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廃ゲーマーは異世界で第二の人生を謳歌する  作者: 咲く桜


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006.門番

 白輝竜ルミナ=ヴェルザードが翼を広げた瞬間、空気が凍りついた。

 雪のように白い鱗。

 光を反射して輝く翼。

 淡い金色の瞳は、まるで“神”のような静謐さを宿している。


 だが、その存在感は圧倒的だった。

 ただそこにいるだけで、山全体が震えている。


「……やるしかないな」


 短杖を握り、刀の柄に触れ、深く息を吸う。


「《身体強化・瞬歩》」


 足元の空気が弾け、視界が流れる。

 白輝竜へ向かって一気に距離を詰める。


 だが──


 ズンッ!!


「っ……!」


 地面が陥没した。

 白輝竜が“ただ翼を振っただけ”で、衝撃波が山肌をえぐり取ったのだ。


 俺は咄嗟に《軽身》を重ねがけし、衝撃を逃す。だが、足が痺れる。骨が軋む。


「……これで、ただの一撃かよ」


 ベルクライム・ロードの知識が通用しない。

 この世界の“現実の竜”は、桁が違う。


「《武器付与・斬撃強化》……《精神強化・集中》」


 黒曜刀に魔力を流し込み、短杖に集中付与を施す。魔術と近接の複合で、一気に畳みかける。


「《アイスランス》!」


 氷槍が白輝竜の首元へ飛ぶ。

 だが──


 ピシィッ……!


 氷槍は、竜の鱗に触れた瞬間に砕け散った。


「……硬すぎるだろ」


 中級魔術が“かすり傷すらつけられない”。

 ならば──


「《弱体付与・鈍化》!」


 薄い光が竜の体表に触れた瞬間、

 白輝竜の動きがわずかに鈍った。


「効いてる……!」


 だが、その一瞬の隙を突こうとした瞬間──


 ゴォォォォォッ!!


 白輝竜が口を開き、白い光が収束する。


「……まずい」


 直感が叫んだ。

 次の瞬間、世界が白に染まった。




 轟音。

 爆風。

 地面が抉れ、山肌が吹き飛ぶ。


「ぐっ……あああああっ!!」


 《瞬歩》で横へ跳んだが、完全には避けきれない。肩から腹にかけて、焼けるような痛みが走る。

 視界が揺れ、膝が折れた。


「……っは……っ……!」


 息ができない。

 肺が焼けるようだ。

 白輝竜は、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。その足音だけで、地面が震える。


「……これ……死ぬな……」


 本気でそう思った。

 魔術も、付与術も、内功も、

 すべてを使っても“届かない”。


 白輝竜は、ただの魔物ではない。


 “塔の門番”として存在する、理不尽なまでの強さを持つ存在だ。


 だが──ここで死ぬわけにはいかない。


 創造士への道は、まだ始まってすらいない。


「……まだだ……!」


 震える手で短杖を握り直す。


「《身体強化・超反応》……《魔力付与・増幅》……!」


 限界を超えた付与を重ねがけする。

 体が悲鳴を上げる。

 血管が破裂しそうだ。

 だが、やるしかない。


 白輝竜が翼を広げ、再び白い光を収束させる。


「……来いよ……!」


 だが、諦めるわけにはいかないのだ。

 俺は地面を蹴り、白輝竜へ向かって飛び込んだ。


 白輝竜ルミナ=ヴェルザードの喉奥に、再び白い光が収束していく。

 空気が震え、地面が軋み、世界そのものが“白滅”に飲まれようとしていた。


 次の一撃が直撃すれば、本当に死ぬかもしれない。


「……来いよ……!」


 俺は地面を蹴り、白輝竜へ向かって飛び込んだ。


 ゴォォォォォッ!!


