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第10話:ゼロ・デイ(終わりの始まり)

金曜日の午前九時十七分。

長谷部雄介は司令室のパイプ椅子に腰を落とし、ノートパソコンの画面を眺めていた。

台湾製のHEPAフィルターを積んだトラックが、あと三時間で田辺港に着く。丸谷工務店の後藤が据付工事のチームを待機させており、日が沈む前には最低六十台の陽圧換気ユニットが稼働状態に入る見通しだった。予定通りだ。予定通りである、という事実が、長谷部の胸の奥で静かに、しかし確実に何かを締め上げていた。

外の空気はまだ、何も知らない。

プレハブの薄い壁越しに、後藤の太い声が飛んでいる。工具の金属音。砂利を踏む足音。コンクリートの養生が完了していない擁壁の、あの白くくすんだ表面に、職人の一人が何気なく手のひらを当てているのが窓から見えた。未硬化の壁。Xデーまで、あと三十七時間を切っている。

間に合う、と長谷部は判断している。感情的な期待ではなく、計算上の結論として。

ただし、半日の余白しかない。

昨夜のNHKのニュースは丁寧に録画してある。アナウンサーが「紀伊半島沖における魚類の大量死」を淡々と読み上げる映像を、長谷部は三回再生した。赤潮。水温の急変。酸欠。テロップに並ぶ言葉は、すべて既存の語彙で塗り固められている。社会はまだ眠っている。眠ったまま、静かに、取り返しのつかない場所へ向かっている。

長谷部はカップに注いだブラックコーヒーを一口飲んだ。熱い。それだけを確認して、画面に目を戻す。

フィッシャーからの暗号メッセージは、今朝の六時台に届いていた。

 Third milestone cleared. Final transfer ETA advanced. All units Taiwan cleared customs. Marine analytics report attached.

報告書の要旨は、簡潔だった。西太平洋表層の溶存酸素濃度が過去七十二時間で有意な変動を示しており、震源地推定座標から同心円状に広がるメタン気泡の衛星データとの相関が高い、とある。フィッシャーがマイアミでアサインした環境リスクアナリストは仕事が早い。長谷部はその一点だけを評価して、報告書のウィンドウを閉じた。

数字はすでに知っている。自分の身体が、知っている。

前世でも、この空気の質感を覚えている。何かが始まる直前の、世界が息を止めるような凪。パンデミックの前夜は、いつもこういう匂いがした。

「長谷部さん」

後藤の声が戸口から飛んできた。長谷部はパソコンから目を上げる。

「遠隔ゲートの最終系統、確認しました。昨日の試験通電から問題なし。リモコン側の電池も新品に替えてあります」

「有線の司令室側は」

「切り替えスイッチの動作も問題ないです。停電後の自動切り替えも、昨日の検証通り三秒以内。ただ」

後藤が言葉を切った。日焼けた顔の奥で、職人特有の迷いが動く。

「コンクリートの養生、やっぱり気になります。最終セクション、昨日の昼に打設して……今日の夜でやっと三十六時間。規定の七十二には全然足りない」

「分かっている」

「南側の進入路ゲート、もし大型車両が突っ込んできたら……」

「分かっている」長谷部は同じ温度で繰り返した。「後藤さん、あなたはやるべき仕事をやった。あとは俺の領域だ」

後藤は何か言いかけて、口を閉じた。この男は賢い、と長谷部は思う。聞いてはいけないことの輪郭を、職人の勘で嗅ぎ取れる人間だ。だから前世のリストに入っている。

「フィルターのトラックが着いたら、すぐに知らせてくれ」

「了解です」

足音が遠ざかる。長谷部はコーヒーカップを置いて、左手の薬指に嵌まった指輪に目を落とした。

フリマサイトの出品ページならば、五百円から始まりそうな安物に見える。表面に細かな傷が入った、くすんだシルバーのリング。しかし長谷部が意識を集中させると、指先の内側で微かな抵抗感が生まれる。亜空間の「口」が、わずかに応答する感触。

百名が一年間生き延びるための物資が、ここに眠っている。

米三十六トン。缶詰、乾燥豆、塩、油、砂糖。抗生物質、消毒液、鎮痛剤、高度な医薬品。浄水フィルター、燃料、種子、工具。そして重火器の数々。アサルトライフルから始まり、対物狙撃銃、携帯式対装甲ミサイル、軽機関銃。前世で軍の備蓄から学んだ、生存に必要なものの最大公倍数。

そして、二十三個の結晶。

指輪の中で時間が止まった状態で、青白い明滅を繰り返しているはずの、あの光。未加工のまま素手で触れれば瘴気が浸透し、そのまま服用すれば組織が壊死する。使えない宝の山だ、今は。

Kawasaki, Y.

