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主人(あるじ)が可愛すぎるので仕方ありません  作者: 桃色みつる


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逆襲編:シャルディアンの聖女と眠りの君2

私は深く息を吸い、長く吐く。イメージは私の口からレーザー光を出してセルバートの体をスキャンしてく感じ。実際には私のイメージにそって私から出た魔力がセルバートの体を覆う。でも口から出したもので覆うってなんか気持ち悪いから。もっとスタイリッシュで未来科学的な感じがいいもの。まぁ、私がこれからするのは魔法陣や詠唱を依代にする近代魔法よりずっと古典的な魔法なんだけど。なんでこんなくだらない事ばかり考えてるのかっていうとね。臭いの。血の臭い。肉の焼ける臭い。死の匂い。何か考えてないと吐きそう。・・・・・ふぅ、やっと覆い終わった。ほんの数秒だったけど、どっと疲れる。でもだんだんと生気が弱くなっていくセルバートを前に一息つく暇もない。セルバートの顔から彼の胸に刺さる短剣へ視線を向ける。当然、どんなに見ない様にしても彼の胸が見えてしまう。ぐぅ・・・昔の記憶で映画の中に多少スプラッタやゾンビなどグロテスクなものを見たことはある。だけど、画面の向こうと現実じゃ全然違う。

吐かないように喉に力を入れると鼻がつーんとして涙も出てきた。なんとか短剣の柄に手を伸ばすが震えてしっかりと握れなくて、触れるだけだ。ガタガタと揺れる手で刃先が動いたらまたセルバートを傷つけてしまうから。でもこの短剣を抜かないと彼を助けられない。

そこでそっと私の手に大きな手が重ねられた。暖かい手に思わず気が抜けてしまうと、そのまま短剣の柄から遠ざけられる。

私が手の主へと顔を上げるとガイが私を見ていた。涙を流したまま、それでも彼は息も乱さずに冷静に私と目を合わせる。

「俺がやる」

私は頷く。口をひらいたら吐きそうだし、なんかあれだけ格好つけのにいっぱいいっぱいなのが悔しいし。さっきまで情けない顔をしてたのにガイが急にしっかりするから、私が馬鹿みたいじゃない。でもほっとした。今ちょっと、情けない私じゃセルバートを助けられないんじゃないかと思ってたから。

ガイがしっかりと短剣の柄を握る。セルバートの体が動かない様に片手はセルバートの胸に置かれた。

「・・・いくぞ」

ガイは私が頷くと、一気に短剣を引き抜く。失血が酷いのか血は噴き上がらない。

私は短剣の先端が抜けるやセルバートの胸に両手を押し付けた。ううううううあぁああああああ我慢!我慢だ!ガイはどんな気持ちでセルバートに触れたんだろうか。きっと私よりずっとつらかったろうに。短剣を抜き時、怖くはなかったんだろうか。私は触れるのも怖かったのに。まるで私が彼を殺してしまう様に思えたから。でもきっと、そんな事よりガイはセルバートを助けたいと思ったんじゃないだろうか。だからその為ならセルバートを傷つける事も、その痛々しい体に触れる事も出来たんだう。・・・・・私は?私は出来ないの?出来ないはずないでしょだって私はーーーーーーーーー

「うああああああああああああああああああああああああああああ」

私は叫んで、叫んで、体から魔力を絞り出す。私の魔力が大気に触れて白く輝き、視界を真っ白に染めていく。上品で洗練された魔法でなんて私は人を救えない。私に出来るのは助けたいという思いをぶつけて、私の魔力で染め上げ、無理やりその蘇生を促し肉体を治す。生きる活力を与え、そしてーーーーーーーーー彼らの痛みを受け取ること。私の力が神の祝福ならば、受ける痛みは罰なのだと思う。だって神様の作った運命を捻じ曲げてしまうのだもの。自分の唸り声が遠くに聞こえ、視界が周りから少しづつ闇に染まっていく。真っ暗になった時、私はきっと死ぬほどの痛みを受け取るのだろう。セルバートを助けるに足る罰を。視界が闇に消える時、シェザンの声が聞こえた気がした。


私がぱちりと目を開くと、そこはまだ真っ暗な場所だった。いや、私はさっきと同じ所に居るはず。何故ならさっきまで座っていた私は今立っているし、あの部屋は暗かったけれどクリスが魔法で照らしていたもの。おそらくここはセルバートの精神世界。

私がお母様の治療をした時、意識を失うと彼女の精神と共鳴していた事があった。私が思うに体が壊れる時、魂も壊れていく、そうすると私という遺物を受け入れてしまうこともある。彼の魂が壊れかけているのなら、身体だけでなく魂も治さないといけない。