 白い閃光が放たれた。

 避ける暇などない。ストレージから使い捨ての防御アイテムを取り出し使用する。

 視界が白に染まり、世界が消し飛ぶ。


「ぐっ……あああああああっ!!」


 アイテムを使用してもなお、皮膚が裂け、血が蒸発し、骨が軋む。

 《軽身》も《瞬歩》も、焼け石に水だ。

 地面に叩きつけられ、転がり、岩に激突する。


 呼吸ができない。

 肺が焼ける。

 視界が揺れ、意識が飛びそうになる。


「……っは……っ……!」


 死ぬ。本気でそう思った。


 だが──


 まだ終われない。

 ここで死ぬわけにはいかない。俺は強くなって、あいつに会いに行かないといけないんだ。


 震える手で短杖を握り直す。血が滴り、指が震え、視界が霞む。


「《身体強化・超反応》……《精神強化・極限》……!」


 限界を超えた付与を重ねがけする。

 体が悲鳴を上げ、血管が破裂しそうだ。だが、やるしかない。

 白輝竜が翼を広げ、再び光を収束させる。


「……まだだ……!」


 俺は短杖を地面に突き立て、魔力を圧縮する。


「《魔力付与・増幅》……《武器付与・斬撃強化・極》……!」


 黒曜刀が白く輝き、龍髭鞭が雷を纏う。短杖には魔力が渦を巻き、空気が震える。

 白輝竜が咆哮を上げた。


 その瞬間──俺は地面を蹴った。

---


「うおおおおおおおっ!!」


 白滅光が放たれる。

 だが、今度は完璧に避けた。


 《超反応》で世界がスローモーションに見える。

 《軽身》で空気を踏むように跳ぶ。


 白い閃光が頬をかすめ、皮膚が一部焼ける。だが、止まれない。


「《弱体付与・鈍化・重圧》!!」


 白輝竜の動きが一瞬止まる。

 その隙を逃さず、刀を振り抜く。


「はああああああっ!!」


 黒曜刀が白い翼をなんとか斬り裂いた。


 ズバァァァッ!!


 白い鱗が飛び散り、竜の翼が大きく裂ける。

 白輝竜が苦悶の咆哮を上げ、体勢を崩した。


「……効いた……!」


 だが、まだ終わりではない。

 白輝竜が反撃のだに尾を振り上げた。

 その動きは、先ほどよりも速い。


「っ……!」


 攻撃直後のため、今の体勢では避けきれない。


 ドゴォォォォッ!!


「がっ……!!」


 尾が直撃し、俺の体は空中を舞い、岩壁に叩きつけられた。

 肺の空気が全部抜け、視界が暗転する。

 肋骨が数本折れた。腕が痺れて動かない。血が口から溢れる。


「……っ……まだ……!」


 白輝竜がゆっくりと近づいてくる。

 その瞳は、まるで“試すように”俺を見下ろしていた。

 なぜか殺気は感じない。塔へ向かう者を試す“門番”。


 その意味が、今ようやく理解できた。


「……押して、参る……!」


 俺は最後の力を振り絞り、短杖を握る。


「《精神強化・極限》……《魔力付与・増幅》……《弱体付与・拘束》……!」


 白輝竜の動きが一瞬止まる。


 その瞬間──


 俺は短杖を地面に叩きつけた。


「《アイスランス・連撃》!!」


 十数本の氷槍が一斉に生成され、白輝竜の足元、翼の付け根、関節部へと突き刺さる。


 ズガガガガガッ!!


 白輝竜が咆哮を上げ、巨体が揺れる。足が崩れ、翼が折れ、地面に倒れ込む。

 完全に倒したわけではない。

 だが──


 門番も行動不能。

 

