ニコスハーデンの『聖女様』 8
「お兄様、ルシオン。どう?」
真っ白なビキニを身に纏い、おそらくは自分ではセクシーだとでも思っているのだろうポーズをとってくるのは、金の髪をリボンで左右に縛ったマリエッタ姫だ。
ただ、残念ながらというべきか、マリエッタ姫はまだ御年7歳で、色気がないとは言わないが、マリエッタ姫が目指しているのであろう、セクシーというのからは程遠かった。
「マリエッタ。そのように人前で肌を多く露出しながら、煽るように感想など求めるものではない。私達は王族であり、民の見本となるべき存在であるべきだ。ならば――」
「お兄様。そういうことは、たとえ思っていても口にしちゃいけないのよ? 女の子がおめかしして来たら、とりあえず褒めなくちゃいけないの。似合ってる、とか、可愛い、とか」
自分の兄にダメ出ししたマリエッタ姫は。
「ルシオンはわかっているわよね?」
確認するように、腰に手を当てて、じろりと俺の方へと向き直る。
もちろん、言われるまでもなく、理解している。
もっとも、ごく最近の事だから、あまり大きな声では言えないんだけどな。
「ほら、お姉様」
マリエッタ姫が向かった先は、シスネの陰に隠れるようにしている、ルミナリエのところだ。
シスネはシスネで、メイド服とは真逆の、布面積の少ない、白いフリルに縁取られた、水色の水着を纏っていた。マリエッタ姫とは違い、胸部にはボリュームがある。
しかし、マリエッタ姫から釘を刺されている以上、ここで先にシスネの事を褒めるのは間違いなのだろう。
「もう、恥ずかしがってもしょうがないじゃない。そんなお姉様も、もちろん可愛いけど、お姉様だって結局は着ることにされたんでしょう?」
「わ、わかっていますから。マリエッタ。引っ張らないで、手を離してください」
引きずられるような格好で、シスネの後ろから引っ張り出されたのは、ルミナリエだ。
ルミナリエが着ているものも、やはり白いビキニではあったが、前のふたりとは違い、胸のところは水色のフリルで、腰回りは水色のラインと真っ白なフリルで縁取られている。
「どう? ルシオン」
ぐい、とマリエッタ姫に背中を押されるような形で進み出てきたルミナリエは、伏目がちに、頬を真っ赤に染めながら、下半身で手をもじもじと動かしている。
最近では、綺麗、そして可愛いと思える場面も増えてきたルミナリエだが、こうして照れている様子は、また一段と色気のようなものを感じる。
マリエッタ姫のときには感じなかった感覚だし、言っちゃ悪いが、身体の凹凸だけで言えば似たようなものだ。
しかし、マリエッタ姫にはなかった、ある種の、こう、眩しいものを感じるのは事実。
「とてもよく似合ってるぞ、ルミナリエ。初めて見たからか、新鮮な感じがするな。可愛くて、良いんじゃないか」
こういうことはさっさと言ってしまうに限る。
また、どこかで拾ってきたような言葉だと言われるかもしれなかったけど、あの時とは違い、今のルミナリエにそこまでの余裕はなさそうに見える。
だからそこに付け込んで、などと言うつもりはないが、俺はさっと思いついた言葉を並べた。
ちらりとマリエッタ姫のことを伺えば、まあ、及第点かしら? とでも言いたげに、指を顎に当てながらわずかに瞳を細めていた。
「……あ、ありがとうございます。ル、ルシオンも、その、恰好、いい、ですよ……」
そんなに恥ずかしがるなら言わなくてもいいのに。
俺は俺で、ああ、とか、そんな気の抜けたような返事しかできず、しばらく無言で見つめ合った。
ルミナリエは恥ずかし気に頬を真っ赤に染めながらも、耳の横に垂れている銀の髪をくるくるとしたり、しかし、自分からその場を動くつもりはない様子だった。
対する俺も、自分から動くのは何だか負けたような気がして――何にかはわからないが――動けずにルミナリエを無言で見つめ続けた。
しかし、本当に、綺麗だな。
海で遊ぶからか、月の光を束ねて作ったような銀の髪は、ポニーテールにしてまとめてあったが、いつもは見ない姿でこれも新鮮だ。
普段、マリエッタ姫よりも日光に当たるようなことをしていないからか、肌は雪のように真っ白だ。
今は伏目がちにされてしまっいるが、金の瞳の宝石のような輝きは、それでもなお、損なわれていない。
惜しげもなく晒された、真っ白に健康的な太ももも、すらりと伸びる綺麗な腕も、無防備に伸ばされたうなじも、目を奪われずにはいられない。
俺は、ロリコンでは決してないけど、人間なら誰しも、こうして綺麗なものに惹きつけられるという感覚は持っているものだと思うし、俺が男だからとかは関係ない、超越した美しさがあるように感じられた。
「本当に似合っていると思うぞ」
パラソルの下、浜辺で照り付ける太陽を浴びながらはしゃぐマリエッタ姫とセルカ、シスネを見つめながら呟くと、ルミナリエが驚いたように、はっと顔を上げて、その宝石のような瞳で見つめてくる。
「俺には、こんな風な普通の感想しか言えないけど、本当に、心からそう思ってる。普段のドレス姿も似合っているけど、どんな格好をしても、やっぱり綺麗だなって」
ルミナリエの金の瞳が、これでもかと大きく見開かれ、何かを言うべく開かれた口が、躊躇うように閉じかけて、再び意を決したように俺の方へと向けられたところで。
「ルシオン。海水とか日光に晒され過ぎると、お肌によくないんだって。だから、このオイルを塗って!」
さっきまで浜で遊んでいたはずだけど、一体いつの間に。
近寄ってきたマリエッタ姫の手にはボトルが握られていて、それを俺に差し出してくる。
「マリエッタ姫。そういうことは同性のシスネがいるんだから、そっちに頼んでくれ」
もちろん、嫌らしい気持ちは(姫様方に対しては)全く無い……そういう意味では全く無いが、わざわざ俺がする必要のあることにも思えない。
水着を、要は『着飾った女性』を褒めるのは男の義務かもしれない――と習った――が、そんなことまでは俺のできることではないだろう。
「何言っているの、ルシオン。これは仕事よ、お仕事。私達――お姉様を陽射しから守るっていう」
そんなことを言いながらマリエッタ姫がぐいっと迫って来る。
「まあ、シスネにも頼んではいるけど、そうするとお姉様か私、片方は待っていなくちゃならないでしょう? その後シスネの分もあるし。効率が悪いわ」
元々用意していた解答なのだろう。
すらすらと答えるマリエッタ姫に。
「いや、セルカもいるじゃねえか」
可愛らしい、ピンクのワンピースタイプの水着を着ているセルカは、きょとんとした様子で、あどけない表情で俺たちを見つめていたが、俺たちの視線が自分の方へと止まると、楽しそうな笑顔を浮かべて、無邪気に問いかけてくる。
「どうすればいいの? これを塗って遊ぶの?」




