聖女 19 王都ナンドール
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ヨミはどちらの姿でも食事できるというので、大きな骨付きの枝肉をもらって。
部屋に戻ると、今度は正式にアンドレ、ア子爵が訪問してきた。
いかんいかん、ちゃんと名前をアンドレアと言わなきゃ。
「何を考えていらっしゃるんです!あなたは!」
男装の麗人は入って早々詰問する。
美形たちを全員振っちゃって、あなたが良いっていったんだものね。
「この国の見物をしたいと思って」
私は答えた。
「向こうが見せたいものじゃなくて、事実を。あなたにお願いすれば、見せてくださると思った」
私に何も仕掛けてこなかった、あなたなら。
日本に戻れる見込みは薄い。
なら、私はどうすればいい。
対価の百人のかわりに聖女となってこの世界を救うのか。
だけど、『ナンドールの聖女』なんかになって、良いように操られるのは嫌だ。
私は、私。
でも、慎重に動かないと。
「しっかりとこの国を見てから、決めます。明日からよろしく」
と、言うわけで、次の日から、私は子爵と腕を組んで王宮を見物した。
美形四人が、金魚の・・・みたいにくっついているけど、仕方ないわね。
まだ私の身分が発表されてないので、周囲には、四人に歓待される賓客、という認識をされてるらしい。
王子に王宮の歴史を。魔導師の長トルマリンに、王宮魔導師団の説明を。騎士団長ガダンに、騎士たちの訓練風景を。巻き毛のアンジェロには、貴族たちの紹介を。
子爵と虎のヨミにエスコートされ、四人を侍らせながら、広い王宮をぐるぐる回る。
午後は子爵一人に連れられて、馬車で街へ出た。
ナンドールの首都は平野のど真ん中に、小高い丘の上の王宮を中心に広がっていた。
丘から見下ろすと、東西南北に街道がのび、遠く北には青い山並み。南には、陽射しに光る海。
王宮の広い敷地を出ると、緑の多い貴族たちの高級住宅地、だらだらと坂を下っていくとだんだん建物が込み合ってきて、アーケードのある円形広場の、高級商店街。
もっと下がって、道沿いの建物は小さくなり、にぎやかな市場のある、下町。
行きかう人々は、中世のような服装で、男性は膝までの毛織のチュニックにゆったりしたズボン、女性は上着と重ね履きのスカート。
兜と胸当てに槍を持った兵隊。剣を帯びた人は冒険者だろうか。
じや、ギルドとかもあるの?
冒険者のギルドに商人のギルド。身分証はドッグタグみたいなものだって。
魔法使いのギルドはないそうだ。
人々の表情も明るくも治安も悪くないというので、私はヨミに馬車で待っててもらって、子爵と外に出てみた。