「……っは……っ……もう、動けねぇ……」


 膝が折れ、地面に倒れ込む。視界が揺れ、意識が遠のく。

 白輝竜は、静かにこちらを見つめていた。

 その瞳は、どこか“認めるような”光を宿していた。


「……塔へ……」


 意識が途切れる直前、俺はそう呟いた。


 意識が戻った瞬間、まず感じたのは──


 痛みが、ない。


「……あれ……?」


 ゆっくりと目を開ける。

 焦げた地面の匂いも、焼けるような痛みも、折れた肋骨の違和感もない。

 むしろ、体が軽い。全身が澄んだ水に浸かったような感覚だった。


 完全に回復している。


 だが、それ以上に──

 視界に入った“存在”に、思考が止まった。


「……目覚めたか、人の子よ」


 澄んだ声。

 振り向くと、そこに座っていたのは──


 雪のように白く長い髪。宝石のような碧い瞳。

 透き通るような肌。そして、息を呑むほど整った顔立ち。


 人間離れした美しさ。

 だが、間違いなく人間ではない。


 起きた俺を見て、彼女は静かに微笑んだ。


「ようやく起きたな」

「……誰……?」


 問いかけると、彼女は小さく首を傾げた。


「ふふ。忘れたのか? さっきまでお前と死闘を繰り広げていたのだが」

「もしかして……白輝竜ルミナ=ヴェルザード……?」

「おや、私の名前を知っていたのか。人の姿を取っているが、間違いなく私だ」


 彼女──白輝竜ルミナ=ヴェルザードは、


 まるで当然のように俺の隣に座っていた。


 距離が近い。

 近すぎる。

 今にも唇と唇が触れ合いそうなほど。

 あと、なんか柔らかいものが当たっている


 白い髪が肩に触れ、碧色の瞳がまっすぐこちらを見つめてくる。


「……なんで、人の姿に?」

「お前が起きた時、巨大な竜が隣にいたら困るだろう?」


 さらりと言う。

 確かに困る。

 心臓が止まる。


「それに──」


 彼女は自分の胸元に手を当て、静かに言った。


「お前を治すには、この姿の方が都合が良かった」

「治す……?」

「そうだ。お前は死にかけていた。だが、私の力で癒した。……久々に全力を出したせいで、つい張り切ってしまったがな」


 その表情は、どこか楽しげだった。


 戦闘を心から楽しんでいた──そんな気配がある。

 彼女はふと視線を逸らし、少しだけ頬を染めた。


「……お前との戦いは、悪くなかった。いや……正直に言えば、胸が躍った。あれほどの全力を出したのは、何百年ぶりだろうな」


 その声音には、抑えきれない高揚が滲んでいた。


「だから……その……」


 言い淀む。

 竜らしからぬ、どこか人間的な仕草。


「気付けばお前ともっと……そばにいたい、と思った」


 その言葉に、胸が跳ねた。

 だが、彼女はすぐに首を振る。


「……だが、私は塔の門番だ。勝手に持ち場を離れるわけにはいかない」


 その表情は、苦しげだった。

 葛藤が、はっきりと見える。

 俺の口から、素直な言葉が口をついてでた。


「……俺と来ないか?」


 その一言に、ルミナの肩がびくりと震えた。

 金色の瞳が大きく見開かれ、唇がわずかに震える。


「……っ……だ、だめだ。私は門番……塔を守る役目が……」


 言葉とは裏腹に、その表情は“行きたい”と叫んでいるように見えた。

 だから、俺はもう一度言った。


「一緒に行こうぜ。ルミナが隣にいたら、心強い」

「……っ……!」


 ルミナは顔を伏せ、

 白い髪がさらりと揺れた。

 そして──

 小さく、震える声で言った。


「……そんなふうに誘われたら……断れないだろう……」


 だが、すぐに顔を上げ、真剣な瞳で俺を見つめた。


「……だが、今すぐは無理だ。次の門番を育てねばならない。門番を無人にはできない」

「……そうか」

「だが──」


 ルミナはそっと俺の手に触れた。

 その手は温かく、柔らかかった。


「必ず行く。次代の門番が育ち次第、すぐにお前の元へ向かう。……これは約束だ」


