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魔槍師タカヒコ  作者: 大石次郎


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硝子の小部屋

最終回です!!

硝子の回廊のステンドグラスには老いた竜と契約する少女の図に続けて、神話が描かれていた。


翼と額に第3の瞳を持つ笛を吹く神の出現、人同士の争い、竜の生成、人に反乱する竜、文明に駆逐される竜達・・


王級竜達の出現による文明の破壊、王級竜達と神の対決、神に勝利する最後の王級竜、敗れた神は後無数の魔槍に変わってゆく・・


最後の王級竜を倒す最初の魔槍師達、敗れた王級竜から現れる無数の下位竜達、続いてゆく争いと衰退・・そして、



「『七善の魔槍(しちぜんのまそう)』か」


最後の図は、七振りの輝く魔槍が描かれていた。その中でも中心に描かれているのは『献身の善』を表す槍であった。


「『代償』による生成、だな・・」


タカヒコは苦々しく言って、硝子の回廊を抜けていった。

回廊を抜けた先は淡く発光する硝子の草花に彩られた中庭のような空間となっていた。中央の卵形の東屋のような構造物まで細道も通っていた。

タカヒコは『古時計ふるどけいの魔槍』から降り、その道を辿って卵形の構造物へと歩いていった。


「・・・」


密閉された卵形の構造物に入り口は見当たらなかったが、タカヒコが『業火ごうかの魔槍』の穂先を近付けると、地の祝祭の間の扉同様同様に壁面の硝子が砕け、入り口を開いた。

中は外から見るよりも広いようだった。

タカヒコは小さく溜め息を吐いて、中へと入っていった。砕けた硝子は戻り入り口は後ろで閉ざされた。

そこには光が一つ浮かんでいた。光はたった一つに見えて、小さな光の集まりであった。

タカヒコは入って業火の魔槍と古時計の魔槍を笛形態に変え、腰の後ろの鞘に納め、手を伸ばし、光に触れた。

これが世界で失われた数限り無い『献身』にその命を捧げた者達の魂の力であることがわかった。


「ここまで必要なのか」


タカヒコは一筋、涙を溢し、光の中で『それ』を掴んだ。

光という光が集まり、形を成し、一振りの輝く硝子の魔槍が出現した。一部は固まり切らずに破片が漂っている。

卵形の構造物は役割を終えほどけるように砕けていった。

硝子の庭には倒したはずの帽子を被った小肥りの竜使いがいた。魔剣は失ったままであったが、闇が高まり周囲禍々しい黄金の粒子を纏っていた。


「・・魔槍師タカヒコよ、実体化させてくれたなっ! 七善の魔槍っ、献身の具現物っ!『砕け散る魂の槍くだけちるたましいのやりをっ!!』」


砕け散る魂の槍と呼ばれた硝子の魔槍を持つタカヒコの背後に光輪が出現し、タカヒコは浮き上がった。全身が淡い光に包まれる。

今のタカヒコの目には帽子の竜使いの全てが見通せた。


「名はヌバタムア、と言うのか。『死んだ竜使いを使役する能力』。自分にも適応できるんだな。わかるぞ? お前達の献身さえもっ!!」


「黙れっ!!!」


竜使いヌバタムアは周囲の黄金を操り、刃に変えてタカヒコに打ち込んだが、全て輝く硝子によって弾かれた。


「滅ぼせずともっ、実体化すれば封印は可能っ! 永久に私の黄金の底で眠れっ!!」


ヌバタムアは黄金に塗れた鉄屑の砲台の砲撃と巨人の髑髏でタカヒコに波状攻撃を放ったが、タカヒコは煌めく硝子の欠片の中で空間から空間に飛び越えて移動しながら避け、また輝く硝子の欠片で全て迎撃していった。


「その槍を手にしたからにはわかるだろう? どれ程おぞましい物かっ?! 敗れ去った神は世界の再生を放棄しっ!『途方も無い人間達の徒労』を代償に七善の魔槍の生成を図ったっ!!」


