聖女 45 脱出 その4
45
緑の多い貴族街を抜け、人気のなくなった商店街を通り過ぎ、昼間通った治安の悪い下町まで来た時には、すっかり夜が更けていた。
ヨミが一軒の空き家に見当をつけ、音もなく二階の出窓に飛び上がって、人型になり、鍵を壊して窓を開け、私を引き上げる。
もぐりこんだ二階は床が軋み、何か小さいものが走り去った音がしたが、とにかくは、休める。
ありがたい。
『さて。どうするかの』
帽子がのんびり言った。
『大変な代償を払って呼び寄せた主殿じゃ。
奴らがそうやすやすと手放すはずがない。
ナンドール中に指名手配されるだろうよ』
「召喚した聖女として?それとも悪辣な魔女として?」
私はふん、と鼻を鳴らした。思い出しても腹が立つ。
それにしても、私はなんだかめちゃくちゃだ。
持っているはずなのに、使えないギフト。大量にあるというのに、自由にならない魔力。
自分がわからないのは、怖い。
「教母様が言っていた、アトス・クアトロス神殿。そこの神官だっていう老人に会ってみたい」
教母様を指導したという、その人なら、私に何が起こってるのか、説明してくれるかも。
『だがあの子爵も聞いて居ったぞ。真っ先に探される所かもしれん』
そしたら、その時。
ほかの国にも、光の神殿はあるといわれた。
そこへ行けばいい。
そして。
「ヨミ?」
私が尋ねると、薄暗い中でヨミが顔を上げたのがわかる。
「ヨミ、あなたほんとに、レベル1なの?」
もう、ものすごく強くて速かった。
いくら油断してたとはいえ、一国の騎士団長を一瞬で沈めるなんて、レベル1で出来る事?
「レベルなどなくても、この身体が、覚えている」
ヨミは静かに言った。
「気配の消し方。人間の急所。最も効果的な攻撃法」
ささやくような、声。
「記憶はないが、判ってしまった。
遥。俺の過去は、『暗殺者』だ」
『暗殺者』
凄い。忍者の最上級職だ。
虎に変身出来て、その職業。あれほど強いのも、納得だ。
「うん、そうか。すごいね」
納得して私はうなずいた。
しかし、ヨミは、無言で頭を垂れる。
『主殿』
帽子が言った。
『そやつは、人を殺めた過去があると、言うておるんじゃ』




