第112話 目覚めさせてやれ
アメリカ側の狙いは、単純明快だった。
保守派である鷲尾が政権の座にあるうちに、有利な条件で新素材の確保について合意文書を締結してしまう。それを、中間選挙、そして二期目の大統領選を勝ち抜くための、確かなカードにする——それが、本国の描く筋書きだった。
同時に、鷲尾政権が揺らがぬよう、交渉材料として、議員連盟——沢田を中心とするライバル派閥の情報を、餌として使うことも検討されていた。
友好を装いながら、裏では、政局そのものにまで手を伸ばそうとする。それが、アメリカ側の交渉方針だった。
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拓也の法人設立に向けて、神崎は、共同代表への就任を頼み込むため、東條葵の父・浩一の元へ足を運んだ。
神崎と拓也、両者の名を出しての依頼に、東條は、了承の意を示した。
役員体制は、そこから、着々と固まっていった。家族会からは、結城の母と皆川の母が名を連ね、外部からは、神崎の同期で、元文科省、現在は民間の専門家として活動する三田村が、取締役として加わった。加えて、顧問弁護士と公認会計士の起用も決まり、ようやく、活動を始められる体制が整った。
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佐伯には、自信があった。
自分のホラのような話が、本当の話へとひっくり返る——その決め手が、拓也の存在にあることを、佐伯自身、よく分かっていた。
佐伯の同期・大野は、自分の利益のためではなく、仕事として、この話に付き合ってきた男だった。あまりに美味すぎる話を、真剣な顔で語る佐伯を見て、馬鹿にはしないまでも、思わず、小さく笑ってしまうこともあった。
だが、最後に差し出された、一枚のA4用紙——役員名簿を見て、大野の表情が変わった。
共同代表・中野拓也。東條浩一(家族会)。取締役・三田村(元文科省)。顧問弁護士、公認会計士——きちんとした名前が、そこに連なっていた。
「おい佐伯、この三田村さんって、あの有名な三田村さんか?」
「あー、うちのボスの同期で、お願いしたらしい」
「へえ……」
「次来るときは、拓也くんを連れてくるから、話を聞いてくれ」
約束の日、佐伯は、都内の静かな個室のある料理屋で、打ち合わせの場を設けた。
「数日前まで公務員だったんだが、今は会社経営者の、中野拓也くんだ」
「翔文社の、大野です。佐伯とは、大学の同期で」
「中野拓也です」
「早速で悪いけど……異世界語って、あるの?」
「正確には、グレーカレコ王国で使われている言語ですが、帝国の言葉なので、他の国でも通用します」
「へえ、詳しいね。じゃあ、例えば——『今日は朝まで雨でした』って、どう言うの?」
拓也は、スマートフォンを取り出し、文字を打ち込んだ。
「△◇□◎※♢」
発声すると同時に、画面を見せる。
「え、何語? この文字?」
「中野くんは、高校生の有名人だよ。剣道だけど、知らない?」
「佐伯、今、そんなの関係ないから」
佐伯は、声を落とした。
「拓也くんは、異世界から帰ってきたんだよ。お前の会社で、異世界マニュアル本を出してるだろ。大学のとき、アッチ物サークルで、好きすぎて今の会社に入ったくせに」
「あの本は、仕事ですから」
「拓也くん、何か見せてやってくれ。こいつを、目覚めさせてやれ」
「はあ……小さい灯を」
「うおー!」
「静かに」
佐伯が、思わず声を張った。
「次は、小さい火を」
「おー!」
「両方」
「おー!」
「目が覚めたか。本物だ。分かってると思うが、今見たことは、守秘義務な。俺は、公務の延長で、拓也くんをサポートしてる立場だ」
「おい、佐伯……口を割らなきゃ、異世界の情報、入手できるのか?」
「上に聞かなきゃ、分からない」
「それより、話を上に通すことは、可能か」
「あー……俄然、やる気が出てきた」




