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ウエストターミナル

ターミナルの戦いですっ!

地脈ちみゃくの起点に沿う『ウエストターミナル』は西部の要であった。物流に関しても重要であったが、この地を鎮めれば地域全体の魔物が弱体化し、竜の発生率も大幅に下がった。

自然の荒廃も和らぎ、ほぼ失われた魔術の行使も比較的容易となり、世界が安定すれば再び文明を発展させられる。

復活した地脈の起点では完全に破壊された物でない限り、損傷した魔槍の補修さえもも可能となる。

各地の『ターミナルシェルター』の奪還は人類の存続と復興に不可欠であった。



・・タカヒコは夢を見ていた。自覚的で、ああ、この夢か。とタカヒコはと思った。タカヒコが出身のシェルターで合成木工工場で働いていた頃の夢だった。

賃金は安く、安全対策も甘く年に数件事故が起きていたが、貧しいシェルターであった為、仕事があるだけマシと誰もが考えていた。

タカヒコの両親はシェルター間のエタノールプラントの権利を巡る紛争の中、亡くなっており、妹は粗悪な孤児院の環境の中で病死し、兄はマフィアに入った数ヶ月後にマフィア同士の無意味な抗争で死亡した。

いつしか感情の薄い性分になっていたタカヒコであったが、木工は好きであった。

工芸と言う程の物ではない。決められた工程を淡々と仕上げてゆくだけの物であったが、日々同じ合成木材と向き合い、整え、組み上げ、誰かが使うらしい商品を供給し続ける。

良い仕事だと思っていた。

その日、切断機の不具合でロックが勝手に解除され、確認作業中のベテラン工員が目の前で事故死し、作業が中断になり、再開は午後からと通達され、暇を持て余した他の工員と共に裏庭のように扱われている作業場裏の空き地に出て休憩することになった。

と、「作業着に血が付いてる」と同僚に指摘され、10代後半だったタカヒコは手洗い場で洗濯をする為にその場を離れようとすると、突然『上』から緑色の光を感じ、続けて高熱を感じ、最後に空き地に爆発が起こった。

吹っ飛ばされ、全身に火傷を負ったタカヒコが訳もわからず身を起こし、振り返ると、胸部に『業火ごうかの魔槍』を深々と突き立てられ、今にも燃え尽きようとする子爵級竜が陥没した空き地に降りたっていた。

タカヒコ以外の工員は全員、業火によって焼死するか潰された上で焼かれていた。


「我をほふった業火の魔槍はお前を次の主と定めた」


竜は人の言葉を話し出した。


「この槍は忌まわしき、『七善の魔槍(しちぜんのまそう)』へとお前を導くだろう。罪人を裁く業火がそれを成す。お前は何一つ救われぬことを了解する」


タカヒコは竜の言うことを理解できなかったが、魔槍は竜の胸から独りでに抜け、笛の形態に変わるとタカヒコの意図せず差し伸べた手に収まった。


「憤怒、絶望、虚無、全ては過程に過ぎない。お前は選ばれたのだ。死と滅亡さえ、そこに留まってはいられない・・」


竜は業火の中に崩れ落ちた。

タカヒコはその魔槍の横笛で、『最初から知っていた』物悲しくも空虚な曲を奏でた。

そうしてタカヒコは、魔槍師となった。



タカヒコは『旋風つむじかぜの魔槍』の石突きで雑に肩を押され、起こされた。


「・・どれくらい経った?」


「30分ってとこだな」


タカヒコ達は制圧した『竜骨門りゅうこつもん』近くに念入りに張った魔力障壁の中の仮設シェルターで休憩を取っていた。

他のメンバーも先に起きた者や商会の者等に起こされだしていた。


「1時間は寝れるって話じゃなかったか?」


「伯爵級竜が思ったより早く目覚めた、ってのもあるが、商会が手配した軍同士が上手くいってない」


グラはうんざり顔をした。


「すげぇ軍拡してる南の『クロスアクスシェルター』の軍を他の軍が警戒して、なるべくクロスアクスの軍に被害が出るように連携を取りだしてモメてる。上手く勝ったとしてもターミナルの管理権争い待った無し、だ。くっだらねぇ」


「老いた独裁者シェルターに地域覇権か。後のことは知らないが、勝ち続けて人生を終えたいんだろうな。お、悪い」


タカヒコはそう言って立ち上がり、先に起きて近くに立っていたスモモが黙って投げてきた、エタノールビニールチューブ入りの信じ難い味の合成栄養液を口にして顔をしかめた。


