第14話:戦争の火種を刈り取る者
将校の眼光が、空気に刺さっていた。
正確には、空気の歪みに。
長谷部雄介は呼吸を止めていた。肺の中の空気を、意志の力だけで押し留めていた。心拍は意識的に落とせるものではないが、それでも彼は丹田に意識を集中させ、交感神経の暴走を文字通り力技で封じ込めていた。筋繊維の一本一本に「動くな」と命令する。微細な震えすら、殺す。
将校は動かなかった。
振り返った姿勢のまま、そのくさび形の顎をわずかに持ち上げ、長谷部が立つ——正確には、光学マントが背景と同化しながら「存在している」——空間の一点を、冷徹な眼球で射貫き続けていた。四十代後半の鋭い顔に刻まれた皺は、苦労の年輪ではなく研磨の年輪だ、と長谷部は思った。前世で何度か相対した中国軍の上位将校たちと同じ眼をしている。疑いが証拠になるまで絶対に捨てない眼だ。
倉庫Cの照明が、天井の蛍光灯から白く降り注いでいる。
長谷部の位置から将校までは約七メートル。防水シートはあと三歩、一・五メートル前方。兵士が三名、それぞれ倉庫の左壁・右壁・入口付近に分散している。無線機がかすかに低周波のノイズを漏らしていたが、今はそれさえも途絶えていた。
誰も喋らない。
将校が何かを感じ取っていることを、部下たちも察知していた。兵士たちの視線が、無意識に将校の視線の方向へ吸い寄せられている。しかしそこには何もない。背景と完全に溶け合った光学マントが存在するだけで、人間の視覚がそれを「異常」と認識するための輪郭も、影も、存在しない。
それでも将校は見ていた。
(やっかいだ)
長谷部の脳裏に、感情のない評価が浮かぶ。カメラの映像欠損から侵入者の存在を即座に看破し、軍用犬の手配を最速で判断した。その思考の速度と精度は、前世で相対した敵指揮官たちの中でも上位に入る。そして今、確たる根拠もなく「そこに何かいる」という動物的直感を、理性で検証しながら疑念を強めている。
長谷部は計算した。
現在の状況で将校の疑念を「確信」に変える要素は何か。音。気配。体臭。物理的接触による痕跡。この四つだ。マントは音を消さない。だから長谷部は今この瞬間、呼吸すら止めている。体臭は——軍用犬が来るまでは致命的ではない。問題は「物理的接触による痕跡」だった。
左手。
素手の左手が、長谷部の最大のリスクだった。
指輪の絶対則——収納には皮膚の直接接触が必要不可欠。つまり左手のグローブは外したままでなければ、あと三歩先の防水シート下に眠る重火器群を亜空間へ収納することができない。そして素手の状態で周囲の壁や弾薬箱、あるいは床に不用意に触れれば、体温と皮脂の痕跡が残る。金属面に触れた場合、熟練の兵士なら手の平の形でついた微細な脂の痕跡を懐中電灯で確認できる。
だから長谷部は、腕を体の正面に浮かせたまま、何にも触れていなかった。
その姿勢で、完全静止。
将校の眼が、わずかに細くなった。
まずい、と長谷部は思った。感情ではなく、状況評価として。将校の直感が「そこに何かある」という段階から「そこに誰かいる」という段階へ、今まさに移行しようとしている。その境界線に、今立っている。
トリガーを引くな。動くな。息をするな。
長谷部の大脳皮質が命令し、小脳が全身の筋肉に伝達し、身体が服従する。
そのときだった。
将校の腰の無線機が、鋭い電子音とともに割れた。
「——第三分隊より将校殿、ドラム缶の収納数を再確認いたしました。欠損は合計十二本。繰り返します、十二本です。搬入記録との照合により、消失が確定——」
