出会い
トーヤが振り向くとそこには赤毛の少女が立っていた。
少女はもじもじとしており、こちらをちらちら見ていた。とてもなにか言いたそうな雰囲気だ。
「え、えっと、私はセイナと言います。こっちに来たばかりでなにもわからなくて...」
「なんだ。そういうことか。なら他を当たれ。俺もこっちに来たばかりなんだ」
「えっ、?そうなんですか?じ、じゃあ街までの道を教えてください」
「お前、俺の話を聞いてなかったのか?来たばかりと言っただろ。道なんぞ知らん。これから適当に歩くつもりだった」
「うぅ、じゃあ一緒についていってもいいですか?」
「構わんが、お前職業なんだ?杖持ってるし魔道師か?」
「?魔道師ってなんですか?私は、回復師です」
「ちょっと待て、考えさせろ」
「??」
トーヤは目をつぶり考えた。
(あのガキの選択肢に回復師なんてなかった。考えられるのは三つ。あいつが意図的に教えなかったか。なれる職業は人によってきまっているのか。そしてもう一つが、狭間の世界は一つではない、か。だな。たしかあのガキの名前はーーー)
「おい」
「は、はい!」
突然声をかけられびくっ、とするセイナ。
「狭間の世界は通ったよな?」
「は、はい」
「そこにいた奴の名前は覚えてるか?」
「はい。たしかレイナードというご老人でした」
「なるほどね。そういうことか」
「えっと、あの、どういうことです?」
「いや、いい。こっちの話だ」
「そうですか...、あ、あの!」
「ん?なんだ?あー、着いてくるのか?」
「えっと、それもなんですけど、あの、お名前を教えていただけないでしょうか?」
「あぁ。名乗ってなかったな。俺はトーヤだ。で、着いてくるのか?」
「はい!よ、よろしくお願いします!トーヤさん!」
「よろしくな。セイナ」
二人は軽く握手をし、行く宛もなく、てきとうに歩きはじめた。
「......」
「......」
特に話すこともなく、ただ、気まずい空気が二人に漂っていた。
「あ、あの、トーヤさん!」
「ど、どうした?」
最初に沈黙を破ったのはセイナだった。
「えっと、えっと、いい天気ですね!」
「ん?あぁ、そうだな。星がきれいだ。あっちでは星なんてみえなかったもんな」
「そうですよね。やっぱり自然が多いからですかね」
「でもよ、なんかさ......」
「??どうしました?」
トーヤは空を見上げて、
「なんか違うだろ!」
「ま、まぁ、確かにそうですよね」
そう、トーヤたちが見たのは星だった。
「いやさ!もっとさ、なんてゆうかな。光輝いていてさ、『あれがなにであれがなにで、ほら。あれでなに座なんだよ』とかするだろ!なんで『星』っていう漢字が光輝いて散らばってるんだよ!」
トーヤが思っていたことをぶちまけた。
「あ、トーヤ!あれってさそり座ですよ!」
「なんでそんなことわかるんだ?」
「えっとですね、目を凝らしたら光の線が浮かびあがってきて、その座の説明もしてくれますよ」
「...つっこまないぞ、俺はつっこまないぞ」
セイナの言葉にトーヤはふるふると震えながら耐えている。
「あ、すぐとなりにオリオン座がありますよ」
「なんでだよ!」
トーヤは耐えきれずにつっこんでしまった。
「どうしたんです?」
星座にあまり詳しくないセイナらキョトンとしている。
「さそり座のとなりにオリオン座があるなんてありえん...、セイナ、因みに説明はなんて書いてある?」
トーヤは頭に手を当てながらセイナにきいた。
「えっとですね、『オリオンは海の神、ポセイドンの息子。オリオンは、巨人のように背が高く、男子で腕の良い狩人でした。
ーーーーー中略ーーーーー
この手柄で、サソリは星座となり天に上げられました』がさそり座ですね」
「説明なげーよ!つーかガチモンじゃねぇーか!」
「ひ!す、すみません」
「い、いやセイナは悪くねーよ。そんな星座をとなりに置いているこの世界に物言ってるだけだ。で、そのオリオン座の説明は?」
「えっと、『オリオンがサソリに刺されるシーン』以上ですね」
「......もうつっこむだけ無駄だな」
トーヤは異世界の理不尽につっこまないとこころに固く誓った。
「うぅ、すみません。トーヤさん...、私のせいで...」
「いや、気にするな。こういうのを見ると改めて実感するよな。『俺たちは異世界に来たんだぞ』ってな」
落ち込むセイナにトーヤは優しく笑いかけた。
「トーヤさん......!!」
「ん?おぉ!セイナ!灯りが見えていたぞ!たぶん、いや十中八九街だ!」
街が見えたことに興奮するトーヤ。
「あ、本当ですね!やりましたね!」
セイナも同じくはしゃいだ。
「よーし!もう目と鼻の先だ!行くぞ!」
「はい!」
二人は意気揚々と街へと歩きはじめた。