「はぁ~~、もう起きるんですかぁ? 吐きそうですし、ちょっと籠手のワイヤー故障しちゃってるんですけどっ?!」


子供の姿のままのアマガミに起こされたヴァルシャーベはグズっていた。


「誰もミスせず、予定通り、気の合う者同士で、万全な準備と体調で戦える方が珍しい。諦めろ、ヴァッシャ」


「ふぁい・・」


ヴァルシャーベ身を起こしたところで、西部の『竜狩り商会』長と西部『聖教』の教主がタカヒコ達、起きだした魔槍師達の元に現れた。


「予定が早まりました。当初はまず、最大戦力で竜使いと伯爵級竜を倒してからターミナル地下の七善の魔槍の探索を始めるはずでしたが、伯爵級竜の進化が想定を超えており、アレはおそらく侯爵級竜に進化しつつあります」


息を飲むタカヒコ達。ターミナル中心部の方を振り返ると禍々しい閃光が障壁展開装置付きの爆撃機を容赦なく障壁ごと消し飛ばしていた。


「勝率を上げるには先に七善の魔槍の回収を優先すべきではないでしょうか?」


「神の恩寵を受けたる七善の魔槍が一振り『献身けんしん』の具現物っ! 必ずや闇を祓うことでしょうっ!!」


商会長に続けて教主が高らかに言い放ったが、この女がドラッグ中毒者で多数の若年男娼を囲っていることは周知のことであったので、微妙な空気が漂うばかりであった。


「・・それが最善手ならやってみよう」


タカヒコは竜の予言を強く信じているワケでもなかったが、魔槍を持って竜と戦い続ける限り、結果的に究極の魔槍である七善の魔槍に行き着くことは、特に不自然なこととは思わなかった。



それぞれの魔槍に乗り仮設シェルターから上昇すると、ターミナルの伯爵級竜の姿はすぐに見えた。

ターミナルシェルターその物は激しい爆撃で竜骨門以上に崩壊していたが、そのかつては中央管理局があった場所に、それはいた。

光り輝く骨と臓腑だけの巨竜であり、半ば崩れた王冠を被り、下半身は地から溢れる地脈の霊気と一体化している。十数本に別れた尾のみは地から付き出し、各自が独立した龍であるかのように輝く伯爵級竜の周囲で蠢いていた。


「全身を覆ってるあの光その物が障壁だね。あれじゃ榴弾の類いは通らないよ」


スモモは内心、ある種の美しさのある竜だと思いながら言った。と、


「俺達と、残存の軍用機で時間を稼ぐ! サクっと回収してこいよっ?!」


豪雷ごうらいの魔槍師』がそう言い、彼ら竜骨門攻略戦で最初の遠距離攻撃を担当した魔槍師達5人が、まずタカヒコ達から距離を取った上で伯爵級竜への攻撃を始めた。

即座に滅びの閃光が豪雷の魔槍師達を襲ったが、『撃ち気(うちき)』を見切ってなんとか回避していた。


「あの調子じゃ長持ちしない。タカヒコっ! 私達も急ごうっ!!」


「だなっ」


大人の形態に変化する魔力を惜しんで子供形態のままで参戦しているアマガミに促され、タカヒコは時間稼ぎ担当以外の魔槍師全員でウエストターミナルシェルターへと降下していった。



竜骨門と違い、廃墟と化したターミナルシェルターには奇妙な程、魔物や下位竜達の姿が見えなかった。


「ほんとに旧地下聖堂で間違いないのか?」


酔い茸(よいだけ)の魔槍師』ベルナが聞いてきた。損傷した魔槍を真鋼しんこう等を使って仮補修していた。


「他に適当な場所は無いし、俺の業火の魔槍もそこに反応している」


「なんでタカヒコの槍が??」


「曰く付き、というか『予約済み』というか・・ま、俺が予約したワケでもないんだが」


「どういうことだ?? ・・ んっ!!」


あやふやなことを言うタカヒコに、ベルナが困惑していると、タカヒコ達の前方に、もはやお馴染みと言ってもいい闇が逆巻き、竜使い4人が現れた。

奇妙な帽子を被った小肥りの中年の男。機械化された仮面を付けた男。少年の姿をした『ディマシュ』。ニヤけ顔の男で骨でできた大鎌を持った『ジオッド』であった。


「1人を除いて勢揃いじゃねーかっ! へへっ」


好戦的に笑いながら、旋風の魔槍の上で砂塵さじんの魔槍を構えるグラ。


「いっそ好都合だっ。予定通りの組み合わせでっ!」


「了解っ!!」


タカヒコの呼び掛けに、スモモとアマガミとヴァルシャーベは帽子の男と仮面の男の元に向かい、ジオッドの元にはグラとベルナが向かい、タカヒコは『鳴り渡り(なりわたり)の魔槍』の使い手エイビアと共にディマシュへと向かっていった。