 彼女の碧眼が、まっすぐ俺を射抜く。


「だから……待っていてくれ、人の子よ」

「ルミナ、俺の名前はリンドグラール。よろしくな。リンデと呼んでくれ」

「リンドグラール……。いい名前だ。改めて、私は白輝竜ルミナ=ヴェルザード。リンデだけは、私をルミナと呼ぶことを許そう」


 気丈に言う彼女の頬は、元が白いせいもあり、隠しきれないほど真っ赤なのがとても印象的だった。

 俺は短杖を握り、刀の柄に触れ、深く息を吸う。


「ルミナ……わかった。待ってる」


 ルミナは静かに微笑んだ。

 その笑顔は、竜とは思えないほど柔らかかった。

 白い髪が風に揺れ、金色の瞳が優しく細められる。


 その姿は──

 竜であり、そして、ひとりの美しい女性でもあった。


 塔へ向かう前、俺はしばらくルミナと共に過ごすことにした。


 理由はふたつ。ひとつは癒しの力が、どうしても必要だと感じたからだ。


 ふたつめは単純だ。……ここに来てからというもの、俺はほぼずっと1人だったため、誰かと喋りたかったらしい。幸い、ルミナもそのようだったので意気投合した。


 白輝竜ルミナ=ヴェルザードの癒しの光──

 あれは人間が扱える領域の魔術ではない。

 生命の根源に触れる、竜種だけの特権らしい。


 本来なら、絶対に習得できない。


 だが俺には、真魔竜から得た竜言魔術。

 そして、SPスキルポイントという“例外”がある。


 今の俺ならおそらく、無理やりでもねじ込める。


「リンデよ……本当に覚えるつもりか?」


 ルミナは白い髪をさらりとかき上げ、碧い瞳でこちらを覗き込んでくる。

 距離が近い。

 近すぎる。

 わざとだろう。

 嬉しいけども。


「癒しの光は、本来人間の器では扱えぬ。下手をすれば、生命力が逆流して死ぬぞ?」

「それでも必要なんだ。塔では絶対に死ねない」

「……ふふ。強い目だな。そういう強情なところ、嫌いではないぞ?」


 ルミナは唇に指を当て、

 わざとらしく妖艶に微笑んだ。

 完全に“誘惑してくるお姉さん”だ。

 嬉しいけども。


「まあ……どうしてもと言うなら、私が手取り足取り教えてやろう。優しく、な?」

「……普通に教えてくれ」

「つれないな。だが、そういうところも嫌いではないぞ?」


 この竜、絶対に楽しんでいる。

 ……嬉しいけども!


「では──始めるぞ」


 ルミナが俺の手を取り、その指先から淡い光が流れ込む。


「……っ……!」


 胸の奥が焼けるように熱くなる。

 生命力そのものが揺さぶられる感覚。


「これが……癒しの光……?」

「そうだ。だが、お前の体はこの力を拒絶している。人間の器では当然だ」


 ルミナは俺の胸に手を当て、俺も一緒に竜言で静かに呟いた。


「《ル=アラ・フィリア》──“生命の器を広げよ”」


 竜言魔術が体内に響き、拒絶反応が少しずつ収まっていく。


「……今だ。SPとやらを使え、リンデ。この力を“スキル”として固定するのだ」

「わかった」


 ステータスウィンドウを開き、

 溜め続けてきたSPを一気に注ぎ込む。


【SPを150消費して《癒光術》を習得しますか?】

→ YES


 次の瞬間──

 光が弾けた。


 生命の奔流が体内を駆け巡り、俺の魔力回路に“癒しの系統”が強制的に刻み込まれる。


「……っ……は……!」


 息が漏れる。

 だが、成功した。


「……やったな、リンデ! 本当に……習得してしまうとは」


 ルミナは呆れたように笑い、そしてどこか誇らしげだった。


「では、次は実践だ。私がそばで見ていてやる」


 ルミナは俺の背後に回り、肩に手を置く。


 距離が近い。

 また近い。

 絶対にわざとだ。

 確信犯とも言う。

 嬉しいけども。


「集中しろ。……ほら、意識が逸れているぞ?」

「お前が近いんだよ」

「ふふ。気にするな。私は気にしていない」

「俺が気にするんだ」


 カラカラと笑い、完全に楽しんでいる。

 何度もいうが絶対にわざとだ。

 いや、嬉しいけども!