ヌバタムアは砲撃と髑髏に加え、影から生じる黄金に塗れた鎖も多数放ち始めた。


「人類は神の復権のダシにされているのだっ! バカげているっ」


「お前達も途方の無い人命をダシに王級竜達を再生成しようとしているな」


タカヒコはヌバタムアの目の前の空間に飛び、砕け散る魂の槍を打ち込んだが、黄金に塗れた薔薇の蔓の盾によって受けられた。闇から闇に飛び越えて移動し、距離を取るヌバタムア。


「神をも滅ぼす王級竜達の生命を使えば世界の再創造も容易いっ!!」


タカヒコは苦笑した。


「神とやろうとしていることが大差無いようだが?」


「我々は神の木偶人形ではないっ!!」


闇から黄金に塗れた魔道書の項を6項破き出し、火炎、吹雪、電撃、竜巻、水の剣、岩の斧を生み出して放つヌバタムア。

タカヒコはその全てを砕け散る魂の槍で打ち払った。


「人類もお前達の木偶人形じゃないぜ? 大体、王級竜を支配できるのか? 失敗したから一度世界が滅びたんだろ?」


「絶え間無い努力で改善したっ!!」


「ふふっ」


声に出して笑ってしまうタカヒコ。


「何がおかしいっ! 神の奴隷がっ」


激昂したヌバタムアは黄金に塗れた砲撃、巨人の髑髏、絡み付く鎖、逆巻く薔薇の蔓放ち、続け様に破いた魔道書の項による小隕石群の召喚を行った。

タカヒコは砕け散る魂の槍を分解し、数百の矢に変え、ヌバタムアの全ての攻撃を迎撃し尽くした。


「ぬぅっ?!」


怯むヌバタムア。砕け散る魂の槍は、結集し、半ば不定形な槍の形態に戻った。


「・・『過程』や『前提』はともかく、結果的には、あるいはお前達の方が正しいのかもしれないな」


「何っ?」


「だが」


タカヒコが背負う光輪の光を増し、砕け散る魂の槍も力を高め出した。


「俺は『こちら』に付いたぞ? ヌバタムア。俺はこの過程と前提を受け入れるっ!!」


「・・っっっ、奴隷がぁああっ!!!」


ヌバタムアは『黄金に塗れた大剣こがねにまみれたたいけん』を造り出すと猛然と闇を纏いながらタカヒコに打ち掛かった。

超高速で大剣と槍で打ち込み合うタカヒコとヌバタムア。すぐに黄金に塗れた大剣にヒビが入り出した。


「他の竜使い達にも伝わっているな。・・神が人に課した『七善』の試練っ!! 覆してみろっ!!!」


「黙っ、ごぉっ??!!!」


気付いた時にはヌバタムアは砕け散る魂の槍によって胴を打ち抜かれ、纏った闇の中の他の6人の竜使い達も打ち抜かれていた。


「魔槍師タカヒコ、お前達の傲慢・・決して許されはしない・・・」


七日の竜使い(なのかのりゅうつかい)』達は光と共に滅びていった。


「手厳しいね」


タカヒコは砕け散る魂の槍の柄を額に付けた。


『・・死と命の循環は止まらない。終わりがあるとすれば全てが虚しく消える時。それも真の消滅とはならない。が、この世界の循環はそこで終わる。私はそのことに関心を失いつつある。選ばれてしまった子よ、せめてお前は、消えゆく我々の物語の欠片を、拾い上げてやってくれ』


槍から伝わる。老いた竜はそう言っていた。


「たった一人じゃ、それも寂しいだろうよ」


タカヒコは、そう呟いた。



地の祝祭の間では、突然竜使いコドォーと『忍具に塗れた剣にんぐにまみれたつるぎ』が崩れ去り、竜と廃機人はいきじんのみが暴走し出してグラ達を困惑させていた。


「よくわかんねーがっ! 片を付けっぞっ?!」


「了解っ!!」


グラが『旋風つむじかぜの魔槍』と『砂塵《砂塵》の魔槍』の力を合わせ、周囲にメチャクチャに攻撃をする竜と大型廃機人の融合体に刃の砂嵐を放って動きを封じ、アマガミとヴァルシャーベが凍気とうきを合わせて相手の火力の高い武器を凍結させて迎撃力を奪い。