「やっぱ、先に七善の魔槍を探すんだ。合理的だね」


ディマシュは『書に塗れた剣(しょにまみれたつるぎ)』から4項破って『炸裂する鉄の針』『蛇を形造る水流』『爆破する球体』『影のような蝙蝠の群れ』を放ちながらいった。

蛇の水流以外はエイビアが魔槍から放った『音波』で払われ、蛇の水流はタカヒコが業火で消し飛ばした。

エイビアの魔槍もまた損傷箇所を真鋼で仮補修していた。


「エイビア! お前の槍は万全じゃないっ。サポート頼むっ」


「はいっ!」


「・・どーしよっかな?」


ディマシュは魔剣から2項破きながら楽し気に言った。


「お前ぇもしつけーなっ?!」


グラは双手に魔槍を持って砂嵐と共に猛烈にジオッドに打ち掛かっていた。余りの勢いに、サポートに入っているベルナが入れずにいた。


「グラっ! 入れないっ。ちょっとは連携しろっ。竜骨門の時より時間が無いんだっ!!」


「お前が合わせろっ!!」


「んん~っっ、槍の組み合わせが他にいたらお前とは絶対組まなかったっ!」


どうも合わないらしいグラとベルナ。


「ふっ、喧嘩はよくない。喧嘩はよくないな?」


「うるせぇーーーっ!!!」


影から出した鎖をじゃらつかせたジオッドに煽られ、益々グラは激昂していた。

一方、後方からヴァルシャーベが操る雪だるま怪人の支援を受けたアマガミとスモモは黄金を操る帽子の男と、鉄屑を操る仮面の男を圧倒していた。


「『ヨッズ』っ! コイツらパワーがデタラメだっ!! さっさと合体するぞ?!」


「合体? 寄生の間違いでしょう? ワリに合わない気がするんですがね?」


疎まし気な様子のヨッズと呼ばれた仮面の男。


「どーでもいいっ!! やるぞっ!」


帽子の男は自身を黄金の粒子に変え、『黄金に塗れた剣こがねにまみれたつるぎ』を操り、ヨッズの背に突き刺し、腹まで貫き通した。


「ごふッ、最悪ですよ・・」


仮面に下で軽く吐血しながら、ヨッズは鉄屑と黄金に塗れで3倍余りに膨れ上がった。

全身から銃身が突き出す。


「コノエ達が言っていた形態かっ!」


「借り返すぞっ!!」


「見るからに範囲攻撃じゃないですかぁっ?!」


「2体は自分のガードに回せっ!」


アマガミの指示で雪だるま怪人を2体、後方に飛び退かせた途端、強化されたヨッズは足裏の鉄屑をホバー展開器に変形させ、地表を高速機動しながら全身の銃身から黄金の弾丸を乱射し始めた。