報告の声は機械的だったが、その内容は倉庫内の空気を一変させた。
将校の視線が、初めて「長谷部が立つ空間」から外れた。
わずか〇・五秒。しかしそれで十分だった。
長谷部は動いた。
音を殺した、完璧な三歩。靴底のラバーソールを床面に対して水平に滑らせ、かかとから爪先へ体重を移動させる、前世の特殊任務小隊で叩き込まれた無音歩行。防水シートの端が、左手の指先に触れた。
素手の指が、ビニールコーティングされた防水シートの冷たい感触を捉えた瞬間、長谷部は指輪を発動させずにまずシートを〇・一センチだけ持ち上げた。内部の構造を確認するために。
目視できた。
携帯式対戦車ロケット弾の発射筒が、四本。口径八十ミリの無反動砲が、一門。弾薬箱が、三つ。いずれも梱包された状態で積まれている。
長谷部の脳が、高速で重量計算を回した。
対戦車ロケット弾(RPG型)、発射筒込みで一本あたり約七キロ。四本で二十八キロ。無反動砲の砲身単体が約二十キロ、砲架込みで三十五キロ前後。弾薬箱は種別不明だが、標準的な重機関銃用のベルト給弾式で一箱約二十二キロ。三箱で六十六キロ。
合計、発射筒四本+無反動砲+弾薬箱三つで百二十九キロ。
残容量百五十キロに対して、まだ二十一キロの余裕がある。
(弾薬箱の中身次第だが——今は精査している時間はない。優先順位は殺傷能力の高い順だ)
将校が部下に何かを指示している声が、背後から届いた。中国語だった。「ドラム缶の消失経路を洗え。積み上げ方の変化から侵入方向を特定しろ」。有能だ、と長谷部は思った。ドラム缶の積まれ方の微妙な変化から、収納作業時に長谷部が移動した動線を逆算しようとしている。時間的猶予が、さらに縮んだ。
左手を動かした。
防水シートの下に潜り込ませた素手の指が、最初の発射筒の金属肌に触れた瞬間、指輪が静かに発動した。音もなく、光もなく、重量約七キロの発射筒が亜空間へと吸い込まれた。棚の上の物体が消えるときのような、物理的な不在感だけが残る。
二本目。三本目。四本目。
いずれも無音。二十八キロが、亜空間に消えた。
問題は次だった。
無反動砲の砲身は、長さ約一・五メートル。防水シートの下で横倒しに収められているが、その端が弾薬箱の側面に触れており、持ち上げる際にわずかでも弾薬箱が動けば金属同士の接触音が生まれる。
長谷部は三秒かけて砲身の接触点を素手の指で確認し、弾薬箱との干渉を避けるルートを触覚だけで把握した。
持ち上げる。〇・二センチ。〇・五センチ。
弾薬箱が微動だにしない。
砲身が左手の平に乗った瞬間、指輪が飲み込んだ。残り約九十五キロ。
弾薬箱の一つ目。表面のラベルを素手の指で触れながら確認する——キリル文字。ロシア製の弾薬を中国軍が横流しした可能性が高い。品番から判断するに、十四・五ミリ口径の重機関銃用弾薬だ。一箱約二十二キロ。指輪が吸い込む。
二箱目。同様に消えた。三箱目——
「将校殿」
別の兵士の声が、倉庫の右壁側から上がった。中国語。長谷部の脳が瞬時に翻訳する。
「防水シートの配置が変わっています。端の折り目の位置が、先ほどの確認時と約二センチずれている」
長谷部の左手が止まった。
将校の足音が、こちらへ向かってくる。
三箱目を収納するか、退くか。
長谷部は〇・三秒で判断した。
収納する。
将校の足音が七メートル先から六メートルへ縮まる間に、素手の指が三箱目の弾薬箱の金属角を掴んだ。指輪が発動し、二十二キロが亜空間へ消えた。残容量は約五十一キロ。防水シートの端を、触れる前とほぼ同じ折り目の角度に戻す——完全には無理だ。二センチのズレはすでに看破されている。ならば今さら取り繕うより、次の行動に全リソースを回す。