大阪大学大学院。来週末の東京学会。吹田キャンパスの研究室。

パンデミックが起きた後、崩壊する前に、確保しなければならない。

長谷部は優先順位リストを脳内で更新した。これは朝昼晩のルーティンではなく、変数が発生するたびに行う随時更新だ。第一は今日の陽圧換気システムの稼働確認。第二は丸谷工務店の職人たちの、明日昼前の精算と解散。第三は……。

スマートフォンが振動した。

画面を見る。国内の環境系掲示板を監視するために設定したアラートだ。

長谷部は表示されたURLを開いた。

スレッドのタイトルは「【速報】和歌山・三重沿岸、海岸に大量の魚が打ち上げ」。投稿時刻は十分前。スレッド内の書き込みはすでに四百を超えていた。添付された画像の一枚に、長谷部の目が止まる。

砂浜に横たわるブリの群れ。腹が白く変色し、鰓が黒ずんでいる。そして鰭が、青紫に染まっていた。

後藤が昨日見せた、串本の写真と同じだ。ただし範囲が広がっている。紀伊半島の南端から、東側の三重県沿岸まで。同心円が、確実に拡張している。

長谷部はスマートフォンを伏せ、天井を見上げた。

応急処置された蛍光灯の配線が、今日も安定している。今日も、だ。今日限りかもしれない安定だと、昨日の朝に刻み込んだ。

三十七時間。

いや、もしかすると、もっと少ないかもしれない。

前世の記憶の中で、Xデーの始まりは「夜明け前」だった。しかしその前世の記憶自体が、今世の実測データによって半日以上前倒しにされていることを、長谷部はすでに知っている。海洋変異の前駆症状はXデーの七十二時間前から進行していた。公式報道はXデーの六十一時間前に始まった。そしてその報道自体、長谷部の計算より半日早かった。

等差数列ではない。加速している。

「計画の半分は機能しない」

長谷部は声に出さず、唇だけを動かした。前世から染み込んだ、自分への戒めだ。だから保険を重ねる。だから余白を作る。しかし今、その余白が、静かに削れている。

パソコンの画面に、気象庁の海水温マップを呼び出した。昨日の午前中に確認したデータから更新されている。紀伊半島南南西の海域。震源地座標を中心とした表層水温の異常上昇は、昨日の時点で〇・三度だった。

今朝のデータは、〇・四七度を示していた。

長谷部は数秒、画面を見つめた。

それから静かに、深く、息を吐いた。

外では後藤の声が続いている。工具の音。砂利の音。何も知らない職人たちが、何も知らないまま、世界の終わりを完璧に準備している。

「間に合う」

今度は声に出して言った。

自分を鼓舞するためではない。計算の結論として。フィルターは今日の午後に稼働する。燃料は九十七パーセント充填されている。ゲートは動く。壁は立っている、未硬化でも立っている。指輪の中に、百名分の生存資材がある。

間に合う。

ただし、計画外の変数が、あと一つでも重なれば——。

スマートフォンが、もう一度振動した。

今度はフィッシャーからではない。監視アラートの第二報だ。

画面には、NHKのウェブサイトのURL。速報のバナーが表示されている。

長谷部はリンクを開いた。

「紀伊半島沖の異常、広域に拡大——専門家は広域赤潮の可能性を示唆、海上保安庁が調査中」

長谷部は読んだ。最後の一行まで読んで、画面を閉じた。

専門家はまだ、赤潮と言っている。

あと何時間、その言葉が持つだろうか。

長谷部は立ち上がり、プレハブの扉を開けた。朝の山の空気が、鼻腔に入ってくる。針葉樹の匂い。土の湿気。そして——ほんの微かに、表現できない何かの気配。

前世でも、この感覚を知っている。

戦場に足を踏み入れる直前の、皮膚の下で何かが動き始めるあの感触。世界がまだ平和な振りをしていながら、すでに別のものへ変質し始めている、その境界線に立つ感覚。

擁壁の白いコンクリートが、朝の光を受けて鈍く光っていた。

高さ四メートル。未硬化。けれど立っている。

長谷部は右手で指輪に触れた。確認のためではなく、習慣として。

世界の終わりまで、あと三十七時間を切っていた。


台湾製のトラックが山道を登ってきたのは、正午を十三分過ぎた頃だった。

十トン積みの平ボディが二台。アークブリッジ名義の納品書を持った運送業者が、後藤の指示で荷台のラッシングベルトを外し始める。白い段ボール箱の列が、陽光の下に姿を現した。一台につき三十台。計六十台の陽圧換気ユニット。長谷部は荷降ろしの列を少し離れた場所から眺め、ナンバーを黙読した。発注した型番と合っている。

