6話 軍勢6
川沿いを流れに沿って、つまり下流の方へと進んでいく三人。鬱蒼とした周りの森から動物らしき影が覗いたり、逃げ出したりするのが確認出来る。
「…シカっぽい謎生物」
「なんだろうね」
名前も知らない生き物を横目にしながら、歩き続けるとふいに見慣れない物が目に入った。大きな四角い形状に車輪、明らかに人工物であり、馬車と呼ばれる物であった。
「!ねえ、行ってみましょう!」
「まって」
ずいぶん興奮した様子の鎧姿。今にも走り出してしまいそうな鎧姿を老人が制止した。
「出会って早々警戒されちゃ、困るでしょ?こんな森の中に立派な鎧を着た人が走ってきたら否応なしに警戒するに決まってるよ」
「ぅ、そうね。でもどうするの?私達はこの一張羅しかないわよ」
「出来るだけ真摯に、落ち着いて話して助けてもらおう。こちらの誠意が伝われば何とかなるはず」
「言葉が通じるかすら分からないけどな」
少女のその言葉に二人が黙り込む。ドラゴンなんて居る世界など、日本どころか地球ですらない。もしかしたらドラゴンが地球にも実在したかもしれないが、植生を見れば少なくとも日本ではない。だから日本語など通じるはずもないと言えた。
「ま、まあそこは分からないわよ」
「ほ、翻訳スキルとか付いてるかもしれないし、ね?」
「だとしても、慎重に行くべきだと思う」
三人は馬車の持ち主、暫定人類に接触する前に自分達の設定や、どこまで正直に話すかといったことを話し合った。それは自分達の話し方や互いの呼び方まで波及した。詰めようと思えばとことんまで詰めてしまうゲーマーの性分がここで出ていたのだ。
「私達は、"気が付いたら洞窟に居た"。それで日本がどうたらまでは話すことじゃないと思うわ。勿論手掛かりがありそうなら話は別だけど」
「僕達の関係も、上手く取り繕う。キャメさんは豪華な鎧だし、護衛の騎士っていう設定でいいと思うんだ」
話し合いの結果、少女が没落した王族の姫で老人は諸々の教師、鎧姿は護衛の騎士という設定に落ち着いた。中々凝った設定だが、一応ボロが出ないだろうという確信があった。その理由だが。
「オレ達、ゲームではガチガチのロールプレイしてたよな?それをそのままやればいいと思うんだ」
「そうね。私なんかラフな口調だと違和感すごいでしょうし」
「僕はもっと酷いと思うけどなぁ」
三人はゲーム内でロールプレイング。すなわち現実とは違ったキャラクターを演じてゲームを楽しんでいた。今までは同じプレイヤー同士だと分かっていたので素の口調であったが、格好に口調も合わせた方が自然である。
「ちょっとやってみようか。………妾はこんな感じであったぞ」
「……姫ちゃん妾とかいうんだ」
「ちょっと面白いよね。妾って…」
「……………別に良かろう」
軽くしょげた少女の姿を見て、失言した二人は慌てて口調を変える。ただ、鎧姿の方は余り変わっていなかったが。
「わたしは変化ないと思うわよ。ずっとロープレしてるみたいなものだし」
「僕…、おほんっ……わしの変わり身の方が姫様より酷いと思うのじゃが」
「わ、凄いわねお爺ちゃん。しっくりくる」
三人がごにょごにょと設定を煮詰めていると、馬車の方が唐突に騒がしくなった。遠くからでも金属を打ち合わせたような音が響き、怒号らしき声も聞き取れる。
「これは…!」
「恩を売るチャンスじゃな!」
「ええ!行きましょう!」
三人は馬車の方へと急いで駆け出す。次第に声が近くなり、時折剣閃が瞬くのが遠目でも確認出来る。馬車の近くまで来た三人、その車体から顔を覗かせて向こう側を見た。
「フッ!ハッ!とおっ!」
「ギィッ」
見えた光景は、一人の人間が人の背丈の半分程しかない醜悪な顔の生き物を切り裂くその瞬間であった。人間は一人に対し、その生き物の数は十を優に超える。そんな数の差を物ともせずに人間は一体、また一体と切り伏せていく。
──その生き物は、ゴブリンであった。
「ギャギャッ!」
よく確認すれば倒れているゴブリンの数は生き残りとほぼ同数であり、全く勝負になっていないことが分かる。だがそれでもゴブリンは撤退しようとしない。それは最後の一体が倒れるまで変わらなかった。
「ヤッ!ふぅ…………そこに居るのは、誰だ?」
「!」
全てのゴブリンを切り伏せた男は馬車の方向を見て、そう言葉を発した。心配していた言語の問題はしなくても良いということが分かったのは果報だが、そうそうに見つかってしまった。彼の発する気配からしてかなり警戒しているようだ。
「…ジェレミくーん!女の子と全身鎧とご老人が三人!隠れているみたいだよー!」
唐突に、ゴブリンの沈む方向からではなく三人の近くから声が上がる。その声は馬車の内部から発生しており、備え付けられた小窓からは瞳がぎょろりと睨んでいた。
「ひぇ」
「あれ?…どさくさに紛れた泥棒かと思ったけど、違うの?」
「違うみたいだねー!身なりも良いし!」
困惑する三人の元へゴブリンを切り伏せた男が歩いてくる。血に濡れた刃物は既に鞘の中にあるが、手は腰にありいつでも剣を抜ける体制にある。そこへ馬車の扉が開き中の人物が降りてきた。
「もう出ても大丈夫かい?」
「許可出す前に出てるじゃないですか。大丈夫ですけど」
出て来たのは恰幅の良い男性。身に付けている物は細かな刺繍が入っており、どことなく生地も高そうだ。歩いてきた男と並び、こちらを見る。
ここは素直に出るしかない、と三人は考え馬車の影から歩み出た。
「エミュさん。この子」
「おや今のご時世珍しい。鬼人族の方ですね。それにしては不思議な角ですが…」
「…すまない。今困っていてな、少し助けてはくれないか」
「助け?…こちらは事情が分かりません。まずは事情を話してくれませんか?」
少女がそう言うと、事情を話すよう進められた。話が通じることに安心し三人は互いに頷き、暖めていた設定を話すことに決めた。