黒金くろがねの魔槍』の打撃の力を推進力にして突撃したスモモが『弧月こげつの魔槍』で融合体の胴を十字に抉り取り、抉った部位を後方に抜き出した。


「っ!」


それでも融合体は死に切らず、砂嵐と凍結に拘束されながらもスモモを巨大な鋼鉄の鉤爪で引き裂こうとしたが、スモモは乗っている黒金の魔槍を操って躱し、後ろに下がった。そこへ、


「もう終われっ!」


入れ替わりに飛び込んだアマガミが十字に抉られた傷口に『氷河ひょうがの魔槍』と激流げきりゅうの魔槍を打ち込み、内部から氷塊ひょうかいを噴出させて残る全てのコアを砕き、融合体を仕止めた。


「やっつけましたね・・おっとっと?」


ヴァルシャーベは立ち眩みがして倒れそうになり、それを護衛に付けていた雪だるま怪人・凶が支えたが、その怪人自体が姿を保てなくなって崩壊し、そのまま後ろに倒れかけたところをいつの間にか近くに来ていたグラが支えた。


「しっかりしろよ、ヴァル公」


「すいません・・」


「ヴァルシャーベは限界か。もう『雪の鳥』も造れそうにないかぁ?」


スモモが自分の魔槍の穂先や柄を確認しながら言った。


「無理ですね・・アマガミ先輩!」


「ん?」


氷河の魔槍で祭壇奥の硝子の大扉を軽くつついて削れないか試していたアマガミ。


「私はいつかみたいに自分を凍結させて、ここで待ちます。『粉雪こなゆきの魔槍』を使って下さい!」


「3本使えと?」


若干迷惑そうなアマガミ。


「同じ氷属性じゃないですかっ?! ただついてけなくて脱落するだけなのは嫌なんですっ」


アマガミは腰に手を当てて小さく息を吐いた。


「わかった。使ってやる、ヴァッシャ」


「はい、それじゃ・・タカヒコ先輩にもよろしく・・」


グラが注意深く距離を取ると、ヴァルシャーベは粉雪の魔槍を宙に浮かせ、目を閉じ、自身に光る粉雪を落とし凍結させて氷塊で包み込んだ。

粉雪の魔槍は独り出にアマガミの手に向かい、確かに受け取られた。


「律儀な真似しやがって」


天井の様子等を軽く確認してやるグラ。


「後はタカヒコ」


スモモが言い終わらぬ内に、硝子の大扉の向こうから光が漏れ、やがて大扉がほどけるように崩れて光輪を背負い、砕け散る魂の槍を持ったタカヒコが現れた。


「悪い、遅れた」


「タカヒコっ! カッコイイっ!!」


「それが献身の七善の魔槍・・」


「すっげぇっ」


タカヒコは凍結したヴァルシャーベとアマガミの持つ粉雪の魔槍を確認してから、笛形態の業火の魔槍をグラに、古時計の魔槍をスモモに投げ渡した。


「2本じゃ足りないだろ? 地上の竜も、狩るぞっ?!」


「へっ、上等っ!」


「やってよんよっ」


「・・タカヒコ、その槍は大丈夫なのか?」


「まずは仕事だ、アマガミ」


タカヒコは微笑み掛けたが、アマガミにはその笑顔が硝子のように透き通るようで、何やら不安を覚えさせられた。



砕け散る魂の槍で岩盤も地表の構造物も撃ち抜き、タカヒコ達は一気に地上に出た。

爆撃機等の商会の手配した航空兵器は全滅、ないし撤退していたが、陽動役の5人の魔槍師はまだなんとか食い下がっていた。

竜の尾は6本に減り、左目も損傷していた。


「5人を撤収させてくれ」


タカヒコはそれだけ言うと、崩れた王冠を被る地脈と一体となった伯爵級竜に槍の欠片を打ち込み、空間から空間に飛び越えながら挑んでいった。


「タカヒコっ!」


「アマガミっ、先にフォローだっ!」


「・・うん」


グラ、アマガミ、スモモは疲弊しきった『豪雷ごうらいの魔槍師』達5人への攻撃を引き受けに入り、その間に5人を順に撤収させていった。


『邪なる七善の魔槍を手に入れし者よ』


崩れた王冠を被る竜と交戦するタカヒコの頭に直接竜の声が響いた。


「邪なる、ときたもんだっ」


タカヒコの槍の欠片による攻撃は竜の全身を覆う光の障壁に阻まれていた。対する竜は光を纏った6本の尾で攻撃してきた。

身体には守りの光を、尾に攻撃の為の光を纏わせているようだった。

竜は大口から『メガレーザーブレス』を放ったが、空間から空間に飛べる今のタカヒコに当たるものではない、と見ると、代わりに全身の至る所に光を集め、小さな熱線を際限もなく放ち始めた。