 だが、彼女の指導は的確だった。

 癒光術は魔術でも付与でもない。生命力の操作。その繊細さは、魔術の比ではなかった。


 実践として魔物を倒しながら、何度も何度も失敗し、何度もルミナに修正され、ようやく形になってきた頃──


「よし。これなら塔でも死にはしないだろう」


 ルミナは満足げに頷いた。

 その瞬間だった。


【信じ難い業績を達成しました】

【人類史上初、四つ目の職業取得条件を満たしました】

【職業「創造士」に転職しました】

【称号「超越者」を獲得しました】

【信じ難い業績に対する報酬が与えられます】


 空気が震えたように感じた。

 世界そのものが揺らぐような感覚。


「……っ……!」


 視界が光に包まれ、体の中心に“創造の核”のようなものが生まれる。

 魔術でも、付与でも、アルケミーでもない。もっと根源的な、世界の法則に触れる力。

 光が収まると、ステータスウィンドウには新しい職業が刻まれていた。


【職業:創造士】

【称号:超越者】


 ついに──

 ついにここまで来た。


 ルミナは呆然とし、そしてゆっくりと笑った。


「ふふ……リンデ。お前、本当に……とんでもない存在になったな。先ほどと比べて、魂の格が上がっているのがわかるよ」


 彼女は俺の頬に手を添え、碧色の瞳で覗き込んでくる。


「……そんなお前の隣に立てる日が、楽しみだ。その時はもっと積極的にいくぞ?」

「……お、お手柔らかにな?」

「ふふ。照れるな。私は本気だぞ?」


 完全に誘惑してきている。

 嫌ではない。ずっと1人だった俺からすると、この純粋な好意は嬉しい。

 ……嬉しいのだが。


 ルミナはあの巨大な竜なんだと思うと、怒らせないようにしないとなぁ、と感じてしまう。

 まだ勝てるような相手ではない。それほどにルミナは強大な存在なのだ。ルミナが俺への攻撃を止めたのは、俺を認めてくれたからな。


 癒光術の修行を終え、焚き火の前で休んでいると、ルミナがふいにこちらへ歩み寄ってきた。

 白い髪が揺れ、碧色の瞳が焚き火の光を反射して揺らめく。

 その姿は、竜とは思えないほど人間的で──

 そして、やはり美しい。


 ルミナは焚き火の前に腰を下ろし、真剣な表情でこちらを見る。


「リンデ。次の門番を……お前と一緒に決めたい」

「俺と?」


 ルミナは静かに頷いた。


「私は塔の門番。勝手に持ち場を離れることは許されぬ。だが──」


 彼女は少しだけ視線を逸らし、白い髪を耳にかけながら小さく呟いた。


「……本当は、今すぐにでもお前についていきたい」


 その声音は、竜とは思えないほど人間的で、どこか切なかった。


「お前と戦った時……胸が躍った。久方ぶりに“生きている”と感じた。気付けば私は……お前の隣に立ちたいと思うようになっていた」


 その言葉は、焚き火の音にかき消されそうなほど小さかった。


「だが、門番の役目を放り出すわけにはいかない。だから──」


 ルミナは俺の手をそっと握った。


「次代の門番を誰にするか……一緒に考えないか?」


 金色の瞳が、まっすぐ俺を見つめてくる。


 その瞳には、“お前と一緒にいたい”という願いと、“責務を果たしたい”という葛藤が混ざっていた。


「わかった。一緒に探そう」


 ルミナの表情が、ふっと緩んだ。


「ありがとう、リンデ。……やはり、お前は良いな。実はもう候補は絞ってあるんだ。夜が明けたら会いに行こう」

「おう」

「さて……次はリンデの番だな」

「俺の番?」

「創造士とやらになったのだろう? その力を、まずは自分で確かめるといい」


 ルミナが促すように頷く。

 俺はステータスウィンドウを開いた。


 そこには──

 新しい項目が追加されていた。


●●―――――○○

職業:創造士(NEW)

称号:超越者(NEW)

固有スキル:

創造権限クリエイション・オーソリティ

概念付与コンセプト・インプリント

物質再構成マテリアル・リビルド

魂視ソウルサイト

• ???(ロック中)

●●―――――○○


「……これは……」


 思わず息を呑む。

 魔術でも、付与でも、アルケミーでもない。

 もっと根源的な、世界の“法則”に触れる力。


「生命の創造……創造士だったあいつが強かった理由がよくわかるな」


 ルミナが隣で覗き込み、碧色の瞳を大きく見開いた。


「……リンデ。お前……本当に人間なのか?」

「どういう意味だ?」

「生命の創造……それは竜ですら至れぬ領域だ。世界の根幹に触れる者……“超越者”の称号も納得だな」


 ルミナは呆然とし、そしてゆっくりと笑った。


「ふふ……やはりお前といると楽しそうだな。ますますお前の隣に立ちたくなったぞ?」

「……はは、そりゃ嬉しいことで」

「照れるなリンデ。私は本気だぞ? ――――そうだ。今晩あたり、どうだ?」

「……か、勘弁してください」


 完全に誘惑してきている。

 いじられているのか?

