表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MEGA-KILLER ~地下衛生管理局特別殺虫係~  作者: 浪川晃帆
第一部
15/81

第15話 名阪地下高速

 

 名阪地下高速道路を高速で移動する大型トラック。

 そのとんでもない運転は、緊急走行と言うより、もはやただの暴走だった。


 全周を赤色回転灯で輝かせ、前後数キロにわたり地下高速道を反響するモーターサイレンは、つんざく様な音で鳴り響いた。

 一般車両はみな、消防車かパトカー、若しくは公安の巡視車が来たかと身構えるが、バックミラーに映るその姿は、そのどれにも当てはまらない奇妙なトラックだ。

 近いと言えば消防車に近いシルエットであったが、ボディはオレンジとブラックのカラーからなり、ミラーに映る車体フロント部は、黄色と黒の縞バンパーの上部がヘッドライトと重なるように厳ついグリルガードで武装され、更にその上を、まるでラリー車のような強烈なフォグライトが横にずらりと並んでいた。

 ふと何が来たのかと思った刹那、その無骨なトラックはまさに一瞬で抜き去って消える。

 そのボディ横側に、一瞬ちらりと見えたローマ字が4文字。

 書かれていたのは‟SPET”という単語であった。恐らく何かの頭文字をとったのであろうが、その詳細は全く不明だ。そもそもあのトラックが何の機関所属のものなのか、見えていたのが一瞬すぎてよくわからない。

 

――邪魔邪魔ぁあ! そこどきな!!


 トラックの外部スピーカーから発される女の大声は、ゆっくりと走る一般車両を威嚇して退ける。

 それでも反応の鈍い車があれば、荒いハンドル操作で荷台を大きく揺すりながら、大ぶりな動きでそれを交わして走った。

 時に、ハンドルを切った内側のタイヤが、地面から浮くほどに急激な操作もあったが、ぎりぎりのところで転倒を回避して暴走する。

 そしてまたしても、左右の車線を千鳥に塞ぐ速度の遅い車両。

 まるで船の操舵かと言うほどにハンドルを左右に、連続して流す。

 遠心力で傾く車両。

 傾斜した車体は、その荷台の角がトンネル内壁と擦れ、激しい火花をまき散らした。

 

「ちょ、ちょっと姐御!! 危ないですって!! ほんっと転ぶからぁあああ!!」

 トラック助手席の大柄な男は、顔を蒼くし必死で体を支えていた。

「なにアンタ、デカいくせして情けないわね。こんくらいでびびってってどーすんの? 言っとくけど、ウチの本気はこんなもんじゃないから。」

 運転席に座る髪の短い女は、ハンドルを回しながら横目で助手席をみた。

「ちょっとちょっと!!前!!ぶつかるって!!」

「いちいちうっさいわね。」

 そしてまたしても激しいハンドル操作で、車体を傾げながら一般車を回避した。

「って言うか、何で今日に限って姐御が運転なんすか?」

「なに、文句あんの?」

「いや、ありますけど。安全運転で頼んますよぉマジで。」

「はぁ? めっちゃ安全じゃん。どっかぶつけたっけ?」

「いや結構擦った気もしますけど、安全って何すかね。つーか異常に運転気合入ってますよね? ほんと勘弁してください。何かキレてるんすか?」

「あーもう、べらべらやかましいわアンタ。舌噛んでも知らないわよ。それっ。」

 女は怪訝な顔をすると、その途端なにもない場所で急にハンドルを左右に振り回しはじめた。

 同時に車体は大きく振られ、男は窓で頭をぶつける。

「ぬわあああっ。わかったわかった、ほんとサーセンって。そこあんまり聞いちゃダメなとこなんですね。」

「別に違うけど。」

「じゃあ、なんすか。」

「……。」

「尾張中京なんすよね。しかも任務外の業務でって。よっぽど何かあるとしか思えませんけど。」

 女は少し黙ったままトラックを走らせ続けるが、暫くするとまた口を開いた。

「……あんた、志賀潤史朗って男知ってる?」

「え? いいや。」

「そう。ならいいわ。」

「はぁ。」

「……。悪かったね、手当もつかないのに付き合わせて。言ったらこれ、若干個人的な理由が大きいのよ。」

「ああ、まぁ。何か奢って下さい。」


 こうして地下高速を飛ばすトラックは間もなく尾張中京。

 