長谷部は防水シートの下から素手の左手を引き抜き、床に対して水平に浮かせた。
将校が、防水シートの前に立った。
背中で気配を感じる。長谷部との距離、約一・二メートル。手を伸ばせば届く。
将校は屈んだ。防水シートの端を、手袋をした手で持ち上げた。
沈黙。
「……無反動砲が、ない」
呟きではなかった。確認の声だった。感情を削ぎ落とした、事実の読み上げ。しかしその平坦さの底に、長谷部は微かな——本当に微かな——動揺の気配を聞き取った。有能な指揮官ほど、想定外の事態に直面したとき、感情を押し殺すことに全力を注ぐ。その抑制の緊張が、声の質に滲む。
将校が立ち上がった。
「倉庫を封鎖しろ。犬の到着を待て」
命令は簡潔だった。無駄な言葉が一つもない。長谷部は脳裏でタイムラインを更新した。軍用犬の到着まで、潜入開始から最短四分未満と見積もっていたが、すでに潜入から四十一分以上が経過している。つまり犬はもう——
遠吠えが、聞こえた。
倉庫の外壁を隔てた先、港湾施設の舗装路を駆ける複数の爪音が、コンクリートを叩いている。一頭ではない。二頭、あるいは三頭。ハンドラーの靴底が、小走りでそれに続く。
長谷部の全身の皮膚が、粟立った。
恐怖ではない。身体が戦闘モードへ移行するときの、古い信号だ。
(体臭が消せない。マントは無意味になる。犬が倉庫に入った瞬間、俺の位置は秒単位で特定される)
出口までの経路を脳内で再構成した。正面扉——将校と兵士一名が近くにいる、論外。左壁——兵士が張り付いている。右壁——兵士がいるが、防水シートの陰から右壁の兵士までは約四メートルの空間がある。天井の換気口は右壁の上部、床面から約四・五メートルの高さ。
換気口までの経路は——右壁沿いに移動し、積まれた弾薬箱の残骸と空のパレットを足場にして垂直に登る。兵士との距離が四メートルを切る瞬間がある。無音でそれをやり切れるかどうか。
犬の爪音が、倉庫の正面扉の外まで来た。
ハンドラーが扉の取っ手に手をかける音が、鉄を通して伝わってきた。
長谷部は動いた。
右壁へ向けて、無音の三歩。靴底を床に吸い付けるように、体重の移動を限界まで緩慢にコントロールする。兵士の背中まで四・五メートル。兵士は将校の方を向いており、右壁に沿った空間には注意を向けていない。
正面扉が開いた。
犬の体臭と、外気の湿った潮風が一緒に流れ込んだ。
最初の一頭が倉庫へ踏み込んだ瞬間、その鼻腔が空気を嗅いだ。シェパード系の大型犬で、訓練された軍用犬特有の、感情を廃した集中の目をしていた。首輪にはLEDの赤い光が点滅している。
犬の頭が、ゆっくりと長谷部の方向へ向いた。
まだ気づいていない。しかし鼻が、空気の流れの中に異物を捉えつつある。長谷部は右壁沿いのパレットの陰へ滑り込みながら、同時に脳内で計算した。犬が吠えるまで、あと十秒もない。
(重力磁場)
異能を使う条件を確認する。限界半径二十メートル、出力は五十キロの物体を二、三度ずらす程度。倉庫内の現在の配置——換気口の真下に、空のドラム缶が二本積まれている。重量は空缶で一本あたり約十六キロ、二本で三十二キロ。
ずらせる。
長谷部は異能を発動させた。
音もなく、ドラム缶の二本が、換気口の真下からわずかに三度、倉庫の左壁側へ向けてずれた。金属の底面がコンクリートの床を引っ掻く、低い摩擦音が生まれた。
全員の視線が、そちらへ飛んだ。