弾丸が小さく見切り難い上に、乱射してるわりには精度もそれなりに高い。

アマガミとスモモは回避しながら槍で捌いたが、雪だるま怪人達は次々と弾丸を受けて着弾した場所から徐々に体を黄金に変えられ始めた。

ヴァルシャーベを庇う雪だるま怪人も黄金に変えられてゆく。


「ひぃいいっ、アマガミ先輩っ! スモモさんっ! 早くなんとかして下さい」


ビビるヴァルシャーベ。


「雪だるまをいい感じに配置しろっ、ヴァルシャーベっ!!」


「はひぃっ」


スモモに怒鳴られ、黄金化で動きが鈍った雪だるま達をスモモもアマガミの前に来るようにバラバラに配置するヴァルシャーベ。黄金弾丸に対し『防弾壁』として機能させた。

これにアマガミとスモモは攻勢に転じようとしたが、


「大して情報共有できてませんねっ?!」


ヨッズは背中の黄金に塗れた鉄屑をジェット噴射器に変化させ、中空から範囲攻撃を始める構えを見せた。

しかし飛び上がった先にアマガミが『氷河の魔槍』で半球状の氷塊ひょうかいを出現させ激突させる。


「ぐっ?!」


そのまま完全な氷の球体に閉じ込めるヴァルシャーベ。

スモモはすかさず『弧月こげつの魔槍』で目の前の空間を斬って、斬り取った空間の代わりに間近にヨッズの入った氷の玉を出現させ、


「どぉりゃあああーーーっ!!!」


それを思い切り『黒金くろがねの魔槍』で打ち据えた。

黒金の魔槍の『打撃』の力は氷の玉を砕くと共に内部のヨッズの仮面と頭部と全身と『鉄屑に塗れた魔剣てつくずにまみれたつるぎ』を打ち砕いた。

黄金の塗れた剣にもヒビが入ったが、


「冗談じゃないっ!!!」


黄金の粒子から人の形になった帽子の男が実体化して魔剣を引き抜き慌てて逃れようとした。

そこへアマガミが突進し、突き掛かった。帽子の男はなんとかさらにヒビ割れさせながらも魔槍から発生させられた氷の刃を魔剣で受けたが、突進を止まられない。

アマガミは氷河の魔槍を持つ手とは逆の手で腰の後ろの鞘から笛形態の『激流げきりゅうの魔槍』を引き抜き、槍に変え、魔剣の刀身に水流の刃を打ち込み魔剣を打ち砕き、2本の魔槍を帽子の男に打ち込んだ。


