聖女 8 ヨミ
8
二人の少女に出て行ってもらって、やっと、やっと一人になって。
膝ががくがくして、しゃがみ込んだ私は、横についててくれた白い虎、ヨミに抱きついた。
虎は無表情に、それでも逃げずに受け止めてくれる。
うわーん、怖かったよー!
がっしりとした大きな頭。
夢なんかじゃない、しっかりとしがみつける温かい毛皮。
現実だ。これは現実だ。
この巨大な、素晴らしい生き物の存在感。
ありがとうヨミ。
あんたがいてくれるおかげで、パニックを起こして叫んだりせずにいられるんだ。
これは、現実の事だって。
そうか、でも、このヨミは。
少し落ち着いた私は、少し身体を離して、虎のサファイアブルーの眼をのぞき込んだ。
「あなた、ほんとにあのヨミだよね。
人に戻れるの?」
白い虎はしばらく考え込んだ。
そして、頭を下げ、ぐっと身体を曲げた、と思ったら。
一瞬で、人の姿に変身する。
うわー、そうか、裸だったー。
シーツ、シーツ。
寝台にかかってた布を慌てて引っぺがし、ギリシャの像みたいに、片方の肩からかけてもらったら。
ほんとにギリシャの青年彫刻みたいだった。
いや、青年と言うより、剣闘士と言った方がいいような、しっかり筋肉のついた逞しい身体。
健康器具のCMみたいに見事な大胸筋としっかり割れた腹直筋。すごく背が高い。
無表情だけど整った彫の深い顔立ちに、澄んだブルーの眼。
長めの黒髪は、両方のこめかみのあたりに白いメッシュが入っている。
あは、虎の時の色と黒白が逆だ。
ヨミは無表情に立ったまま。
記憶がないって・・・でも、言葉は通じたはず。
「ヨミ、あなた、私の名を言える?
遥って」
「・・・遥・・・」
低い、気持ちのいい声だ。
よかったー。なんかほっとした。
そう、これが私の名だ。
もう。涙が出そうになった。
「もう一回言って」
「遥」
「もう一回」
「遥」
三度目の言葉は柔らかく、ヨミの両手が私の肩にかかる。
『あー、お取込みのところ、すまんが。そろそろ、いいかの?』
いきなり、頭の上で、響く声。
え?
え!
帽子がしゃべったーっ!