でも何かがおかしい。何か足りない気がする。頭をめぐらして体を確認してみるけど、どこも欠けてないし、怪我もしてないし、そもそも痛く・・・ない?うん、痛くないわね。いつもなら治している怪我の痛みがそのまま私にも感じられるのだけど、あれだけ酷く傷つけられたはずのセルバートの痛みがまったく感じられない。セルバートの呪が効いているのだろうか。でも、それってセルバートが自分の痛みと私の痛み両方感じでしまうではないだろうか。

私は走り出した。暗い世界は何も見えないけれど、普段ならそんな所を走るなんて怖くて出来ない。でも、このどこかでセルバートが痛みに苦しんでいるのかもしれないと思ったら走らずにはいられない。どこ、どこにいるのよ?走っても、走っても何も見えなくて。私は切羽詰まって叫ぶ。

「セルバートっ!!どこに居るのよっ」

ぽん。そんな音が聞こえるかと思うくらい、私の少し前の場所がぱっと明るくなった。まるでスポットライトが当たるみたいに。慌てて立ち止まり、明るくなった場所を見る。

「え」

私の口から気の抜けた音が漏れる。だって目の前の光景がなんだか異様で驚いてしまったんだもの。

明るく照らされた空間には小さな子供用のベッドがあった。本当に小さくて、上の方は箱の様な形で毛布やレースの布が少しだけ出ている。赤ちゃんのベッドだ。

そしてそのベッドから少し離れた場所に小さな子供が立っている。ほんの2、3歳くらいの小さな子供。服装から男の子だろう。でも、彼の雰囲気はとても幼子とは思えなかった。大人の様な、それさえも超えた何かみたいな。そして彼は身動き一つせず、じっと小さなベッドを見つめている。小さな彼は自分の頭より上にあるベッドの中を見ることは出来ないのに、ずっと見ているのだ。小さな濃紫色のおかっぱ頭で。

「セルバート!」

私が彼の名前を呼んでも、セルバートは身じろぎ一つしない。気味の悪い子供・・・まぁセルバートはいつも気味悪い系男子だっけ。う、うん平常通りだ。でも良かった、痛そうにはしてない。私はセルバートへ歩き出す。

「セルバート、貴方なんでそんなに小さくなってるのよ」

セルバートから応えは無い。

でも私は答えを知ってる。彼の精神世界、それも死の淵では人は一番心に残ったものを映すのだという。きっとこれは彼が一番大切にしている思い出だ。小さな彼が死ぬ時まで大切に思っている記憶。

「あそこに居るのはガイなの?」

やっぱりセルバートの応えはない。近づいた小さな背中からは全ての意識を小さなベッドへ向けている事が分かるようだ。

ガイに聞いた事がある。セルバートとは産まれた時からの付き合いなのだと。ガイはほとんど3歳年上の彼に育てられた様なものだと笑っていた。いつもの彼は小さくしか微笑まないけど、その時はとても嬉しそうな声で目が優しく笑っていたのを覚えてる。きっと大切にされたのだろう。私はその顔を見て、ああ、この子は私のじゃないんだって感じたの。

私はセルバートの傍に着くと彼の後ろにしゃがんだ。小さな頭はセルバートでも可愛いかもしれない。彼と同じ視線になってみると、やっぱり子供用のベッドの中は見えなかった。

「抱っこしてあげようか?」

「いいえ」

思いがけず、返ってきた返事に驚いてしまう。てってきりセルバートは返事をしてくれないと思っていたから。

良く通る、可愛い子供の声。でも、声音は大人の様に静かだ。

「会いたくないの?」

「いいえ」

会いたいけれど、会わない。どうして?貴方が我慢をするの?

埒があかないと、私はセルバートの脇へ手を入れる。無理やり持ち上げて、ガイの顔を見せればセルバートも生への執着がわくだろう。

その時、するりとセルバートが振り返る。可愛い声が無機質な音を出す。

「だって私は穢れてるから」

小さな白い顔に金色の瞳がぎらりと私を見る。そしてその目は見る間に黒く染まり、目からはどぼどぼと黒い何かが流れ落ちていく。彼の口からも黒い塊が吐き出された時、私は恐ろしくて小さく悲鳴を上げる。それでもなんとか彼を掴んでいた。ここで逃しちゃいけない。

セルバートから落ちた黒い何かは洪水の様に溜まっていき、瞬く間に腰まで浸かる程になる。

何これ。そう思った時、セルバートが私に持たれかかる様に倒れ込んできた。慌ててセルバートを抱きとめると、彼は私の耳に囁く。いつか私に囁いた大人の優しい声で。

「あの子に伝えてくれますかーーーー」

彼の言葉に思わず緩んだ腕の中で、セルバートがどぶりと弾ける。弾けた彼からどんどん溢れる黒い泉に私は溺れていった。

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