凄まじい弾幕であっても狙いは甘かったが、タカヒコも直接、魔槍の穂先を打ち込むことができず、決め手に欠ける状況になっていた。


『次の世界に、古きことわりは必要ない』


「お前達も代償に使われるらしいぜ?!」


『王足る竜が現れし時、いかなる支配も断ち切られ、世界は真のあかつきを知る』


「誰も彼も、自分の所の理屈が正しいもんだっ!! それなら正々堂々っ! 殺し合おうかっ!!!」


タカヒコがそう言って砕け散る魂の槍の欠片による攻勢を強めた所で離脱誘導を終えたグラ達が合流した。


「いけんのか? コイツっ! まるで攻撃が通らねーようだが?!」


「俺が引き付け」


と、タカヒコが指示を出しかけると、崩れた王冠を被る竜は巨大な翼で大旋風を巻き起こしながら、地脈の中から浮上し始めた。

大旋風に加え、地震も起こり、ウエストターミナルが崩壊してゆく。


「こんなデカいのに飛ぶのかよ?!」


大旋風の気流を打撃の衝撃で払いつつ唖然とするスモモ。


「タカヒコっ!『下』に攻撃されると竜骨門の方に退避した者達や待機組が殺られるっ。上を取ろうっ!!」


「わかったっ!」


アマガミに促され、タカヒコ達は急浮上する崩れた王冠を被る竜の頭上を位置取り始めた。

1つの塔のような6本の尾による攻撃と、全身からの熱線の乱射でタカヒコ達を墜としに掛かる竜。


「半端な攻撃は通らないっ! 俺が動きを止めるっ。溜め打ちで仕止めてくれっ!!」


「了解っ!!」


タカヒコは背の光輪の光を強め、出力を上げた輝く、砕け散る魂の槍の欠片による猛攻撃を竜の全身に放った。

その隙にグラ達はそれぞれの3本の魔槍に力を溜める。


『・・無駄なことだ。七善の魔槍の力が増す程に、世界の破局は近付く。我らの内、誰が勝ったとしても、次の世界に現行人類がたどり着くことは無い』


「俺にだけ話し掛けるじゃないかっ! 友達だっけなっ?!」


さらに出力を上げるタカヒコ。タカヒコに攻撃を集中させる竜。


「行っくぞっ!! スモモっ!!!」


「グラっ!! ヤっちまおうっ!!!」


グラは業火に焼け付く砂嵐を荒ぶり、タカヒコを襲う竜の尾の内の3本に放って焼き砕き、吹き飛ばした。

スモモは乗った古時計の魔槍で最大加速し、黒金の魔槍も弧月の魔槍も、その特性を全く考慮せずに本能だけで残る3本の竜の尾をめった打ちにして全て打ち砕いた。


「タカヒコはっっっ、私が守るっ!!!!」


アマガミは3つの魔槍の力を合わせて造り出した『大氷山の矛(だいひょうざんのほこ)』を竜の背に打ち込んだ。


「ゴォルウウウゥゥンンッッッ!!!!」


絶叫する崩れた王冠を被る竜。

タカヒコは空間を飛び越え、竜の頭部の正面に出現すると、その額に砕け散る魂の槍で貫いた。


「お前の嘲笑も、憂慮も、俺達の献身も、もっと近い未来に正しく答える者達が現れるはずだ」


『願望に・・過ぎない』


崩れた王冠を被る竜は、光に変換されて消滅していった。


「よっしゃあっ!!」


「どんなもんよっ!!」


「タカヒコぉ、何か竜と話していたのか?」


「ああ、ちょっとな・・取り敢えず、ヴァッシャを解凍しにゆこう」


タカヒコはそう言って柔らかく笑った。



・・・それから、およそ7年の年月が流れた。最初は東南部でだけで始まった組織改革があっという間に世界中に拡がり、竜狩り商会は『魔槍師ギルド』と改称された。

全ての魔槍師、ギルドサポーター、魔槍師未満の魔物の退治屋等は合理的に統括され、エッジムーンシェルター等の技術を生かし量産型の汎用魔槍も普及した。

ギルドの活動に社会的な公認を与える聖教も全地域宗派が統合された。

組織力を高めた魔槍師ギルドは47あるターミナルシェルターの内、40箇所を平定し、世界全体の自然環境は大幅に改善し、各資源プラントの質は向上し、天然素材の流通も増えた。

戦いの中で、多くの魔槍師が命を落とし、魔槍も少なからず失われたが、一方で見失われていた魔槍の回収や破損していた魔槍の補修が進んだ他、魔槍師の発掘及び育成も以前よりも効率良く行われるようになった。

七善の魔槍も6本が回収され、内、4本には使い手も確保されている。

7位から1位まで階位制度になった魔槍師の中で、献身の具現物、砕け散る魂の槍に適合したタカヒコは最上位の1位を上回る無位の魔槍師となり、魔槍師ギルドを束ねるギルドマスターの称号を与えられた。

魔槍師ギルドは竜と竜使いと争いながら、残る7箇所のターミナルシェルターの解放と、最後の七善の魔槍の回収を最重要ミッションとして総力を上げて挑んでいた。

そんなある日、


「よいしょーっ!!!」


掛け声と共に花弁が舞い、暖かな風が吹き、枯れ木に花が咲いた。萎れた幹も瑞々しく甦った。


「おおー、凄い凄い。大したもんだ。さすが6位魔槍師っ! よっ、『春風の魔槍師(はるかぜのまそうし)』っ!!」


岩の上に座った。黒装束に左手にワイヤーフック射出機能と円形障壁展開機能を持つ真鋼しんこう製の籠手を付けた、二十歳前くらいの娘が適当におだてた。

現在では、この籠手は魔槍師達の標準装備になっていた。開発、生産、調整は友好的な廃機人達が担っている。


「・・・師匠、ちょっとバカにしてるッスよね?」


身長は150センチ台前半の、小柄で巻き毛の10代中盤くらいの、緩やかな風と花弁の装飾の魔槍を持つ娘が不満顔で岩の上の『師』を振り返った。

師は氷河の魔槍を持ち、笛形態の激流の魔槍を腰の後ろの鞘に差していた。

身長は162センチメートル、細身だが引き締まった体型で、胸に関しては子供の頃と大差無く、限り無く平坦であった。どちらも本人が『期待した程』は育たなかったようであった。

かつての変身体の身長や筋肉質で骨太な体型に関しては比較的早い段階で『ちょっとやり過ぎたかもしれない』とそのデザインを後悔していたが。


「してないしてな~い。7位から6位に上がって、ようやく汎用魔槍から本物の魔槍を持たせてもらえるのかと思ったら、まさかの『回復系魔槍』に適合するとは思ってなかったけどなっ! ナハハハっ!!」


