12話 駆け出し1
「のうヒメちゃん。コレ一つおくれ」
「銅貨二枚になる。…新鮮だが生物だから早めにな?」
「気を付けるよ。ありがとねぇ」
可愛らしい少女がニコニコとしながら老女と会話をしている。老女がリプンテという──地球で一番近い見た目はレモンであるが、そこまで酸味は強くなくかなり甘い──を購入し去っていった。
「ヒメ!そろそろ店じまいお願いして良いかい!?」
「!分かった!」
手慣れた様子で店を閉める少女。ひょいひょいとあちこちに動き回り、直ぐに準備は整った。果物屋の店主の女主人はふくよかな身体を揺らしながら歩き、少女へと紙切れを手渡す。
「ゼジル、無理して動くのは」
「ヒメがよく働いてくれたからね。怪我ももう大丈夫さ。ありがとさん」
「そうか。…今まで世話になった」
「こっちのセリフだよ。それは」
少女達が冒険者組合に登録をしてから今日がちょうど一週間となる。三人は始めこそまとまって初心者用の依頼を受けていたが、今ではそれぞれの好みでバラバラに依頼を受けていた。今日の昼には階級の審査があるので、この依頼も今日までなのである。
早めに業務を終わらせてもらった少女は、そのままの足で組合へと向かう。途中すれ違った際に挨拶をしてくる住民が何人か居た。ずいぶん街に馴染んだ様子の少女は、組合へ着く。そこにはすでに二人が待っていた。
「おお、姫様。今朝ぶりじゃのう」
「待たせたか?」
「いいえ、わたし達も今来たところよ。揃ったことだし行きましょうか」
三人は揃って歩き出した。ちなみに鎧姿は街中のゴミ拾いの依頼を受けており、老人は害獣駆除の依頼を受けていた。どちらの依頼も恒常的に貼り出されている依頼で初級の冒険者が良く受ける依頼である。
受付嬢に審査を受けに来たことを伝えると、係員に連れられて地下の修練場へと案内された。こじんまりとした印象を受けるがよく見ると壁で仕切られているだけで、部屋の数は多そうである。
「む、来たか。待ってたぞ」
案内された部屋の中には髭を蓄えてずんぐりとした体型の男と七三分けのぴしりとした細身の男が待っていた。ずんぐりした男が更に口を開く。
「…おお、この反応はお前誰だって反応だな?俺はガイウス。ガイウス・ティノーエンだ。グラドの街支部冒険者組合、その支部長。ギルドマスターって役職よぉ。驚いたか?」
「一見髭もじゃのオッサンですからね。ちなみにこの人、こんななりですがドワーフでは無いのですよ」
「おいおい、まだ俺が話してるだろぉ?ったく…」
髭もじゃのオッサンはギルドマスターであるらしい。初級の審査でこのような要人が出てくるなんて聞いたことがない。その理由はいちいち初級なんぞの審査に、他の仕事を放ってまでの価値は無いからだ。三人は内心で首を傾げていると。
「ふむ、俺が出ばってきた理由を知りたいか?つっても勿体ぶる程のもんじゃねぇがな」
「十分勿体ぶってますよ」
「…お前なぁ。…理由は面白い奴らが入ってきたって聞いたからだよ。それでわざわざ時間作って見に来たってだけだ」
「…それは、ジェレミ殿か?」
「…まあ、そんな所だ」
この世界に来てから出会った人は限られている。そしてその中で"聖炎護手"を披露したのはジェレミか商人のエミュしか居ない。それ以外は特に珍しいことはしていないので、必然的に絞られてくる。
「俺ら二人は立会人さ。ただ見ているだけだから気にしなくて良い」
「気は散ると思いますけど」
「む、それもそうだな。…いや、少し黙ってろお前」
「はい」
どこか漫才めいた二人の会話が一段落し、三人をここまで連れてきた係員が審査の説明を始める。その係員は木製の武器を準備しながら口を動かすという器用なことをしていた。
「皆さんはこちらにある武器を使って私と模擬戦をして頂きます。防具は自前ので構いませんが、武器は使わないでください。危ないですからね」
「ルールは簡単。私が"ここまで"と言うまでです。私は基本的に受けにまわりますから、どんどん攻撃してもらって構いませんよ。反撃はさせてもらいますがね」
「説明は以上です。何か質問は?無ければ順番を決めて武器を選んでください」
説明が終わり、三人は話し合う。質問は特に出なかった為順番の話となる。話し合いの結果キャメロット、マッド、鬼姫の順番に決まった。順番は単純に戦闘能力の差で決めただけである。
「わたしから行きますわ」
「分かりました。武器は……長剣ですね。それでしたら一番左端の箱です」
キャメロットは箱を漁り、中から一本の木剣を選び出した。自分の剣の長さと比べてそこまで違いがないことを確認し、持ち上げる。その際、キャメロットは眉をひそめた。木製とは思えないほどの重量があったからだ。
この練習用の木剣だが、中にオモリとなる金属が入っている。このオモリがあることにより、本物の剣と遜色ない取り扱いが可能になるのだが、裏を返せばそれで死ぬ可能性も上がるということだ。目の前を見れば係員も同じ様な木剣を持っている。長さは片手剣程で長くはないが、舐めていいものではない。
キャメロットは気合いを入れた。元の剣を鬼姫へ預け、木剣を構える。もっとも全身鎧なのでそこまで危険はないのだが。
「では、掛かってきてください。いつでも大丈夫ですよ?」
「…なら、行くわよっ!」
キャメロットが木剣を上段へ振り上げ、係員へと切りかかった。




