クロウさんのポートレート3
午後の早い時間、街に買い物に出た。
窓際に飾るためにリースを買おうと思い立ったのだ。
リースにもいろいろある。私は魚のリースにした。生臭さが抜けないかもしれないけれど、空中を舞う魚は圧巻で見逃しがたい。
店から出てみると、空は雨模様。しとしとと降ってきた。
はて困ったと店の軒先に突っ立っていると、珍しくクロウさんに会った。 立派な黒い口髭と黒い太いしっぽをピンと立てて、こうもり傘を差している。
「クロウさん、お散歩ですか?」
私が声をかけると、クロウさんは傘の片側を貸してくれた。
私は傘の片側をもってクロウさんにお礼を言った。
クロウさんはこっくりとうなずいて、口髭をいつものようにむしっている。
昼間クロウさんがうろつくことは珍しいことだ。きっと野っぱらに住んでいる親友に会いに行ったのだろう。
変わり者のクロウさんの親友は、ねじれた木のうろに住んでいて、一度だって顔を見せたことなんかない。
クロウさんはただいつものようにステッキをふりふり、木の根元に立っているだけだ。
時折ステッキの先で地面をコツコツたたくと、木のうろからコツコツと音が返ってくる。
二人は私には分からない方法で通信しあっているのだろう。
私は傘の片側を借りたまま、クロウさんと別れた。
クロウさんが辻道の一本に入ると、どこからか二、三歳の子供達がもつれながらやって来て、楽しげにクロウさんの後を追っていった。
あの子供達はクロウさんの悩みの種じゃなかろうか。
よく、ススキが原で輪をかいてダンスを踊っている。
輪の真ん中に火をこしらえて、くるくると回り続ける。
キラキラとひかる青い小石をクロウさんに投げ付けて、子供達は自分の存在をクロウさんに知らせる。
クロウさんは石つぶてをステッキで払い落としながら、やっぱり黙って口髭をむしっているのだ。
私はそんなクロウさんを尊敬してしまう。
そう言えばクロウさんは最近とがった耳が隠れる黒いシルクハットを手に入れて、得意げにかぶっている。めったに頭からはずさない。
どうやら野っぱらの親友がそこに引っ越したらしい。
クロウさんがシルクハットのつばをトントンとはじくと、シルクハットの中からカリカリと音が返ってくるのだ。
一度くらいなら紹介してくれるかも知れない。
だけど、クロウさんに会うと、いつもそれを言うのを忘れてしまうのだ。