岩の上で笑い転げる、師。


「くぅ~~っっ、やっぱバカにしてるじゃないッスかっ! アマガミ師匠っ!!」


地団駄を踏む巻き毛の弟子。


「まぁムツミっ! 現実は厳しいもんさっ。私も思ったよりかは背が伸びなかったし、胸に至っては・・」


岩の上の師、19歳になってアマガミは自らの限り無く平坦な胸を悲しみを込めて見下ろした。


「ふっ、師匠は胸に関しては残念賞ッスよねっ! その点に関しては自分はっ、ムフフっ」


文字通り胸を張る弟子、ムツミ。小柄なワリには中々豊満な胸をしていた。


「・・・」


スッと目を細め、おもむろに『握力』で岩肌を削って小石を多数造り、それを親指で弾いて突き出されていたムツミの胸のトップに小石を立て続けに当て出すアマガミ。


「あ痛っ、痛っ! やめて下さいッスっ。『指弾しだん』で乳首を狙うのやめて下さいッスっ! 凄いセクハラ兼パワハラっ!!」


堪らず自分の籠手の円形障壁を展開して身を守り出すムツミ。


「あーっ! アホらしっ。本部の大講堂でタカヒコが演説するらしいから聞きに行こうっ」


「えーっ? なんか偉い人が決起集会みたいなのするだけッスよね? せっかく天気いいし、どっかで美味しい合成食のブランチ食べましょうッスよ、師匠の奢りでっ!」


「お前、無理くり語尾に『ッス』て付けるからちょいちょい聞いててハラハラするな」


面倒臭そうなアマガミ。


「ちょっとぉっ、これから本格魔槍師デビューするのに自分のキャラ付けにダメ出しすんのやめて下さいッスよぉっ? 普通過ぎたらただの『モブ』と思われるじゃないッスかぁっ」


