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11-3

 波の音が耳を擽った。その中で、シャーロットがせっせとユグシア島に渡るための小さな船を支度している。その間に、三人を見送りに来た者たちが集まっていた。


 柔らかな波の音を聴きながら、ユートはここまでの旅路に思いを馳せる。


 記憶を失ってからの五年と少し。ルトの家で過ごした長い年月もかけがえのないものだったが、旅を始めてからの数ヶ月も胸に熱いものを残す時間だった。


 それら全てを冷まさぬように、胸に(てのひら)を押し当てる。そんな彼の名前を呼ぶ者がいた。振り向くと、ルトとミキの姿がある。


「お別れだね」


「やだなぁ、さようならは言わないでよ」


 ユートが言い返すと、気分を損ねたようにルトはムッと顔を顰めた。


「先に言ったのはユート。旅に出る時、さようならって声掛けて一人で出ていったでしょ」


「……うっ、まさかあの時、起きてたの?」


 覚悟が鈍らないようにと、皆が寝静まっている間に家を出た早い朝をユートは思い出した。ミキも笑っていることから、二人とも起きていたようだ。


 ごめんと顔を俯かせるユートの頭に、大きな手が乗せられる。押し付けるように撫で付けるのは、ルトの加減が下手な愛情表現だとユートは知っていた。


「またね。いつでも会いにおいで」


「元気でね。怪我も病気もしませんように」


「……うん、ありがとうルト、ミキ。今までずっと」


 ユートはそれが本当に最後かもしれないのに、またねという言葉が離さなくて涙が溢れてきた。


 時に師匠、時に兄のように接してくれたルトも、姉のように厳しくも優しくしてくれたミキも、彼にとっては大切な家族だ。家族との別れはどうしても悲しかった。


 そんな三人の大切な時間を邪魔しないようにと、ユーナは遠目から眺める。そんな彼女に近づく影も一つ。


「ユーナ様も、お元気で。テナートへの手紙は必ず届けます」


「ええ、ハルキ様……ありがとうございました。私のことも、ユートのことも」


「大したことはしておりませんよ」


 振り返ったユーナに笑顔を見せたハルキは、謙遜(けんそん)しながらその姿を上から下まで余すことなく確かめる。


「大きくなりましたね」


「……それは既に言われたような……?」


「いえ、一層ですよ。ユーナ様はこの旅でさらに逞しくなられた。もう、独りベッドに(うずくま)って、涙を流すことは無いでしょう」


 ハルキがユーナと出会ったばかりの時を思い起こすように言うと、ユーナは熱くなっていく顔を隠すように手で覆った。そして、意地悪だと小さく訴える。


 ハルキが高々と笑うと、船の支度を終えたシャーロットが大きく手を振りながら呼びかけた。


「それじゃあ、またね!」


「また会いましょう、きっと!」


 船に乗り込んだ二人は振り返り、別れの悲しみなんて覚えさせない笑顔で言う。それをコウとサナが返すように手を振った。


 言葉は重ねなかった。既に充分なほど、再会の約束を結んだからだ。


 シャーロットが陸を蹴ると、船はゆっくりと海へ流れて行った。遠くなっていくその姿に目を背けることなく、手を振り続けて見送る。


 無事を祈りながら、再会を願いながら。海に浮かぶ(きり)に三人の姿が隠されるまで、コウとサナは手を振り続ける。


 健気(けなげ)な背中を見守りながら、ルトは肩の力を抜くように深く息を吐いた。その肩をハルキが軽く叩くように手を乗せる。ミキも背中を優しくさするように触れた。


「お疲れさん。でけぇヤマがやっと片付いたな」


「そうですね。感慨深いです」


「うん。いいこともたくさんだったけど、長かったね。五年もかかった」


 三人が思い起こすのは、五年前のとある夜。月明かりに照らされて、煌めく金糸の髪の少年と出会った運命の始まり。


 それを起点とした魔物や悪魔との戦いや、度重なる衝突の数々に思いを巡らせる。


「それにしても、悪魔たちの偵察隊に拠点なんてものがあったとは。盲点だったな」


「悪魔に関してはまだ分からないことばかりですから。今回の制圧で少しは余裕が生まれて欲しいものです」


 伸びをしながら今回の作戦を振り返るハルキに、ミキは困ったように笑いながら今後について話した。


 冒険者たちはここで一区切りだが、兵士たちの戦いに終着点はまだない。それを(うれ)うように話す二人に、ルトが割って入った。


「でも、きっと大丈夫だよ。あの子たちみたいに、強い子がこれからも育ってくる」


 そう言いながらルトは目を細める。その瞳には、黙ったままいつまでも海を眺めるコウとサナの姿が移った。ハルキとミキも同じようにその背中を見守りながら、静かに同意する。


