十分な容量を持っている。

 ただ一つ気になる事があるとすれば、姿を消した司令官一行と、あっけなくゴキゲーターに敗れた機動兵器カブタス。

 頭数でいうならば互角であったはず。


 あまり考えたくはないのだが。

 まだ、なにかあるとでも言うのだろうか。




 

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