聖女 30 教母マデリーン
30
人目につかない小部屋に案内されたので、私はほっとして姿を戻した。
真っ黒なサテンのローブととんがり帽子に、教母様が「あらぁっ!」とびっくりする。
なんか、子供みたいに素直なお人。
「では、あなたが召喚された聖女様ですのね」
「聖女認定はされてないので、まだ」
鑑定用水晶は壊しちゃったもんで。
「まあ・・・でも、それだけの魔力をお持ちなのに?」
鑑定持ちなのか?この人。
教母様は微笑む。
「いいえ、あなたを読むことは出来ないわ。
私は『直観』のギフト持ちなので。
あなたが大きな魔力をお持ちなのを感じるだけ。
『ステータス鑑定』と『神聖魔法』の二つを持っていたのは、アンドレアの姉のマデリーナでしたのよ」
私たちがギフトをもらった、対価だった人。
子爵がつらそうに眼をそむけた。
「すごい方だったんですね」
「ええ。でも、あの子は身体が弱かった。
ベルクオーツという名家に生まれながら、この身体では親の期待に応えられないと聖職に入った、優しい子でしたの」
「引け目に思うことなどなかったのに!どうせ家名は、腹違いの弟たちの誰かが継ぐのだから!」
アンドレアが吐き捨てるように言った。
「引け目ではないわ。あの子は誰かの役に立つことを望んだのよ」
「それでも、命をささげるなど!こんな・・・こんな・・・っ!」
ぱっ、と席を立って、部屋から出て行ってしまった。
こんな召喚儀式のためにねぇ。
私と教母さまは、同時にため息をついてしまった。