 例え戦いが長く続こうとも、人を守り抜く決意は引き継がれるだろう。その希望を胸に抱いて、三人は地面を踏みしめた。


「さて、仕事に戻るぞ二人とも……コウ! サナ! お前らどうせ暫くはうちに居るんだろ? 働かねぇと飯はやらんがな!」


 ハルキが海に身体を向けたまま動かない二人に声をかけると、元気な反感の声が同時に上がる。振り向いたままの勢いで走ってくる二人を見て、安心したように三人はその場を後にした。


 霧が晴れ始めた海は穏やかに波を揺らす。天に昇る太陽から降り注いだ光は、彼らを明るく照らし続けていた。




 ──────────────────

 神々の作ろう物語 第一章


 勇者と姫は自分探しの旅に出た



 取り戻す物語 完


 ──────────────────




 ばかコウへ



 元気にしてる? あれからあっという間に時間が経ったね。


 あんたがいつまでも手紙を寄越さないから、やっぱり送り先に迷ってるんだろうと思ってあたしから書いてみたよ。


 あの時、あんたに手紙なんて似合わないって思ったけど、あたしもほとんど書いたこと無かったからお互い様。書き方なんてよく分からないから、簡単に最近の話だけ。



 あたしは今、テナート共和国に居る。南の方。オレンジが美味しいし、花が綺麗。


 あんたとユーナが育ったところなんだよね。すごくいいとこ住んでたんだなって驚いた。


 あんたなんでこんなところで盗賊なんて馬鹿な真似してたの。まあ、それはあんた自身が一番思ってるか。


 特にお気に入りの場所が最近できてさ、日差しのいい丘なんだけど。太陽の光が心地よくてよく昼寝してる。ユートも好きそうな場所。



 一人で旅をしていても、ユーナが喜びそうな髪飾りとか、ユートが騒ぎながら食べそうなご飯とか、あんたが買いたがりそうな雑貨とかが目につくの。


 あんたたちのこと思い出すと、四人で旅していた時と変わらなくて寂しくないよ。


 次はエリュトロンに行く。ここは四人でも少し寄ったよね。ユートとユーナの誕生日だっけ。あの時も良かったから、行くのが楽しみなんだ。結構長く居る予定だよ。



 だから、返事はエリュトロンの東部にある冒険者ギルドに送って。あたしがそこに居なかったとしても、ギルドの間で荷物のやり取りする時に、届けてくれるみたいだから。


 それに、あんたに何かあったら、すぐにそっち行くから。頼ってよね。


 元気でね。あまり無理はしないように。


 サナより

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

『神々の繕う物語』第1章『勇者と姫は自分探しの旅に出た』はこれにて完結となります。

神々の繕う物語の入口として書いた作品であり、神々の繕う物語が始まるきっかけになった物語でした。

一人遊びのように、物語を妄想しては一枚絵にしたり、書きたいところだけ書いたりとしていただけの十数年でした。それを誰かの目に触れるように、小説という形に書き起す。人生単位でも挑戦的なことでした。

楽しんでいただけたでしょうか?

そうであれば至高の幸い!

ユートやユーナ、コウ、サナ、他のキャラクターたちがあなたの心に少しでも残れば、天にも登るほどの幸福だと思います。

神々の繕う物語はまだまだ長いこと続く予定ですが、ここまで読んでくれただけでも本当に感謝しております。ありがとうございました!


さて、宣伝

第2章『天使と悪魔と人間と』は9月から連載予定です。

こことは作品の枠?が変わる?予定ではありますが、この回の前書きにてページをアナウンスしたいとは思っています。

もし、続きも気になるよという方はそちらも追って欲しいです!

第2章は時を遡り、ルトを主人公としてお話をしていきます。

添削前段階だと30話もあるので(笑)

更新頻度に関してはどうしようかなーもう毎日投稿かな〜?と思っておりますが……

気が向いたらチェックしてみてください!

お待ちしております!

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