聖女 46 脱出 その5
46
『暗殺者』
殺人者。
その手で何人もの人を殺した事で、授かる称号。
『五人や十人の殺しでは、この称号はつかん』
ごめん、ヨミ。
わたし、まだゲーム感覚が抜けてなかったよ。
現実に、実際に、たくさんの人を殺した過去なんて、そしてそれを覚えていないなんて、酷い話だ。
ヨミは頭を垂れたまま、ささやくように言う。
「・・・俺には、聖女の仲間になる資格はない」
「あなたまで、私を聖女と呼ぶの?」
私はがっかりして言った。
「だが、あの白い部屋で、あなたはそう言われていた」
「言われたって、私は納得してない」
薄闇の中、私はヨミの腕に触れる。
この世界に落ちてから、ずっとそばにいてくれた、白い虎。
ヨミはびくりと、身体を固くする。
「・・・俺が、恐ろしくないのか?」
あなたが居なかったら、私は奴らの言いなりになってた。
「あなたが『殺人鬼』だったら、怖がるよ。
でも、『暗殺者』はただの職業。
『狩人』や、『騎士』や、『聖騎士』と同じ。
その職業独特の倫理観や行動規範があって、それに従って、生きてきただけでしょう?。
あなた個人を現す言葉じゃない。
それにね、あなたはあの空間で、一度リセットされちゃったんだ」
「りせっと?」
「初めから、もう一度やり直せるってこと。
過去はないことになったの」
二人とも、いきなりこの世界に放り出された、迷子同士だ。
「仲間でいて。私を、助けて欲しい。ヨミ」
空気がちょっと和らいで、彼が笑ったのがわかった。
「確かに。あまりに危なくて、見ていられない」
今度はヨミが私の手を取る。
私の右手を取って自分の額にあて、唇にあてる。
「私はあなたを守ろう。遥」