「あーっ! ゴチャゴチャうるさいっ。ほらっ、さっさと行くぞっ?!」


アマガミは氷河の魔槍に飛び乗りさっさと魔槍師ギルド本部の大講堂に向けて飛び始めた。


「あっ、アマガミ師匠ぉっ! 待って下さいッスぅ~っ!!」


春風の魔槍に乗って慌てて追ってくるムツミ。


「ったく! 世界がちょっと平和になってきたからって『ゆとりまみれ』のヤツばっかりギルドに入ってくるようになったっ。昔のヴァッシャの方がまだマシだっ」


「・・というか、師匠」


「ああんっ?」


「アマガミ師匠って、ギルドマスターのストーカーだから本部出禁じゃないんッスか?」


「ストーカーじゃないっ! 出禁もされてないしっ!! お前、それ以上言ったら私は泣くからなっ?!」


「泣いちゃうんッスか?」


「ちっくしょーっ!!」


アマガミは今日に至るまでタカヒコにフラれっぱなしであった為、色々話に尾ヒレは付いていた。



大講堂では3位以下の魔槍師を主体とした、南西部第3区のターミナルシェルター攻略の為の斥候隊の壮行式が開かれていた。


「・・多くの犠牲を胸に、それぞれ使命を果たしてほしい。私からは以上だ」


「隊員っ! 敬礼っ!!」


進行役の2位魔槍師の号令で、比較的若い斥候隊の隊員達は胸に右の拳を当てるギルド式礼をした。


「・・・」


式服を着て、銀髪になっているタカヒコは一度頷き、銀の長髪を揺らして隊員や関係者の拍手に見送られ、降壇していった。


「えー、続いて、東部司教殿による祝福・・ん、遅れる? では、地元の児童聖歌隊による聖歌斉唱を・・」


壮行式がさらに進行する中、アマガミは複雑な表情で擂り鉢状の大講堂の最上段の片隅から立ち去りだした。


「あ、師匠。もう帰るんッスか? ここの聖歌隊、私の甥っ子が入ってるんッスよ?」


「ならお前だけ聴いてゆけっ」


「ええっ? なんでちょっと怒ってんッスかぁ? 自分で誘ったクセにっ」


ムツミはアマガミを追った。と、


「っ!」


エタノール灯が1つだけ灯る、通路の暗がりにグラとヴァルシャーベがいた。

それぞれ持っている魔槍に代わりはないが、グラは左手が義手になっており、ヴァルシャーベは右目に眼帯をしていた。

グラには疲労の色が見えたが、ヴァルシャーベは若い全盛期の気配で鋭く殺気立っていた。


「1位魔槍師のグラさんと2位魔槍師のヴァルシャーベさんっ!! ふぁーっ、カッコイイ、ッス!」


アマガミも1位魔槍師だったが見慣れている為、グラとヴァルシャーベに興奮するムツミ。


「久し振りだな2人とも。最近余りギルドに顔を出さないそうじゃないか? 色々言うヤツらも出てくるから、支部くらいには顔を出した方がいいぞ?」


「アマガミ。俺はギルドの方針が解せない」


「私も、ギルドマスターは本心を語っていない気がする」


「何?」


眉をひそめるアマガミ。雲行きが怪しくなってきて困惑するムツミ。


「俺達はギルドを離れ、独自に七善の魔槍や竜使い達の動向を調べてみることにした。他にも仲間はいる。アマガミ、お前も来ないか?」