「開梱検品は後藤さんに任せる。不良品が出たら俺に直接知らせてくれ。据付は南棟から順番に」

「了解です。今日中には最低でも四十台は動かします」

後藤の返答は短く、正確だった。長谷部は頷いて、その場を離れた。

指示を出した後に長居する必要はない。有能な人間に仕事を渡したら、自分は次の問題を見る。これも前世で身体に刻んだ習慣の一つだ。戦場で指揮官が現場に張り付きすぎると、全体が見えなくなる。

長谷部は司令室へ戻り、ノートパソコンを開いた。

午後一時台の国内SNSのトレンドを確認する。「紀伊半島」「魚」「海」——昨日から上昇していたワードが、今日の昼前後から急速に拡散している。個人の投稿が増えている。行政の公式アカウントはまだ「調査中」の一言しか出していない。テレビのワイドショーは昼の時間帯に取り上げ始めており、コメンテーターが赤潮の可能性について語る映像がSNSに切り取られて流れていた。

社会の体温が、ゆっくりと上がっている。

しかしそれはまだ、平熱の延長線上にある。パニックではない。好奇心と不安が混在した、いつもの集合的な反応だ。人間は自分の理解の範疇にある言葉が与えられれば、どれほど異常な現象でも既存の枠に当てはめて安心する。赤潮。酸欠。水温変化。その言葉が機能している間は、社会は動かない。

あと何時間持つか。

長谷部は掲示板の最新スレッドを流し読みした。三重県の志摩半島でも海岸への打ち上げが報告されている。写真が増えている。黒ずんだ鰓、青紫の鰭、白く濁った腹——同じパターンが、海岸線に沿って北上している。

指が止まった。

スクロールした先の画像に、長谷部の視線が張り付いた。

投稿者は和歌山在住と書いている。海岸で拾ったという写真が三枚。一枚目は見慣れたカレイの死骸。二枚目は群れで打ち上げられたイワシ。そして三枚目——。

深海魚だ。

体長七十センチほどのムネエソ科の魚。通常は水深三百メートル以浅には上がってこない種だ。それが砂浜に横たわっている。鰭の一部が、生物学的にあり得ない方向へ折れ曲がっている。

長谷部は三秒、画像を見た。

それだけで十分だった。

深海の変異が、表層まで押し上げられている。鉛直方向の拡散が始まっている。海流に乗った水平方向だけではない。上下方向にも、瘴気の浸透が加速している。

半日の前倒しでは、済まないかもしれない。

長谷部はパソコンを閉じ、立ち上がった。

プレハブの扉を開け、敷地内を早足で横断する。南棟の据付作業を横目で確認しながら、地下燃料タンク室へ降りる階段を踏んだ。冷えた空気と軽油の匂いが鼻を刺す。計器を一瞥する。充填率は九十七パーセント。ディーゼル発電機の二基はスタンバイ状態で安定している。

次に北棟の物資倉庫を確認した。アウター用の備蓄——アサルトライフルの箱、弾薬、防護具、レーションの積み上げ。PMCレベルの、見せかけの武装。長谷部はその配置を目で確認だけして、踵を返した。

指輪の中身には、触れない。今日は、まだ。

午後三時過ぎ、後藤から報告が入った。

「四十二台、稼働確認しました。残り十八台は夕方までに終わります」

「気密テストは」

「二棟ずつ順番にやってます。今のところ陽圧の維持、問題ないです」

「続けてくれ」

長谷部は通話を切り、空を見上げた。

山の稜線の向こうに、薄い雲が広がり始めている。気圧の変化ではない。空気の質が、わずかに変わっている。前世の戦場で培われた皮膚感覚が、静かに警報を鳴らしている。

午後五時十八分。

後藤が全六十台の稼働確認を報告した。気密テスト全棟クリア。陽圧維持の数値は基準を上回っている。

「お疲れ様でした」と長谷部は言った。「明日の昼前に、全額精算する。皆さんによろしく伝えてください」

後藤は少し間を置いた。

「……長谷部さん」

「何ですか」

「なんでもないです」

職人は短く答えて、現場へ戻った。

聞いてはいけないことの輪郭を、また嗅ぎ取ったのだろう。それでいい。明日の昼前に全員を下山させられれば、問題はない。

問題はない、と長谷部は自分に言い聞かせた。

計算の上では。

夜が来た。

山の闇は深い。空の星が異様なほど鮮明に見える。長谷部は司令室の電気を落とし、監視モニターの前に座った。敷地内の四か所に設置した暗視カメラの映像が、画面を四分割している。外壁。ゲート。キルゾーン。北側の斜面。

静かだ。

虫の声すら、今夜は少ない。

長谷部はスマートフォンを手に取り、フィッシャーへ短い暗号メッセージを送った。

Deep-sea species confirmed in shallow beach deposits. Vertical dispersion accelerating. Timeline revised downward. Confirm standby.

