聖女 17 晩餐会
17
アンドレ・・・ア子爵が出て行って、しばらくすると双子が晩餐会への招待にやって来た。
気が付けば、外は暗くなり薬入り軽食に手を出さなかったので、いつから食べてなかったか、おなかぺこぺこだわ。
「うかがいますわ」
うーんと、その前に・・・。
帽子、あなた形を変えられる?
このつば広のとんがり帽子じゃ、食卓で邪魔だわ。
『変わったように見せることは、出来るぞ』
んー、じゃあね、こんな風に。
私はマントの下につけてたウェストポーチからメモ帳を出して、軽くスケッチ。
帽子はフン!と鼻息みたいな声を出して、ターバンタイプの小さめの帽子に変わった。
素材は黒いサテンだけれど、金のラメとビーズが布を巻き込むように入っている。
エキゾチックでミステリアスな雰囲気は、黒いマントにもよく似合う。
よし。変身はまず形から。
マントにターバンに魔女メイク。
今夜の私は、ファム・ファタール。
「いきましょ、ヨミ」
・・・しかし・・・。
・・・聖女歓迎の晩餐会って・・・ううう・・・。
長い食卓の向こう端に王と魔導師と高官たち、こっちの私は美形四人に囲まれて。
銀の燭台に金の杯に銀の皿。銀のカトラリーが並んでいたのはいいけれど。
嫌な予感はしてたのよ、食卓の真ん中に、林檎を咥えたロースト丸豚が一匹、どーんと乗ってるのを見た時に・・・。
で、料理人と小姓が解体ショーみたいにお腹を切り開いたら。
湯気の立ったソーセージが何かみたいに山のように出てきて、ドン引き。
もおっ!どういう神経!というか無神経してるのよ、こいつらっ!
ローストした白鳥!らしき大きな鳥と、何羽もの雉?山鳥?は光沢のある羽根でもう一度その身を飾られて。
ねぇ、その羽根、消毒した?死体からむしったまま?
血とかついてない?羽虫とか落ちるんじゃない?
大きな金の深皿には、おっきなうなぎ(蛇かと思ったー!)を丸ごと煮たのが、何匹もゼリー寄せになって、こっちに頭を向けて白目剥いてる。
もう、一口大に繊細に盛り付けられた食材に慣れた、日本人の感覚じゃ耐えられない!
食卓で切り分けるメイン料理はそんな風なんでお断りして、後ろに座るヨミにびくびくしてる小姓が大皿を持って席を回る、サブの料理を取り分けたけど。
薄切りになったビーフ?は何時間茹でたのってくらい、ぱさぱさでまるでボール紙。
火が入ってれば大丈夫か、って取ったシチュー?は舌がしびれるくらいの胡椒入り。
甘そうなカスタードは、脳天に突き抜けるくらい甘くって糖蜜のいやなくどさが残る。
野菜っぽいものは・・・何もなし。
飲み物は・・・ワインオンリー。
肉食系の晩餐会なんて、きらいだー!
和食プリーズーっ!




