故郷と旅
今日は手帳を取り出すなり、フランにあれこれ質問された。
いつも何を、どうして書いているのか、旅の目的は何なのか、と。
手帳にその日の出来事を書くようになったのは、単に手帳を貰ったからだ。
今となってはそれが、一日の終わりの楽しみになっている。
旅先は珍しいものが多いし、最近は人間との付き合いも面白くて、つい書かずにはいられない。
そもそも俺が字を書けるのは、住んでいた村が人間と交易をしていたからだ。
商人のいないオークの村では、予め商品の一覧を交換し、指定の場所で取引する。
俺の親父がその仕事をしていたので、いずれ引き継ぐために字を覚えた。
だが旅の発端もそこにある。
親父は人間に慣れ過ぎて、村にとって危険な肩入れをしてしまった。
その結果、家族もろとも村を追われる事になった。
しばらく食うにも困る生活をした。
だが半年後、その「肩入れ」が功を奏したと、今度は戻って来いと言われた。
親父は喜んだが、俺はどうしても納得できなかった。
だから家族と離れて、一人で旅に出ると決めた。
要するに意地の問題だ。笑ってくれと言うと、フランは首を横に振った。
「誰でも大事なことはそれぞれ違う。僕だって馬鹿にされる事があるけれど、君は尊敬してくれる。だから僕も君を尊敬するし、君の意志をつまらない問題だとも思わないよ」
真剣にそう言われて涙が出そうになった。
旅立って初めて、腹の底から息ができた気がした。




