冒険者 40 エルフたちと
40 エルフたちと
各国の騎士団は、冒険者ギルドと同等の権威を持つ。
というので、私たちは「エルフの目的地とアトス・クアトロス神殿への道の分岐点まで、エルフの子供たちを護衛する」という仕事を受けたという証明書をもらった。
達成してどこかの冒険者ギルドに提出すれば、ギルド票に記入してもらえるという。
ま、提出はしないだろうけどね。
森の端でかたまっていたエルフたちの中から、三人が進み出る。
一人は昨日ひっくり返った(いやいや、これは忘れてあげなきゃ・・・)エルフたちのリーダー、後の二人は二頭の大きな動物と一緒。
ええと、馬・・・じゃなく・・・。
角の無い、〇ックル?
馬より小柄だけれど、大きな耳とつぶらな黑い眼。
白い身体に腰と足に薔薇の花のようにグレイの斑が入って。
(連銭葦毛という毛並みなのだと、あとで教えてもらった)
細いけれど筋肉のしっかりついた長い足の先は、二つに割れた蹄。
私の世界では見たこともない動物だったけれど、エルフっ子たちは見慣れていたらしく、鳥のさえずりのような声を上げて、嬉しそうに抱きつきに行った。
戻って来て、私の手を取って、傍に行こうという。
「気を付けろ、サンダリオンは人に馴れんぞ」
熊さん団長が後ろからささやく。
「この子たちはサンダリオンというんですか、団長さん」
「俺の事はレッドと呼べ」
熊さんは私を守るように一歩踏み出したけれど、二匹の耳がピン、と立ったのを見て、立ち止まる。
「森の奥深く住んで、めったに人間の前には現れない生き物だからな。
角を持つ雄は狂暴だが、雌は穏やかで優しい。
ゆっくり近づいて、匂いを覚えてもらえ、遥」
ヨミが静かな声で言った。
エルフっ子たちと近づくと、大きな二頭は両側から私に近づいて、ふっ、ふっと鼻を鳴らし、白い額を擦りつけてきた。
ビロードを張ったような固く温かい額にこわごわ触れると、大きな耳がぶるぶるっと震える。
続いて、後ろのヨミにもご挨拶。
傍についていたエルフが何か言って子供たちに手を差し出すが、二人はふるふると首を振って私の後ろに隠れてしまった。
エルフはちょっと傷ついた顔で、私に向かって、乗せてやれ、と手真似する。
うーん、先が思いやられるなぁ・・・。
私が碧ちゃんを、もう一頭にヨミが翠ちゃんを乗せてやると、もっとびっくりした顔でヨミを見る。
うん、ヨミには懐いてるのよ、二人は。
黙って見ていたエルフのリーダーは、二人がサンダリオンたちの背に落ち着いたのを見ると、片手で合図を送った。
残ったエルフたちが、ふわっと森に溶けるように消える。
「出発するぞ」の一言もなく、リーダーは振り向いて歩き出し、サンダリオンたちも動き出す。
私とヨミ、レッドになった熊さん団長も、あとに続いて森に入った。




