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軍勢オンライン転生  作者: あの日の僕ら
始まりの地
4/50

4話 軍勢4



「準備は良い?作戦通りにいくわよ」



 鎧姿が少女と老人にそう言うと、真っ直ぐ先を睨む。老人はしっかりと杖を握り締め、少女は両手を障害へと向ける。

 彼らの姿は再び石造りの通路、その出口にあった。ロックドラゴンの群れを抜けて、状況を確認する為に──。



「作戦のおさらいね。姫ちゃんが狂化の重ね掛けでロックドラゴンの一体を狂化状態にする」


「奴らが同士討ちをしている間にとんずらする。だよな?」


「ええ、そうよ。姫ちゃんがこの作戦の鍵なんだから頑張ってね?」


 彼らの考えた作戦というのはこれのようだ。はなから戦って捩じ伏せる考えは、既に三人には無い。もし無双系のゲームのキャラクターならばその様な考え方にはたどり着いただろうが、彼らは分かっていた。ゲーム内でも一対多数で挑めば例えトップランカーであっても死は免れないと。



「お爺ちゃんとわたしは保険ね。ちょっとケガしても、止まらないことが大切よ。私がケガを引き受けるし、いざとなったらお爺ちゃんのドレイン付与で強引に切り抜けるわよ」


「ドレイン付与で切り抜けるのは不安過ぎるよ…」


「そうね。でも私達にはこれだけの武器しかないの」



 人間誰しも与えられたカードで勝負するしかない、という言葉があるが選べるカードが異様に少ない。配下強化の能力は異世界ではまったくの役立たずであった。



「じゃあ、やるぞ?」



 少女がロックドラゴンの一体へと照準を合わせる。選んだロックドラゴンは群れの真ん中付近で寝ている、一際大きな体の個体だ。他のロックドラゴンを釘付けにするには、体が大きいことは利点に働くだろうと予想して。


 少女は竜に向け、命を狂わす焔の呪いを掛ける。ロックドラゴンの体から黒炎が湧いて薄らと岩に酷似した体表を覆う。当のロックドラゴンは何事も無かったように寝そべったままだ。

 そこへ、黒炎が更に吹き出した。少女が呪いを追加したのだ。二つ、三つと追加した時、ようやくロックドラゴンが異変に気が付いた。



 ──グゴゥ?グルルルル…



 キョロキョロと辺りを見渡すロックドラゴン。だが異変の元凶は見付ける事が出来ない。堰を切った様に次々と呪いが注ぎ込まれ、自身の異様な感情に戸惑った。

 ─周りの仲間が、目に映る。その際にロックドラゴンの感情が溢れだす。それは本来仲間に向けるはずのない感情。敵意、害意、殺意であった。


 その感情を自分自身の体へ押し込めるが如く、背中を丸め、地面に蹲る。視線は常にあちこちへと動き回り、四肢はぶるぶると軽い痙攣を起こしている。そんなロックドラゴンの様子に、仲間が何事かと近くに寄ってきた。

 台詞を入れるとしたら─大丈夫?だろうか。小さな鼻先で蹲るロックドラゴンの首筋をつつく。


 鋭敏になっていた体表への接触。その感覚にロックドラゴンは視線を向けてしまう。向ければ、小首を傾げる雌のロックドラゴン。─自分はこんなに苦しんでいるのに、この雌は何の配慮もせず自分をつつく。こんなにも辛いのに、穏やかな顔付きで。


 ─この雌は挑発してるのか?そう思い浮かべてしまった途端、すべてが瓦解した。異物感しか感じなかった黒い炎が、体に馴染む。体に馴染めば、それが力を与えてくれる。ロックドラゴンは既に正気を失っていた。



 ──ゴガアアアアァァッ!!!



 ロックドラゴンは、側に居た雌を太く硬い翼腕で殴り飛ばした。雌に比べれば圧倒的に硬いその体表は、雌の鱗を砕き、森の木々を数本なぎ倒して止まった。

 その凶行に、他のロックドラゴンが呆気に取られる。彼らの心中は、何故という思いで一杯であった。実は少女が対象に選んだ体の大きなロックドラゴンはこの群れの長であったのだ。


 ロックドラゴンの長は先ほど吹き飛ばした、まだ息のある雌ロックドラゴンに向けて歩みを進める。他のロックドラゴンは長が雌に手を出した理由は見当がつかなかった。されどもそこは気高き竜種。雌が死んでしまうので長を止めようと数体が立ちはだかる。

 長の目は、真っ赤に染まっていた。



「いまよ」



 群れが充分に混乱したのを確認し、警戒しながら進む。互いに補いあっても足りていない、派手な解決策さえも思い付かない。そんな足りないだらけの三人が、薄暗い遺跡の穴から陽の差す地面へと足を踏み出す。その歩みの先には希望が待っているのか、それとも絶望が口を開けて待ち構えているのか。



 ──ゴッガアアァァッ!!

 ──ガァ!?

 ──グルッ!?



 ロックドラゴンの長が周囲に噛み付き、頭を踏みつけ、尾で叩き付ける。それでも数に押されあらゆる箇所に噛み付かれ、地面へと引き倒されて動きが止まる。

 その間に、三人はゆっくり、ゆっくりと歩を進めていた。


 だが、ロックドラゴンの長の瞳が突如三人を捉える。その瞬間、群に向いていた怒りの矛先は呪いの発生源である少女へ釘付けとなった。その理由は、最大にまで敏感になった嗅覚が、自身から吹き出す呪いの匂いと少女から漂う匂いが一致した為であり、味方でもない存在を無理矢理強化し過ぎた弊害であった。



 ──グルゴゥアアアアァァァァッッッ!!!

 ──!!!



 ロックドラゴンの軍団が一斉に駆け出す。彼らの鳴き声の中身は人間には分からないが、三人へ向けて一糸乱れぬ進軍をする様は具体的な命令を長が下したことを思わせる。



「ひぇ」


「走るのよ!」


「──ぅく」



 三人は必死に駆けるが、ロックドラゴン達の方が速い。あっという間に距離を詰められ、そして──



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