犬も反応した。音刺激に対して訓練された反射で、頭部が左壁へ向く。ハンドラーが「サーチ」と短く命令し、犬が左壁方向へ駆け出した。
長谷部はその二秒間で、パレットの上に左足を乗せ、次いで右足を積み上げられた弾薬箱の残骸の縁に掛け、垂直の壁面へ指先を這わせながら体を持ち上げた。換気口の格子まで、あと一メートル。
兵士が振り返った。
長谷部の方向ではない。ドラム缶が動いた方向へ、本能的に体を向けただけだ。しかしその視線の端に、壁面を登る「空気の歪み」が引っかかりかけた——長谷部はその瞬間、換気口の格子に素手の左指を差し込んだ。
格子が、内側から外れた。建物の経年劣化で、固定ネジが二本のうち一本しか機能していなかった。前世の潜入任務でも、港湾施設の換気設備はほぼ例外なくメンテナンスが後回しになることを、長谷部は経験則として知っていた。
体を換気口へ押し込む。肩幅ぎりぎりの金属ダクトが、全身を飲み込んだ。
その〇・五秒後、軍用犬が吠えた。
一頭目が、長谷部の体臭が最も濃く残る換気口の真下へ向かって猛然と跳躍し、届かない高さに向けて吠え続けた。二頭目が合流し、倉庫内に犬の声が反響した。将校が何かを叫んでいる。中国語で「屋根だ、外を封鎖しろ」。
正確な判断だった。しかし遅い、と長谷部は思った。
換気ダクトの内部は、金属の冷気と機械油の臭いが充満していた。四つん這いで進む。膝と肘でダクトの底面を這う際、金属音が出ないよう体重を極限まで分散させる。右手はグローブ、左手は素手のまま。左手の平がダクトの冷たい金属面に触れるたびに、皮脂の痕跡が残ることは分かっていた。しかし今は止まれない。犬の嗅覚がダクト内の体臭を追い始めるまで、長谷部が持つ時間は一分もないはずだった。
ダクトが、直角に折れた。
方角は北東。港湾施設の外壁へ向かっている。長谷部は折れ曲がりの角で一瞬止まり、耳を澄ませた。外——舗装路を走る複数の足音。無線の通信音が断片的に届く。封鎖が始まっている。将校の「屋根を封鎖しろ」という命令が、すでに実行されつつある。
ダクトの出口は、どこだ。
事前の衛星画像の記憶を引き出す。倉庫Cの換気系統は、建物の北東側の外壁に排気口を持つはずだ。高さは地上から約三・五メートル。その真下は、施設の外周フェンスとの間の狭い空隙——幅約八十センチの、舗装されていない砂利の通路。
外周フェンスの向こうは、暗渠が走っている。
長谷部はダクトを進んだ。膝が金属を叩かないよう、爪先と手の平だけで体を送り出す。腹の底で、残容量の数字を反芻した。約五十一キロ。まだ余裕はある。しかし今は収納より離脱を優先する局面だ。
排気口のルーバーが、前方に見えた。
外光が入り込んでいる。夜間の施設照明の白い光が、金属のスリットを通して筋状に差し込んでいた。長谷部は排気口の手前三十センチで止まり、外の音を聞いた。
足音。
一名。排気口の真下よりやや右、約三メートルの位置。移動しながら無線で報告している。「北東外壁、異常なし」。
(異常なし、か)
長谷部はルーバーに左手の指を掛けた。外開き式。蝶番の錆の具合を指先で確認する。力を入れれば開くが、金属音が出る。
兵士が通り過ぎるのを待つか、異能で注意を逸らすか。
兵士の足音が、右から左へ移動している。あと四秒で、排気口の正面から視線が外れる位置へ移動する計算だ。
長谷部は四秒数えた。
ルーバーを押した。