「ぶぅううっ?!!」


「コノエ達の分だっ!!!」


アマガミは氷河と激流、2つの魔槍の力を発動させ、大氷塊の柱を打ち立て、帽子の男を引き裂いて打ち滅ぼした。


「凄ぉっ。私、いらないじゃないですか?」


「いや、『上』への誘導になった」


「動かす前から弾除けになってたしな」


「そうですかぁ? 役に立っちゃいました? ムフフ・・って、あーっ?!」


「っ?!」


アマガミとスモモは少し距離の空いた他の仲間達の助っ人に入ろうとしたが、ヴァルシャーベが叫ぶのでギョッとさせられた。


「私の籠手がっ」


知らぬ内に1発、円形障壁を貫かれていたらしく、籠手が半ば黄金化していた。

試しに障壁を展開しようとしたが、反応は無かった。


「一応外しておいた方がいいぞ? ヴァッシャ」


「寿命だったんだろ?」


「ううっ、さよなら、籠手・・」


ヴァルシャーベは泣く泣く真鋼の籠手を廃棄することにした。


「一組死んだようだぜっ?」


「分体を消費し過ぎた。過ぎた」


グラは変わらず単独でジオッドに砂嵐と共に猛攻を掛けていた。


「・・わからねぇな」


「何がだ? 何が?」


「他の個体が世界を再生するだなんだと言ってやがったが、お前ら全体にそんな気があるとはとても思えねぇっ。大体、竜は『死』しか残さねぇだろ?」


「・・竜を造ったのは我々の偉大な先祖だ。先祖だ」


「何っ?!」


ジオッドはニヤけ顔の笑みを薄めた。目は少しも笑っていない。


「竜が破滅しかもたらさないのはその方が効率が良いからだ。良いからだ。そのような『仕様』に、我々が造った」


「?? 何の」


グラがさらに問い質そうとしたところで、唐突にジオッドの全身から茸が生えだした。


「っ?!」


「っ!」


グラはむしろ口惜しい顔をした上で、その隙を突いて旋風と砂塵、2本の魔槍でジオッドを切り裂き、砂の竜巻で包み込んで擦り潰し、ジオッドを滅ぼした。


「どうだっ?! 私の胞子っ! お前の砂嵐に密かに混ぜ込み、お前への感染を避けつつ、竜使いのみボンっ! っだっ。上手いもんだろっ?!」


ずっと直接的な支援に入れずにいたベルナだったが、とどめの切っ掛けを作ったことに自慢気だった。


「タイミングがあるだろうがっ?!」


「はぁっ?! なんでキレられるんだっ!! メーナの仇なんだろ?!」


「それについては助かった。ありがとよ」


「お、おう・・」


「だが今、話してたろうがっ!」


「はぁっ?! こっちはよく聞こえなかったっ。というかなんだお前っ、テーマごとに小分けして怒るなっ!」


仇は討てたが、竜使いの核心について聞けず、中途半端な怒りになるグラに、ベルナは大いに困惑させられた。


「慎重、いや、疑り深い戦い方だね?」


タカヒコはエイビアと連携し、ディマシュと交戦していたが決め手に欠ける状況だった。


「どうも、意図的な気がしてきてな」


「タカヒコさん?」


エイビアがタカヒコの発言に戸惑っていると、アマガミ、スモモ、ヴァルシャーベが支援に現れた。


「うーん、これは」


グラとベルナも不穏な空気ながら支援に現れた。


「さすがに詰んだね。でも」


「気を付けろっ!」


タカヒコが鋭く警告したが、次の瞬間、ディマシュが一枚の『赤い項』を破り、黒い炎で項を燃し、項が燃えると同時にディマシュ自身が黒い炎に包まれ、超加速してエイビアの鳴り渡りの魔槍を書に塗れた剣で打ち砕き、続けてベルナの酔い茸の魔槍の柄も打ち砕いた。

ここで古時計の魔槍で加速したタカヒコに追い付かれ、業火の魔槍の炎の『炸裂』で魔剣を打ち砕かれ、続けてベルナの側にいたグラに旋風の魔槍でディマシュは胴を打ち貫かれた。


