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脳心儀  作者: 八島秦
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第六話 龍月の盟、二千年の守り

【前書き】

世の嵐は轟音にあらず、長き沈黙の裡に宿る。

二千年の月が暗闇に潜み、血脈の灯火を守り続け、

人が宿命を知る瞬間、本当の戦いが幕を開ける。


――


石澳の激しい嵐は、午前三時になってようやく収まった。


龍隠山荘全体は、深海から引き上げられた難破船のように、荒廃に満ちていた。

あちこちに横たわる蒼い傀儡たちは、脳心儀の邪力を失った瞬間、肉眼で見える速さで干からび、硬くなっていく。

かつてセントラルのスーツや街着をまとっていた躯は、空洞の抜け殻となり、バロック様式の長廊や荒れ果てた庭に横たわっている。

空気に漂っていた刺すような邪悪な悪臭は、突如訪れた静寂に抑え込まれ、雨上がりの山林特有の冷たい腐土のにおいだけが残った。


蒼白な冷月が分厚い雲を引き裂き、銀色の光がゆっくりと降り注ぐ。

まるで冷たい銀の紗のように、傷だらけの山荘を包み込んでいた。


ホールの電気はまだ回復せず、濃い闇が立ち込めている。

砕けたステンドグラスから断片的な月光が差し、中央に佇む三つの人影を照らし出す。

秦正霆は長椅子にもたれ、荒い息をしていた。

かつての実業家としての鋭さは消え失せ、銀色の裾と古い月の紋様を行き来する視線は、二千年に及ぶ残酷な歴史に打ち砕かれていた。


「白月化教……」

彼の声は嗄れて乾いていた。

「古い残巻に書かれた狂気の言葉が、嘘ではなかったのか。」


月化娘はゆっくりと白い手首を下ろし、「月化空骨」という氷の刃が銀の波紋を広げ、細やかな光となって彼女の周囲の月暈に溶け込んだ。

彼女が立つ姿は、植民地時代の華やかな古宅とは馴染まないが、圧倒的な存在感を放っている。


彼女は穏やかに腰を曲げ、古く疎遠な礼を取る。

その声は深い渓流の冷たい泉が岩に打ち当たるように澄んでおり、人の温もりが微塵もない。


「秦様。始皇帝は我が教を殲滅するつもりはなく、ただ世を隠して眠るよう命じただけです。

我が童女の脈は、二千年もの間、嬴氏最後の血脈の火種を守り続けてきました。」


秦陌は傍らに佇み、掌の逆龍印の灼熱が完全に消え、代わりに骨まで通じる清らかな冷たさが広がっていく。

悪夢にうなされて目覚めた幾多の深夜、上環の冷たく湿った路地裏。

いつもどこからともなく漂う清涼さが、暗闇から覗く悪意を遮ってくれていた。

かつては幻覚か、海風のせいだと思っていた。

今、ようやく真実を理解した。


「ずっと……目に見えない場所で、俺を守ってくれていたのは、君なのか。」


秦陌の声は少し嗄れ、冷たく陶器のようでありながら千年の風霜を背負う彼女を見つめた。


「徐福の勢力は、この街の隅々まで浸透しています。」


月化娘は彼の掌の龍紋を見つめ、瞳に珍しい柔らかさが宿る。

「完全な逆龍印を宿すあなたは、闇の中で最も目立つたいまつ。邪悪なものは自然と引き寄せられます。

私が安易に姿を現せば、徐福に早く手を出させるだけです。

過去、私は暗闇の中で、細やかな災厄だけを払ってきました。」


秦正霆は襟元を開け、胸に刻まれた黒龍の逆鱗印がかすかに熱を帯び、古い盟約に呼応するように震えた。

長くため息をつき、二千年分の疲労が滲み出す。


「我が秦家は石澳に隠れて自欺にふけり、いつ爆発するかわからない秘密を抱えて生きてきた。

まさか同じように、この時まで支え続けてくれる者がいたとは。」


「龍は邪を鎮める刃、月は脈を守る盾。」


月化娘は二千年の誓いを穏やかに語る。

「昔、始皇帝は自らの血で逆龍印を刻み、脳心儀の反動を抑え、我が教祖・白月汐と龍月の契約を結びました。

徐福が執拗にあなたの躯を狙うのは、嬴氏の血脈だけが、彼の腐敗した魂を安定させられるからです。」


その言葉が、秦陌の心にかかっていた靄を完全に晴らした。

かつて彼はこの印を呪い、逃れられない重荷だと嫌っていた。

だが今、自分が二千年に及ぶ闘いの最も重要な最後の防衛線だと知った。


「今夜は、まだ始まりに過ぎないのだな。」

秦陌は散り散りになった残骸を眺め、心が重く沈む。


「先ほどの戦いは、徐福がたった一つの駒で試したに過ぎません。」

月化娘は欠けた月を見上げ、声を沈める。

「廃棄された防空壕、深山の古寺、繁華街の地下倉庫……街中には脳心儀に侵された傀儡が潜んでいます。

香港という都市は、既に彼の勢力に張り巡らされているのです。

戦闘中、一部の残党が逃げ出したのを感じました。

必ず徐福に報告に行く――逆龍印が完全に覚醒したことを。」


秦陌は瞳を落とし、掌の龍紋がかすかに現れては消える。

龍印の温もりと月の清らかさが体内で混ざり合い、奇妙な均衡を生み出していた。

彼はかつて、この山荘も父も、この印も、全て逃げ出したいと思っていた。

だが自分のために二千年も暗闇に潜んで守ってくれた者がいると知り、孤独感が跡形もなく消えた。

これは時代の移り変わり、戦乱や災厄を超えた約束であり、掌の印は傷ではなく勲章なのだ。


月化娘は身を翻し、秦親子に真剣に深く礼を捧げる。


「白月化教・月化娘、先祖の遺命に従い、護衛が遅れました。

今日より、この山荘に留まり、月の結界を張ります。

私が生きている限り、邪悪なものはこの地に踏み込めません。」


秦正霆は窓の外の銀色の月光を眺め、ゆっくりと頷いた。

それは妥協であり、運命を受け入れることでもあった。


月光が山荘の壊れた影を長く引き伸ばし、干からびた傀儡は月の光の下で不条理に輝き、都市の華やかさと脆さを嘲笑っているように見える。

二千年の恩讐、神器への執着、オフィスビルの影に潜む邪悪。

それらは既に巨大な網となり、この島をきつく縛りつけていた。


秦陌は拳を強く握り締め、龍印が鼓動と共に脈打ち、月の光が血管を流れていくように感じる。

もう、嵐の中で逃げ惑う臆病な鳥ではない。


だがこの瞬間、遠く香港市街の摩天楼の最深闇に、誰かの冷徹な視線が石澳の山林を貫いていた。


逃げ帰った傀儡残党の報告は、既に闇の主の元に届いている。

逆龍印の完全覚醒、龍月の盟約の復活――

徐福の千年の計画が、ついに核心へと動き出す。


今夜の勝利は束の間の安らぎに過ぎず、

真の殺戮の盤局が、静かに開幕したのだ。


――第6話 了

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