クロウさんのポートレート2
真夜中、布団を頭までかぶって耳をすませていると、いろんな音が聞こえてくる。
心臓の音、鼻息、今日食べたご飯が内臓を巡る音、身じろぎする音。窓に当たる雨粒、遠くできしむ車のタイヤの音。
不規則な時計の針、隣の家の人の声、どこかでテレビがついている。頭の中に響く電波の命令。
暗闇に目をこらしていると、小さな光の粒がうごめいている。
じっと見ていてやると、そいつらはあわてて隠れてしまう。
セピア、モスグリーン、藍色、コバルトブルー、なぜかレモン色。
朱色、オレンジ色、蛍光グリーン。
グレイ、黒っぽい紫。
粒々が重なり合って怪物になる。
キーンとガチガチうなりながら、部屋の天井を飛び回ったあげく、なんだか飽きてきて、もみくちゃにすると、つぶれて消えた。
部屋の四隅を見ていると、黒い塊が肩を寄せあっている。
小さな金色の瞳をしぱしぱまたたかせて、時折こっちを見つめる。
小さな声で呼んでみる。
名前なんか知らないけど、電波が知らせてくるから、知らなくても知っているんだ。
けれど、あいつらが来ないことは分かっているのだ。あの生き物は部屋の四隅でしか生きていけないんだから。
布団にもぐりこみ、道路を滑るタイヤの高いきしみ声から逃げる。まるでヒステリーの女の人みたいな声で、神経が逆なでされる。
布団の内部でほっと息をつくと、生臭い自分の体臭に安心する。
クロウさんがこっちを見て、カチリとステッキの先を鳴らした。
布団をはぐってクロウさんのいる遠い原っぱへ駆け出した。
原っぱの雨で濡れた地面を素足で蹴散らして、いっぱい水しぶきが跳ね返った。
パジャマがびしょぬれになったけど、後ろを振り向かないのだ。
クロウさんが小粋にステッキを振り回している。
そのうしろに五、六人の子供達が包丁をもって、クロウさんのしっぽをねらっている。
右手には白いしっくいの壁が、果てしなく伸びている。
ここは自分の場所だ。
ああ、夢を見ていたのだと、気付いた。