「まぁ、最低限度、仕事は、できた、ね・・」


ディマシュは自らを包む黒い炎に焼き尽くされ、灰となり消えていった。


「ベルナっ! エイビアっ! 無事っ?!」


「はい、身体は・・」


「油断した」


2人とも身体には攻撃を受けていなかった。安堵するスモモ。


「悪い、相手の出方を見過ぎた」


タカヒコは折られた2本の魔槍を見ながら言った。


「これだけ同じ相手と連戦すれば仕方無い」


「そうですよ」


アマガミとヴァルシャーベがすかさずフォローに入る。


「お前ぇらはここまでだ。魔物は意外といない感じだが、穂先と柄だけでターミナルから出れるか?」


グラがそう言うと、ヴァルシャーべが『雪の怪鳥』を造り出した。


「これで距離は稼げると思います。あまり高く飛ぶと伯爵級に狙われるかもしれないから、気を付けて下さい」


「・・申し訳ないです」


「これ、『滋養になるキノコ』。頼んだぞ?」


悔し気なエイビアとベルナは、滋養になるキノコを残し、離脱していった。


「時間食った。行こうぜ? タカヒコっ! お? コレ、旨ぇなっ」


滋養になるキノコを噛るグラ。


「え? そのまま噛るのか?」


少なからず抵抗を感じるアマガミ。ともかく、5人になったタカヒコ達は旧地下聖堂の入り口を目指し、再び出発した。



旧地下聖堂は『神』を信仰する聖教ではなく、地脈その物を信仰する古い宗教であった。

その教義は神と敵対する竜族への信仰に転じ易い物であった為、現在では多くの地域で禁忌とされていた。

古代の神殿を思わせる旧地下聖堂は破損も多かったが、電源が通っており、電灯が所々で点いていた。

通常の魔物や下位竜の姿は無かったが、代わりに『廃機人はいきじん』ベースのかなり古い型の陶器のような外装を持つ機械の魔物が時折現れた。

タカヒコ達はこれらを排除しながら七善の魔槍の気配を頼りに地下に広がる迷宮を進んでいった。


「・・こっちだ」


タカヒコは古時計の魔槍に乗り、業火の魔槍を手に先導をしていた。


「タカヒコ、マジでわかんのか?」


「私はタカヒコを信じる!」


「じゃ、私も」


「『ファン』は黙ってろっ」


「ファンではないっ!」


「微妙なところですねっ」


アマガミとヴァルシャーベに混ぜっ返すのでグラは苛立たされた。


「業火の魔槍と契約した時、先代の持ち主に倒されたらしい竜に予言されたんだ。この槍が俺を七善の魔槍に導く、と。実際、槍は反応している」


「でも、竜使い達の立ち回り、竜骨門以降は微妙だよな? なんつーか、削りには来てるけど全滅させる気は無い、みたいな」


おもむろに滋養になるキノコを取り出し噛りながら言うスモモ。


「・・・」


キノコはスルーを心掛けるアマガミ。


「大体七善の魔槍って、まだあるんですか? 20年前に使い手は『消滅』しちゃったんですよね?」


ヴァルシャーベが言いながら、何気ない仕草で滋養になるキノコにチューブ入りの合成コンデンスミルクをたっぷり掛け出したので動揺するアマガミ。


「っ?!」


「いっただっきー」


コンデンスミルクが落ちないようにと舌で受けて滋養になるキノコにかぶり付くヴァルシャーベ。


「なんだその食べ方はぁああっ?!! けしからんぞっ、ヴァッシャーっ!!!」


「むぅっ??!!」


急にキレられて噎せそうになるヴァルシャーベ。


「けほっ、けほっ。なんですかっ? いいじゃないですか? 合いますよ合成コンデンスミルクっ! 疲れてるから甘い物欲しいんですよっ」


キノコに甘味を合わせる食べ方を邪道だと怒られたと思っているヴァルシャーベ。


「もういいっ、とにかくっ! なんの話だ? 七善の魔槍かっ。聖教の連中が言うには人類が存続する限り決して滅ぼせないらしいぞ?!」


「あの人達、何かにつけて大袈裟だから盛ってるんじゃないですかぁ?」


「それならそれで俺達が詰むだけだぜ? ヴァッシャ」


「うっ・・」


滋養になるキノコを業火で炙って割いて食べだすタカヒコに言われ、反論できないヴァルシャーベ。

アマガミはタカヒコの食べ方を『無難な見映えになる』と判断した。


「タカヒコ、私も焼いてから食べる」


「ん? ああ」


タカヒコはアマガミの滋養になるキノコも業火で焼いてやった。


「ありがとう」


アマガミはそれを素早く細く割き、


「ホットサラダだ!」


と予防線を明言してから素早く完食した。

そんなやり取りの後、業火の魔槍の導きに従い、タカヒコ達はかつて『地の祝祭の間』と呼ばれ、時代によっては生け贄の儀式が行われていた広間にたどり着いた。


広間の奥の祭壇の後ろの壁に、明らかに後付けされたと見える他の装飾とは異質の淡く輝く硝子製の大きな扉が付けられていた。

硝子の扉は業火の魔槍と共鳴している。しかし、


「・・来たか」


祭壇に覆い被さるようにして大型廃機人と子爵級竜と一体化している、タカヒコはファイアスープで顔のみ確認している初老の竜使い『コドォー』が身を起こした。

片手には『忍具に塗れた剣にんぐにまみれたつるぎ』を持つ。


「竜骨門で手裏剣投げまくってきたヤツですっ! めっちゃ追尾するヤツっ!」


ヴァルシャーベは『粉雪こなゆきの魔槍』で『雪だるま怪人・凶』を4体出現させた。


「タカヒコ、粘られると面倒だ。先へ行けっ!」


旋風と砂塵の魔槍を構えるグラ。地上の伯爵級竜との争いの振動は地下まで伝わっていた。


「七善の魔槍っ! 実在するって期待してんぜっ」


黒金と弧月の魔槍を構えるスモモ。


「結婚する未来っ! 私が守るっ!!」


自分の中では確定していることを宣言し、氷河と激流の魔槍を構えるアマガミ。


「わかった。・・任せた!」


タカヒコはそう言うと、乗っている古時計の魔槍で加速し、コドォーの頭上を目指した。

同時に、グラがコドォーに砂嵐の刃を放ち、スモモが側面から突進を始め、アマガミがコドォーの下半身に水気を大量に含んだ凍気とうきを放ち、ヴァルシャーベが1体は自分の盾に残したが残り3体をスモモに遅れてコドォーに突進させた。

コドォーはタカヒコには両肩のガトリング砲を掃射し、砂嵐の刃には胸部の射出口から重力球を放ち、スモモには魔剣から大型の手裏剣を多数放ち、凍気には竜の口から火炎のブレスを吐き、雪だるま怪人・凶はトゲ付き鉄球の尾で迎撃を行った。

タカヒコは加速でガトリング掃射を避けながらコドォーの本体部分に業火を放って目眩ましをして、その頭上を飛び抜け、硝子の扉に向かった。

扉はタカヒコが接近すると反応した。


「っ!」


硝子の扉は独りでに砕け散って穴を空けた。そしてタカヒコが通り抜けると再び欠片が集まり扉は閉じられた。


「これは」


扉同様、自ら淡く発光する硝子の回廊になっていた内部は完全な静寂で、地上の争いの振動も伝わらず、地の祝祭の間の戦いの音もまるで聴こえなかった。


「一種のシェルターになっているな」


タカヒコは共鳴が止まらない業火の魔槍を手に、古時計の魔槍に乗って進んでいった。

やがて、回廊の壁面にステンドグラスで壁画が描かれている所まできた。


「・・竜」


1人の少女が、老いた竜と『何か』を契約する。そのような絵だった。

地脈信仰は地域や時代によっては至って平和な物である場合も珍しくはありません。

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