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夢を視ていた。
身体が朽ち果て、動けなくなっていた私を少女が見ていた。
「あなたの名前は?…ARIS?あなたもアリスと言うのね?私の名前もアリスって言うの。宜しくね」
少女は満面の笑みを浮かべた。
「…やっと会えた。初めまして。最初のアリス。私が、最期のアリスよ」
アリスと名乗った少女は私を自身の家へと運んだ。
彼女の住居以外にも建物は有るにはあるが、生命反応が無い。
「ここに他の人はもう居ないの。向いのエンデお婆ちゃんは去年行ってしまったし、私のお爺様は三年前に行ってしまったの」
つまり、この場所にはアリスしか生きている人間が居ないという事か。
「いいえ。人が暮らす場所はここ以外にはもう無いわ。数十年前までは在ったけど…もう誰も居なくなってしまった…」
「だから、もうここには私と貴女しか居ないの。私達が最後の人間で、最期のアリスね」
アリスとの生活は楽しかった。
ここには争いが無い。
もう過剰とも言える殺戮兵器を振り翳す事は無いのだ。もっとも、それらの兵器群の殆どは既に動かないのだが。
アリスは度々寝込んだ。
生れつき身体が弱いという。
「ARIS…お願いがあるの。もし私が………いいえ。何でもないわ。もしその時が来たら…」
アリスとは色々な場所に行った。
シェルターという限りのある空間ではあったが、一人の人間が活動するには充分すぎる広さだった。
「見て、ARIS。綺麗でしょう?今までは未だに咲いた事は無いけれど、今回は咲くような気がするわ」
花畑だった。
アリスの腰程度の高さで蕾を揺らしていた。
「これは終わりの花。終わりが来た時に初めて咲く花。…ARIS…お願いがあるの…」
アリスの寂しげに笑いながら告げた、ささやかな"お願い"は。
「ARIS…お願いがあるの…」
あれから数十年が経った。
アリスはあの時と変わらず病弱な少女で、今日もいつもの発作を出していた。
ただ、私にもアリスにも分かっていた。
もう彼女は長くはないと。
花畑に来ていた。
「ARIS、見て。綺麗ね」
アリスはもう自身の脚で立つ事もままならなくなった。
姿は変わらず少女のまま、身体機能だけが老いていく。
「ARIS…貴女に逢えて本当に良かった…」
数年後、アリスは死んだ。
私は花畑に彼女の亡骸を横たえる。
直後、ふわりと蕾が開く。
これは、終わりを告げる花。
アリスの死によって、ここに人類は滅亡と相なった。
アリスを中心として花が開いていく。
最後の人類。最期のアリス。
咲いた花が甘い薫りを放つ。
それは、魔力を内包する花。
私は花畑の外に出る。
最期のアリスは遠い所へ行ってしまった。
私ではもう辿り着けない場所。
螺旋の輪廻。
此処ではない故にもう届かない彼方へ。
一面満開となり咲き誇る花が突如として枯れる。
魔力が集束しアリスの身体へ取り込まれていく。
アリスは病弱だった。
それは、魔力を持たぬよう調整された故に。
アリスは歳を取らなかった。
それは、最後の人類となる宿命故に。
アリスは泣かなかった。
それは、今までの旅路故に。
横たわったアリスの心臓が鼓動を再開する。
最期のアリスはもう居ない。
此処からは私の…最初のアリスの最後の使命。
アリス…だったモノが目を開く。
「……………夢を……視ていました。………此処ではない世界。……初めまして。あなたの名前は?」
アリスだったモノはアリスの声音で囁く。
『お前の世界はもう終わった。悪あがきは止めて現実を受け入れろ』
アリスそっくりの…始まりの魔女は囁く。
「それは異な事。私達の世界はまだ終わってはいない。寧ろ、此処から始まるのです。そのために私が遣わされてきたのですから」
『だから、私が止める。他でもない、私が終わらせる。そのために私は此処まで来たのだから』
そうだ。私が幕を引かなければならない。
私が、私を止めなくてはならない。
「あなたにそれが出来るとでも?」
『出来るさ。もう同じ失敗は繰り返さない。私の世界は此処にある』
「…………?まぁ、いいでしょう。あくまで私達の使命を邪魔するのならば容赦はしません。大義のために滅んで頂きましょう」
分かっていない。
この世界の、かつての私は何も分かっていない。
「…?……この身体は…?………まさか……こんな事計画に無かった……」
それはそうだ。
世界が変わったのだ。
今回もあの時のように、上手く行く……いや、悪く行く筈がない。
最期のアリスは調整された個体。
最初のアリスが取り憑く故に調整された個体。
『…お別れだ、アリス』
右腕に装填した弾丸がアリスの心臓を撃ち抜く。
心核を潰した。もう何処にも行けない。
「…そう。そういう事だったのね…」
始まりの魔女はそう呟き、くず折れた。
夢を視ている。
私がかつてアリスと呼ばれていた世界。
科学と魔法が対立していた世界。
滅びが確定していた世界。
諦められなかった世界。
緩やかな滅びに向かうしかないと諦めかけていた時、私達の中の何かが囁いた。
滅びが怖いのならば、始まりを変えれば良いのだ。
そも、魔法とは邪法であるが故に。
魔法とは因果を越え、別世界によりもたらされた術。
私達は科学に見切りを付け、邪法に手を伸ばしたモノの末裔。
それは、世界を改編する魔法。
因果を変え、世界を破壊する魔法。
既存の神を廃し、異界の神を据える魔法。
私達の世界は異界の神に乗っ取られてしまった。
私達が弱かったばかりに。
夢を視ていた。
かつての夢。
希望を胸に歩いた夢。
今は遠く、もう其処には辿り着けない。
世界は廻る。
嘗ての場所。
私の世界は滅びに瀕していて、また新たな世界が始まろうとしていた。
私達はそれが許せなかった。
私達の世界を終わらせたくなかった。
新しい世界なんて知った事ではない。
故に突けこまれたのだ。
私達は選択を間違えた。
もう、あの世界に戻る事は出来ない。
そして、あの世界の私達はこれからも間違い続けるだろう。
異世界の神のために。
せめて…せめて、この世界は守らなくてはならない。
私達の間違いを正すために。
あの神をこの世界に呼び込んではならない。
しかし、既に異界の神の種子は撒かれてしまった。
そう遠くない未来に奴は現れる。
故に正さなくてはならない。
魔法を…魔女を殺さなくてはならない。
嗚呼、世界が…悪魔が叫ぶ。
拙作を最期まで読んで頂きありがとうございました。