 いや嬉しいけども。

 ここ数年一人でいた俺にとっては、かなり刺激が強い。


 創造士への転職を終え、ステータスウィンドウを閉じようとした時──ふと、もうひとつの項目が目に入った。


【称号:超越者】


「……そういえば、これの効果をまだ見てなかったな」


 俺が呟くと、隣でルミナが興味深そうに覗き込んでくる。


「超越者……人間が持つには、あまりにも大きすぎる称号だな。どれ、見せてみろ」


 ルミナが身を寄せてくる。

 距離が近い。

 また近い。

 肩に何か柔らかいものが当たっている。

 何かは言わずもがなだ。

 ありがとうございます。


「……近い」

「気にするな、リンデ。私は気にしていない。いや、むしろ気にしてくれていいんだぞ?」


 くそう。やはり余裕の年月が違う。

 ステータスを開くと、称号の詳細が表示された。


●●―――――○○

【超越者】

人類史上初、四つ目の職業を獲得した者に与えられる称号

• 全ステータス+20%(乗算)

• スキル習得効率+50%

• 魔力回路の許容量上昇(大)

• 生命力の自然回復速度上昇(大)

• 一部の高位存在からの“認識”が発生

●●―――――○○


「……これは……」


 思わず息を呑む。

 単純な強化ではない。

 世界そのものが、俺を“特別な存在”として扱い始めている。

 ルミナは目を細め、静かに言った。


「……リンデ。お前はかなり人間の枠を超えたな」

「そんな大層なものじゃないさ」

「ふふ。謙遜するな。私も負けてられないな」

「俺もまだまださ」


 なんせ、創造士のレベルはまだ1。塔を登るにはせめて20くらいまでは上げるべきだろう。四つ目の職業は今までと違い、経験値の必要量が桁違いになる。


 それに、レベルを上げるだけでなく何からしの条件をクリアする必要があるのだ。少なくとも、機巧魔技士はそうだった。


 いずれにしろ、候補たちに会いに行くがてらレベルを上げる修行をすればいいだろうな。

 よし。


 ステータス確認を終えた頃、空が白み始めていた。

 焚き火の火が小さくなり、冷たい朝の風が吹き抜ける。


「そろそろ行くか」

「そうだな。次代の門番候補に会いに行こう」


 ルミナは立ち上がり、白い髪を優雅に揺らしながら言った。


「候補は三体。いずれも、この地において“王”と呼ばれる存在だ」


 ルミナが指を折りながら名前を挙げていく。


白狼王フェンリル・ヴァルガ

 雪原を統べる白狼の王。

 俊敏さと統率力に優れ、群れを率いる器を持つ。

 ルミナ曰く「忠義深く、門番に向いているが、やや頑固」。


妖精王ティターニア・エルフィード

 森の妖精たちを束ねる王。

 魔力操作に優れ、結界術に長ける。

 ルミナ曰く「気まぐれで掴みどころがないが、力は確か」。


緑樹竜グラン・エルドラン

 大森林の守護竜。

 生命力と防御力に優れ、塔の門番としては最適。

 ルミナ曰く「真面目すぎるが、責務には忠実」。


---


「この三体の中から、次の門番を選ぶのか」

「そうだ。リンデの目でも見て、最も相応しい者を選ぼうと思う」


 ルミナは少しだけ寂しそうに笑った。


「そして、私が自由になったら──お前の隣に行く」


 その言葉は、誓いのように響いた。


「まずは誰に会いに行く?」


 ルミナが問いかける。


 白狼王フェンリル・ヴァルガ。

 妖精王ティターニア・エルフィード。

 緑樹竜グラン・エルドラン。


 どれも“王”の名に相応しい存在だ。


「……順番に会っていくさ」

「ふふ。頼もしいな、リンデ」


 ルミナは微笑み、俺の隣に並んだ。

 朝日が昇り、新たな一日が始まる。

 次世代門番を決める旅が、今始まった。

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