錆びた蝶番が低い音を立てたが、兵士の靴底が砂利を踏む音にほぼ掻き消された。外気が顔に当たった。潮の匂いと、夜の湿気。長谷部は両腕で体を支えながら、排気口から足から先に抜け出した。三・五メートルの高さから、砂利の通路へ着地する。膝を深く折り、衝撃を太腿と臀部で吸収する。砂利が数粒、足音とも呼べない微かな音を立てた。
長谷部は着地と同時に、外周フェンスへ向けて二歩踏み込んだ。
フェンスの下部に、事前に確認していた隙間がある。地盤沈下で生じた、高さ約四十センチの空隙。マントを展開したまま、体を横に倒して滑り込む。フェンスの鉄線が背中のマントの素材を掠めたが、破れなかった。
暗渠の縁に出た。
幅約二メートルのコンクリート製の排水路。水深は十センチ程度で、腐臭と泥の臭いが濃い。長谷部は暗渠の中へ降り、膝下まで泥水に浸かりながら、施設から遠ざかる方向へ歩き始めた。
背後で、犬の声が続いていた。
しかし遠くなっていた。
倉庫Cの内部と、施設の屋根と、外周フェンスの周囲を、兵士と犬が今も探索しているはずだ。暗渠の中は、地表と違って体臭の拡散方向が変わる。流水が臭気を希釈し、コンクリートの壁が嗅覚の追跡を攪乱する。軍用犬であっても、流水路での追跡は精度が落ちる。
長谷部は暗渠を三百メートル歩いた。
施設の照明が届かなくなったところで立ち止まり、マントを収納した。光学迷彩の展開を解除すると、夜の冷気が素肌に直接当たった。左手が、暗渠の泥水で汚れていた。長谷部はその手を水面に沈め、三度すすいだ。皮脂の痕跡を、物理的に薄める。完全には消えないが、これ以上できることはない。
グローブを右手から外し、左手にはめた。
ようやく、両手が同じ状態になった。
林道の入口まで、ここから徒歩で約十一分。長谷部は暗渠を抜け、護岸の斜面を這い登り、防風林の縁へ出た。事前に把握していた監視カメラの死角を縫いながら、舗装されていない林道へ踏み込む。
林道の終点に、ハイエースが停めてあった。
泥濘を避けながら枯れ枝を踏みしめ、長谷部は車体の側面に触れた。施錠を解除し、後部ドアを開けて滑り込む。ドアを閉めた瞬間、周囲の音が遮断された。
静寂。
長谷部はシートに背を預け、天井を見上げた。
呼吸が、ゆっくりと平常に戻っていく。心拍が、戦闘モードから引き戻されていく。その過程を、長谷部は感情なく観察した。自分の身体が正常に機能していることの確認作業として。
指輪の中に、今夜収納したものを整理した。
燃料ドラム缶十二本。携帯式対戦車ロケット弾発射筒四本。無反動砲砲身一門。重機関銃用弾薬箱三つ。
敵非正規部隊の兵站から、これだけの重火器と燃料が消えた。
前世の記憶にある、あの港湾からの急襲。周辺集落への掃討。積み上げられた遺体の数。それらが起点としていた補給線の一端を、今夜、長谷部は静かに断ち切った。将校がいかに有能であっても、存在しない弾薬で砲は撃てない。存在しない燃料で車両は動かない。
満足感、とは少し違った。
正確には——計算が正しかったことへの、冷徹な確認だ。
長谷部はエンジンをかけた。ヘッドライトは点けない。夜目の利く目で林道の轍を辿り、舗装路へ出る。要塞まで、ここから約四十分。
バックミラーの中で、港湾施設の照明が遠ざかっていく。
敵は今頃、不可視の侵入者が残した痕跡を必死に分析しているはずだ。将校の頭脳が、この夜起きたことの意味を組み立てようとしているはずだ。しかしどれだけ有能であっても、「亜空間収納」という概念には辿り着けない。辿り着けたとしても、証明できない。
長谷部は前を向いたまま、アクセルを踏んだ。
夜の林道が、ヘッドライトなしの暗闇の中へ続いていた。




