13話 駆け出し2
「くぅ、…はぁ、はぁ、…もう、動けませんわ」
「ふむ、ここまでですね。中々スジは良い」
白銀の全身鎧が両膝を付き、木剣を支えに肩で息をしている。係員の技量はたいしたものであり、キャメロットは翻弄されまくっていた。事実としてキャメロットは鎧に何度も打撃をうけていたが係員には剣先が触れることさえないのだ。
「では、次」
「次はわしじゃな。見ておれ」
マッドは自身の杖を鬼姫へ預け、箱を漁り始める。左端の箱の中から一本の棒を選び出した時、係員が声をかけた。
「マッドさん?魔術用の杖なら真ん中にありますよ?練習用なので魔力伝達も弱く、有るだけマシという具合ですがね」
「いや、これで良いんじゃよ」
「貴方がそれで良いのでしたら何も言いませんが…」
マッドの手の内にある棒は芯にオモリが入った、れっきとした武器である。彼は魔法など使わないし、オモリが入っている方が威力も高い。マッドと係員は距離をとって睨み合った。
「では始めます。いつでも大丈夫ですよ」
「そうか。………いつ始めようか………のうッ!」
マッドは会話の途中で突然駆けだした。係員はそれに驚いた様子であったが、直ぐに表情を引き締めて木剣を構える。棒は係員の眉間を狙われたがそれは弾かれてしまう。
「ふむ、中々やりま…!くっ!ちょっと待」
全ての攻撃は係員に届かず、反撃をキッチリと受ける。だがマッドは反撃で怯まなかった。次々と無防備に打ち込み続ける彼は係員の反撃をものともしていない。係員の木剣はほとんどがローブに当たっている。素肌にも当たってはいたが、その布製にしか見えないが防御力は布のソレではないローブに惑わされていた。
「マッドさん、そんなっ、戦い方で…」
「…」
「かなりっ、タフですね…」
加えてマッドはドレイン付与のスキルを自身に掛けていた。適当な攻撃もでたらめに傷をものともせずに打ち込んでくるとなれば、いくら技量の高い係員であっても被打が発生してくる。
係員の右手首に当たった棒は内出血を引き起こし、小さいが確かにダメージを与える。そしてドレイン付与によって与えたダメージの何分かの一を自身の傷を癒す力として吸収する。それの効果によってマッドのローブ以外の部分、素肌が露出している頭部や顔付近、両手に出来ていた青あざがわずかに範囲を収縮させた。
「タフなのは良いのですが」
「…」
「これが真剣で、刃に毒を塗っていたとしたら、どうするのです、か!」
「!ぐぅっ」
係員の木剣がマッドの右手首を打つ。先ほどまでの攻撃とは威力が数段上の一撃は手首に真っ青な腫れを作り出す。おそらく手首が骨折しているだろうと思われる攻撃に、マッドは棒を取りこぼしてしまった。その隙を見逃す係員ではなく、ローブ越しの首筋に向けて木剣を振り抜いた。ゆっくりと地に伏せるマッド。
「ここまでです。身体を張れるのも才能ですが、それでは持ちませんよ」
「いつつ…。かなり痛いのぅ」
「避けられる傷は、負わなくて良いのです。その歳まで生きてきて、その結論にたどり着くのですか」
「…別に構わんじゃろ」
マッドは確かに老人の姿ではあるが、中身は若い。口調はロールプレイで立派だが、人生経験が深い訳でもなく色々と危うい。係員はそのことを注意したいようだが、マッドには響いていないようだ。
マッドの模擬戦が終わり、最後の一人。すなわち鬼姫へと視線が注がれる。
「妾の番だな。腕がなる」
鬼姫が武器の入った箱を漁り、武器を探す。選び出したのは鉄製の籠手だ。木製の武器の中でこれだけ鉄製なのは違和感があるが、理由を聞くと。
「籠手が入っている理由ですか?あまりオススメできる武器ではありませんが格闘士の冒険者も居ますので置いてます。…まさか、それで戦うおつもりで?」
「そうだ。…何か問題でも?」
「…いえ、特には」
鬼姫は籠手を装着し、係員に向き直る。武骨な籠手を着けた華奢な少女。そんなアンバランスな武装は一種のロマンを感じさせるが現実にそのような存在が居ても強そうには見えない。
「では、掛かってきてください」
「ふはは。甘く見てるな?驚嘆させてやろうぞ」
鬼姫は駆ける。疾風の如しといきたいが、そこまでの速度は出ていない。せいぜい一般人が本気で跳んだ程度である。その速度を保ったまま拳を突き出して係員に殴りかかる。狙うは顔面。
「思い切りが良いですね。ですが」
鬼姫と係員の間に木剣が差し込まれる。木剣が籠手を弾き鈍い音を響かせて攻撃を不発に終わらせる。バランスを崩した鬼姫だが、その体制からわざと倒れ込むことによって地面に伏せて目の前にある係員の足を狙った。
そんな攻撃を係員は余裕を持って避け、少し距離を取る。体制を素早く立て直した鬼姫は一足で距離を詰めて先ほどと同じ様に殴り付ける。
それを再び防いだ係員であるが鬼姫が木剣を握り締めていることで表情が変わった。この攻撃は避けられまいと確信していた鬼姫であったが、係員は木剣を力任せに引っ張り鬼姫の体制を崩させる。木剣にすがるようにしてなんとか倒れなかった鬼姫だが、次の瞬間係員の鋭い蹴りによって蹴り飛ばされていた。
「ッ!」
「………ここまでで十分です」
「…終わりか?」
再度突撃出来る体制に入っていた鬼姫は終了を告げられたことに不満げな態度を見せる。籠手を外し、蹴られた腹を撫でる。そこまで痛い訳ではないが服の下にはアザが出来ているだろう。
これで三人の審査は終わった。あとは結果は聞くだけである。