「アマガミさんも近年のギルドの性急さはおかしいって言ってましたよね? 聖教だってっ。世界が安定してきて友好的な竜族だって発生し始めているのに、全て殺しているっ! これじゃ竜使い達と変わらないですっ」


「・・本気で言ってるの? 2人とも? ヴァッシャ、お前もタカヒコに憧れてたんじゃないのか?」


ヴァルシャーベは一瞬、苦し気な顔をした。


「今のギルドマスター、タカヒコさんは、もう別人です。今のあの人は、『槍』その物。人の気配が感じられないっ」


「・・・」


「あわわっ・・」


沈黙するアマガミと困り果てるムツミ。


「お前達のことをギルドにチクったりはしない。私も今のギルドのやり方が全て正しいとは思っていない。だが、私は私のやり方でやってみる。お前達に協力はできない!」


「・・そうか。あまり気張り過ぎんなよ、アマガミ」


「少し、言い過ぎました。すみません。さよなら、アマガミ先輩・・」


グラとヴァルシャーベは立ち去っていった。


「師匠・・大丈夫ッスか?」


「大丈夫なワケないだろっ?! しまいに泣くぞっ?! 私がっ」


「もうちょっと泣いてるじゃないッスかぁっ」


「うううっ」


「ちょっ?! 師匠っ! 大人なんですからぁっ」


半泣きになるアマガミを宥めるのに、ムツミは大いに苦労した。



本部地下の通路を、タカヒコはスモモと歩いていた。変わらぬ魔槍を持つスモモであったが全身に傷痕があり、すっかり古強者の姿になっていた。


「大議事堂にアマガミと弟子が来ていたな」


「グラとヴァルシャーベも来ていた! あの2人は今や不穏分子だぜっ?」


スモモは警戒心の強めていた。


「早く対処しないとマズいことになるぞっ? タカヒコっ! 今が一番大事な時なのにっ」


「・・前提や過程はいいんだよ。問題はそれらが行き着く先だ。悪い、スモモ。少し一人にしてくれ」


タカヒコ達は1つの大扉の前に来ていた。


「わかった。裏切り者は私が全部潰してやっからなっ!」


「ああ、ありがとう。いつもすまない」


タカヒコは一人、大扉を開け、中に入った。扉は独りでに閉まった。

溜め息を吐くタカヒコ。袖を捲ると、腕に傷んだ硝子のようにヒビが入っていた。

そこは広間で、中央の魔方陣からは地脈の光が漏れ出ていた。

広間の壁にはウエストターミナルから運ばせた、ステンドグラスの神画が一面貼られている。

タカヒコは魔方陣の中に入っていった。地脈の光が強まり、タカヒコの腕のヒビも収まった。


「だいぶガタが来ているな・・」


タカヒコは最初の画の老竜と契約する少女の図を見上げでから、自嘲気味な笑みを浮かべた。


「アマガミに、グラにヴァッシャか・・」


タカヒコは腰の鞘から砕け散る魂の槍と業火の魔槍の笛を引き抜き、砕け散る魂の槍のみを槍に変え、さらに無数の欠片に変え、周囲を漂わせた。


「行き着く先も、近いか」


タカヒコは目を閉じ、業火の魔槍に口を当て、吹き出した。物悲しく、空虚な音色が広間に響いた。

読んでくれてありがとうございました! 因みに、ムツミはめーっちゃ普通の家の娘です。

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