聖女様とふたりきりではない提案
◇ ◇ ◇
「そうですか。お父様たちにそんな話を」
ユーク王子の見送りを終え、ひとりで別棟まで戻ってきた俺は、ルミナリエにも話を伝えた。
他の『聖女』に会いたいと望んでいたのはルミナリエだし、もしかしたら、他人の介入は望んでいなかったのかもしれない。
しかし、俺はルミナリエの、最終的な確認をとらずに先走った形で国王様達に提案してしまった。
間違ったことをしたとは思っていないが、それでも俺から話してしまって良かったのかっていう確認はするべきだったと思う。
「ああ。お前に黙って勝手にひとりで話しを進めたのは悪かったと思ってる。けど、伝えたのは俺の本心だから」
もちろん、本心を全部は話していない。そこまではさすがに口を出せることじゃないだろうから。精々、多少の波紋を広げることくらいだ。
サンベルードでも少しは話したことだったけど、あの時はまだふんわりしていて、明確なことは何も考えてなかったからな。
しかし、今回はルミナリエと一緒に他の『聖女』に会いに行くって明確な事柄が設定されてしまっている。
「本当なら、ルミナリエとも話し合うべきだったってことは理解してる。けど――」
「お父様やお母様と直接話す機会はそうそう得ることができるとはわかりませんからね」
次があるのかわからない機会は無駄にはできなかった。
それは確かに理由の大部分ではあるが、ルミナリエの事だと思ったら、つい、早いうちに話しとかなくちゃと思ったんだよな。
「ルシオン。私は別に怒ってなどいません。むしろ、私にはできなかっただろうことをしてくれたあなたに感謝もしています」
「できないってことはないだろ。家族なんだし、いつだって話せばいいじゃねえか」
ルミナリエが家族との接触を控えているのは『聖女』としての性質と役目を考えてのことだろうが、それは別にどんな場合にでも破ってはならないってことじゃないはずだ。
現に、俺を紹介してくれた時には、家族の元を訪れているわけだし。
「ですが、私は『聖女』としての役目を果たすのと同時に、王女としての姿勢を見せなくてはなりませんから」
やれ『聖女』だの、やれ『王女』だのと、堅苦しい役職に囚われているのようにも感じられるが、それがルミナリエの責任なのかもしれない。
責任というより、ルミナリエの考えって表現した方が近いか。
「それで、どうなんだ? お前の考えがどっちだとしても、俺はそれを支持するし、伝える役目は俺が引き受ける。というより、引き受けさせてくれ」
急かすつもりはないけど、ルミナリエのことだから、もう考えはまとまっているんだろうなと思っていたんだが。
「……ルシオンはどう考えているんですか?」
「は?」
聞き間違いかと思って、思わず聞き返す。
何で俺が出てくるんだ?
「ですから、ルシオンは、私が他の『聖女』に会いに行くのに、マリエッタやレアードが同行することについて、どう考えているんですか?」
ルミナリエはジトっとした目で俺を睨んでいて、心なしか頬がわずかに膨らんでいる気さえする。
なんだ、これは?
「……私はルシオンとふたりきりで良かったのですが。マリエッタやレアードとは、ここでも会えますし」
「お、おう、そうか……」
もしかして、それが拗ねている理由なのか?
ふたりきりで出かけたかったのに、マリエッタ姫とレアード王子が同行することになったからか?
まあ、たしかに、サンベルードでの騒動を考えれば、弟や妹を危険な目に合わせるのは忍びないと考えているってのもわかる話ではあるけど。
「大丈夫だ、ルミナリエ。たとえ、護衛の人数が増えようと、お前たちには危害を加えさせたりしないから」
あれから魔法の修練も始めているし、この前よりは、明らかにレベルアップしていると思う。
なにせ、今までは格闘技だけだったけど、今では、魔法という技術が、わずかとはいえ、戦力として混ざっているんだからな。
護衛人数が数人増えたところで、負担にはなり得ない。
「……何だよ」
しかし、どうやら俺の推測ははずれだったらしい。
「ルシオンはユーク王子と何の特訓をしたんですか?」
「え? そ、それは、前に説明したろうが。それに、その件はきちんと謝っただろ」
ここでその話を持ち出して怒る理由はなんだ?
たしかに、あの件は俺が悪かったと思っているけど、ルミナリエはこんなに引きずるやつだったか? それに、一応の解決と納得をしている過去の事柄を引っ張り出すような性格でもなかったと思っているんだが。それとも、それが俺の思い違いだったのか?
やはり、まだまだ女性の、というより、ルミナリエに対する理解が足りていなかったってことか。
しかし、わからねえ。
ルミナリエだって、家族と一緒にいられるのは喜ぶと思っていたんだが。だからこそ、提案したわけだし。
「それはそうですけど……」
ルミナリエは拗ねたように唸りながら、言葉を濁して、枕を胸元で抱きしめる。
そして、意を決したように顔を上げると。
「ル、ルシオンは、その、私とふたりきりではない方が良かったのでしょうか? 私はルシオンとふたりっきりが良かったです」
さすがに、ここまで真っ直ぐに好意をぶつけられると、戸惑うというか、照れるというか。
そりゃ、ルミナリエはひと回りは離れた年下の女児で、そういう風に考えるのは色々とまずいと理性が訴えかけてくるけど、さすがに意識せざるを得ないっつうか。
「……別に、旅に出てふたりきりにならなくても、俺はお前といつだってここでふたりきりだろう?」
まあ、俺が考えているのは、そのふたりきりの空間をなくして、皆で普通に接することができるようになったらいいってことだから、ある意味では真逆なのかもしれないけど。
「だから、たまには、姉として、マリエッタ姫や、レアード王子を、甘えさせるってのは少し違うかもしれないけど、一緒にいるのもいいんじゃねえか?」
全く淋しくない……とは言わない。
たしかに、ルミナリエを独占……って、俺は何を考えているんだ。そこまで頭に浮かんで、俺は頭を振るってその考えを振り払う。
いやいや。
なんだ今のは。
そうだ、多分、あれだな、うん。咄嗟に具体的な例えは出てこないが、そう、娘が嫁に行ってしまうような……ってのはなんか違うか?
俺は、不思議なものでも見ているかのようなルミナリエの前でひとつ咳払いをして。
「と、とにかく、家族が一緒にいたいって言っているんだし、お前だって、家族と一緒にいれば寂しくはないだろう?」
さっきの考えを振り払うように、つっかえながらも、提案した。
まったく誤魔化しがなかったかと聞かれれば、嘘になるんだけど。
「……わかりました。ルシオンがそれが良いというのなら」
ルミナリエは、目を伏せながら、わずかな不満をにじませる声でそう言って、一応は納得してくれたみたいだったが、俺はなんだか、もやもやとしたものを感じていた。