 地下衛生管理局特別殺虫チーム、通称SPET。

 一言で言えば、メガ級地底害虫の駆除に特化した化学戦術部隊である。

 その基地は関西支部と九州支部、そして首都本部にそれぞれ配置されており、地底にてメガ虫の潜在的脅威が急激に上昇したときに出動し、これの駆除にあたる。具体的には、新種の害虫出現時や、またテロや災害などにより地下5000メートルの境界層が破られた時などだ。

 現在の日本で、軍や公安隊が通常兵器しか運用していない現状では、実質的に怪虫との地下戦闘は全面的に彼らSPETが担う形となっている。

 つまり、地下市民の安全と安心、いや敢えて衛生と言うべきか、それを守っているのはSPET、即ち特別殺虫チームこそが唯一であり且つ最終的な組織であるのだ。

 公安隊にその機能は無いのかと言えば、それはまたややこしい話になってくるが、これは飽くまで実際的な話。

 基本的には、臭い物には蓋を、地下5000には防壁を、その臭い中身を掻き回すのは人員的にも予算的にも難しい問題が山積みであるのだ。

 今はただそれだけ。

 一般市民はSPETの仕事については何も知らない。すれ違っても、よくわからないどこかの機関の車程度の認識だ。

 まさかこれが、地底で化け物のような虫と戦闘しているなど想像もしていないだろう。

 その車、まさに今通過していた戦車のようなトラックも、実は化学武装を施された殺虫専用大型車、その名も駆逐トラックだ。

 色さえ迷彩にでも変えてしまえば、どこの軍隊かといったほど無骨さ溢れる大型車だが、その敵は戦車でも倒せない怪物だ。


 そしてそれが本日向かう先。

 それは中日本支部管轄の尾張中京下、その地底数千キロだ。

 ここは怪虫の脅威が相対的に低いと考えられてきた場所であったが、今日に限っては不穏な空気が漂った。

 何もなければそれでいい。

 災害は弱いところを突いて来るとは良く言われたものだが、中日本にあってはまさしくそれなのかもしれない。

 地底開発史以来、中部圏の地下では未だかつて度を超えた虫は発見されていない。いてもせいぜい蚊かゴキブリ程度。ここにSPETが配備されないのもそう言う訳だ。

 ただ情報では、例の男が消息不明ときた。

 だから何という訳ではないが、何かと事件や災害に縁が多い男だ。正直嫌な予感しか湧いてこない。

 

 あれとはもう3年ぶりときた。

 あの忌まわしい事件以来、活動の話を聞いていなかったため、てっきり死んだとばかり思っていた。

 それもそうだ。あの大怪我で、誰も生きているとは思うまい。

 

 それで、今更こんなところで何をしているのだろうか。

 確かな能力がある人間なのだ。こそこそせずに、また表で活躍すればいいものを。

 何か理由があるとも考えられるが、会ってみなければわからないだろう。

 少なくとも、あれに隠居など似合うはずがない。



 地下高速道を猛牛の如く暴れ狂う大型車は、駆逐トラック関西1号車。

 ダブルキャビンの6人乗りに、2人しか乗車していない理由は、単にお忍びでやってきたからだ。

 こんなに喧しくして、どこを忍んでいるのかという問題はさておき、今日の小隊は隊長、そして副隊長のみ。

 仕事は何事もさっさと済ましてさっさと帰宅するのが優秀な者のすることだ。時間外業務などもっての他。

 アクセルを踏める仕事なら、踏めるだけ踏んでさっさと終わらす。

 そして疲れを残さず退社するべき。

 またそれは、今地下に潜っている奴も同じだ。

 誰にも、一人で残って仕事などはさせない。

 そんなポリシーが、きっとあってもいいだろう。


「よっし、尾張到着!」

「よっしゃぁ!!味噌カツ!きしめん!エビフライ!」

「さっさと終わらしてすぐ帰ってやるんだから。」

「そして食いもんを食らう。」


 尾張中京都到着。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