第110話 夫婦になった日
緒方は、侯爵家から派遣された家令に、自分の身分に見合った段取りで式を進めるよう指示した。
数日後、簡素ながらも整った式が、滞りなく執り行われ、緒方とエレーナの夫婦生活が始まった。
ごく当たり前のことではあったが、緒方にも、人並みの性欲というものは、確かにあった。
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佐伯は、翻訳本事業について、三つの案を提示した。
「一つ目は、超大手一社とだけ組む方法です。その企業一社とだけ契約すれば、あらゆる本をまとめて仕入れられます。窓口は一つで済みます」
「二つ目は、本の『問屋』一社とだけ組む方法です。ここを通せば、日本中のあらゆる出版社の本が、窓口一つで手に入ります」
「三つ目は、『印刷会社』一社とだけ組む方法です。日本のフリーランスを個人で雇い、この世界に合わせた独自の図鑑や教科書のデータを作らせます。あとは、日本の印刷会社一社にそのデータを送って、本にしてもらうだけです。他人の著作権も気にせず、利益も独占できます」
佐伯は、そこで一呼吸置いた。
「結論として、私は三つ目——日本の印刷会社一社とだけ付き合い、拓也くんに法人を立ち上げてもらって、そこでこの世界専用の本を流行らせる方法から、始めたいと思います」
「これは、日本の業界が潤うのか」
神崎が、そう問う。
「超大手一社、あるいは問屋一社を選んだ場合は、日本の出版業界全体が儲かります。ですが、三つ目の場合は、最終的に、特定の印刷会社と、一部の個人——フリーランスだけが、儲かる形になります」
「一と二番の方が、国益に沿うのではないか」
「一番なら……同期が、翔文社で働いていまして、今、そこそこ偉くなっているんですが」
「……このプロジェクトの、日本側の公式窓口として、その人物を巻き込むことはできるか」
神崎の問いに、佐伯は、少し考えるような顔をした。
具体的な巻き込み方については、次の機会に、改めて詰めることになった。
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地球側でのやり取りをよそに、王国側では、いつも通りの任務が続いていた。
隼人とシルヴィアは、公私の切り替えだけは、きっちりできる二人だった。
任務で野営することになっても、二人が同じテントに入ることは、決してない。
周囲も、その徹底ぶりに、いっそ感心するほどだった。
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そんな中、地球側からは、一つの報告が届いていた。
魔石廃材を使った実験について、多少なりとも製品化の目処と言える数値が出た、との報告書が、神崎の元に届いた。
まだ、完成にはほど遠かったが、着実に、前進していることだけは、確かだった。
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同じ頃、日本国内では、これまで水面下で進められてきたある成果が、表舞台へと出ようとしていた。
ステルス機の存在は、ついに、政府の手によって公開された。
表向きは、「従来品の二倍の耐性を持つ、新型耐熱塗料の採用」という発表だった。映像が公開され、その滑らかな機体が、初めて世間の目に触れることになった。
だが、防衛省内部の資料には、まったく異なる記述があった。
エンジン周辺、そして垂直着陸のために複雑に可動する三ベアリング機構(3BSD)の可動部、外殻に、エテリムが使用されている。エテリムは、一定条件下で加工すると、アルミ並みの加工のしやすさでありながら、強度と軽さはチタン並みという結果を示した。加えて、耐熱性と、レーダー波の吸収性能も併せ持つ。
将来的には、機体の骨組み——フレームそのものへの使用も、視野に入れられている。
そして、何より重要なのは、これだけの性能を持ちながら、鉄並みの価格で仕入れられるという点だった。それこそが、この資源の、最大の強みだった。




