森から聞こえた声
今日は少し妙な事が起きた。
ルイベーユから真っすぐ北に向かっている途中で、俺は誰かの悲鳴を聞いた。
護衛している馬車の左手には森があったのだが、声はそこから聞こえて来た。
「助けてー! 誰か―! お願い―!」
と必死に助けを呼んでいるので、俺は他の護衛に声を掛けて止まるように言った。
するとみんな怪訝そうな顔をして俺を見た。
耳がキンキンするほど大きな声だというのに、全く聞こえないというのだ。
俺は森の中を指差して、声がする度「今聞こえただろう?」と言った。
だが護衛仲間も、降りて来た商人たちも、首を横に振るばかりだった。
やがて護衛仲間の一人が、何か思い出したようにその辺りの地図を広げた。
「ここらの森はこういう妙な事が起きるので有名な場所だ」と彼は言った。
地図には赤い丸をしてバツ印がつけられていた。危険だから絶対に近付くな、という印だそうだ。
何の仕業か分からないが、俺にだけ聞こえるというのは、良くないものに呼ばれているのだろうと彼は言った。
そんな場所でのんびりしていると危険だ、という事で少し移動を早めることになった。
だが俺には、あの声はそんな恐ろしいものには思えなかった。
本当に切実に助けを求めていた気がして、声が聞こえなくなった今も気になって仕方ながない。
この仕事が終わるのは明日の午前中だ。
なので終わったら、もう一度あの森に行ってみようと思う。




