冒険者 38 魔女? その3
結局ヨハン君に手を貸してもらって、プレートメールの肩と胴の部分を脱ぐと、熊さんはそれをエルフの足元にがしゃんと放り出した。
これが武装解除の意思表示らしい。
鎧下に包まれた上半身は、幅も厚みもそこらの騎士とは比べ物にならぬほどの逞しさ。
「私はアルフレッド・マルドゥーク・バリアンスタール。
カラハンの騎士としてではなく、一個人としてそなたらと行動を共にする」
エルフは片方の眉をちょっと上げる。
わぁ、美形がやると様になることったら。
「カラハンか。黒森とダンジョンの国であったな」
「ならば理由は知れよう。
この女が聖女か否かが、わが国の存亡にかかわる大事だとな」
エルフは答えず、手にした弓を持ち上げ、害意なしと騎士たちに示すように、ゆっくりと矢をつがえ、空に向けてひと矢を放った。
「明朝、日の出と共に」
それだけ言うと、踵を返して仲間たちの所に戻っていき、全員溶けるように森に消えていった。
何の合図だったんだろう、と思いながらこっちもキャンプに戻ると、捕虜の見張りに残していた騎士があわてて走ってくる。
奴隷商人のズマが、空から降って来た矢で殺害された、と。
左肩と鎖骨の間に刺さった矢が、上からまっすぐに心臓を貫いていると。
・・・エルフの弓術、おそるべし。
『熊隊長も必死の様だの』
夕食後、帽子がのんびりと言った。
マントの左右に碧ちゃんと翠ちゃんを包みこんで、私たちは皆からちょっと離れて小さめな焚き火を焚いてあたっていた。
「『湧き』の前兆があるのかもしれん」
ヨミが答える。
「『湧き』って?」
『カラハンにはダンジョンが多い。三十層以上の大きなものが三つ。小さなものは数えてもおらぬだろう。
そして西の辺境は中央にまで広がる森林地帯がある。
長きにわたって瘴気が浄化されず、魔獣が増え続けると、凝った魔力が暴走し、魔獣が爆発的に増えることがある』
「狂った魔獣たちの群れが森から、ダンジョンから、溢れ出し、人里を襲う。
それが、『湧き』だ」
『カラハンはダンジョン産の魔石で有名な国だが、反面、昔から何度も大きな『湧き』に見舞われ、そのたびに甚大な被害を出してきた。
三十数年前に、国の冒険者の大半と騎士団の半数が壊滅した大きな『湧き』があったばかり。
此度の聖女の浄化がなければ、また同じことになろう』