返信は十七分後に届いた。

Understood. Analyst concurs. Revised ETA: minus 6-12 hours from original. All assets on standby. Good luck.

長谷部はメッセージを三回読んだ。

マイナス六時間から十二時間。フィッシャーのアナリストも、同じ結論に達している。つまり、最悪のケースでは日付が変わる前後——今夜の深夜から明日の未明にかけて、Xデーが来る可能性がある。

丸谷工務店の職人たちは今夜も敷地内に宿泊している。明日の昼前に解散させる予定だった。しかしもし今夜、あるいは明日の夜明け前に世界が変わるなら——職人たちはまだ、ここにいる。

長谷部は目を閉じた。

前世の、ある夜を思い出した。

Xデーの夜、長谷部はまだ一般市民だった。パンデミックが始まったことすら知らずに眠っていた。翌朝、ニュースの速報音で目が覚めた時、すでに大阪では死者が出ていた。東京では地下鉄の駅構内でパニックが起きていた。感染から発症まで、数時間もなかった。

今世では、その速報音が鳴る前に、長谷部は起きている。

しかし職人たちは、今夜も眠る。

長谷部は目を開き、計算を始めた。

もし今夜Xデーが来たとして——職人たちは敷地内にいる。彼らは要塞の構造を知っている。ゲートの操作を知っている。HEPAフィルターの存在を知っている。陽圧換気の仕組みを知っている。

しかし彼らは外に出れば死ぬ。瘴気に耐性のない人間は、例外なく。

長谷部は三秒で決断した。

最悪の場合、職人たちを要塞内に収容する。情報漏洩のリスクより、目の前で人が死ぬリスクを取る——ではない。それは感情の論理だ。

正確には、こうだ。職人たちが敷地内でパニックを起こした場合、ゲートや電力系統に対して予測不能な干渉が生じる。それは防衛上のリスクだ。彼らを統制下に置くことが、要塞の安全に直結する。だから収容する。そういう計算だ。

感情ではない。

長谷部はそう自分に言い聞かせながら、モニターの画面を見つめた。四分割の映像の中で、何も動いていない。外壁は立っている。ゲートは閉じている。

午後十一時四十分。

異変は、音から来た。

最初は遠い犬の声だと思った。しかし犬にしては、数が多い。そして連続している。途切れない。複数の方向から、重なって、山の斜面を伝って下りてくる。

長谷部は立ち上がり、モニターの音量を上げた。

北側のカメラが、稜線の向こうに何かを捉えた。

赤外線映像の中で、白い光点が揺れている。一つではない。十、二十——いや、もっと多い。稜線の上に現れては増えていく白い点が、斜面を下り始めていた。

長谷部は三秒で状況を処理した。

人間だ。生きている人間ではない。

前世で何千回と見た動きだ。個体としての意思を持たず、群れとして流れてくる動き。傾斜を無視して、転びながら起き上がり、また進む、あの動き。

北側の斜面は傾斜三十度、登攀困難な急坂として防衛設計に組み込んでいた。しかしそれは「生きた人間が攻めてくる想定」だ。痛覚のないLevel 1のゾンビが傾斜を意に介さず落ちるように下りてくる場合、その前提は——。

長谷部は即座に動いた。

プレハブを出て、後藤の仮眠室の扉を叩く。三回、強く。

「後藤さん、起きてください」

「……なんですか」扉越しに寝ぼけた声。

「全員を起こしてください。今すぐ。メインの建屋へ集合。走ってください」

短い沈黙の後、後藤の声が変わった。

「——分かりました」

職人の勘だ、と長谷部は思った。声の質だけで、これが冗談ではないと理解した。

長谷部は司令室へ戻り、ゲートの有線操作パネルの前に立った。

南側のゲートは閉じている。北側の斜面からの接近——外壁で防げるか。設計上は防げるはずだ。しかしコンクリートは未硬化だ。養生三十九時間。規定の七十二には届いていない。

Level 1の個体が集積すれば、荷重がかかる。どれほどの荷重に耐えられるか。

計算の答えが出る前に、北側カメラの光点の数が、五十を超えた。

長谷部は左手の指輪に触れた。亜空間の「口」が、応答する。

まだだ、と思った。

まだ、開ける必要はない。

外壁が持てば、今夜は持つ。持たなければ——その時に考える。計画の半分は機能しない。だから重層的な保険がある。指輪の中に、全部ある。

職人たちが半覚醒のまま建屋へ集まってくる音がした。誰かが懐中電灯を持っている。光が揺れている。

長谷部は振り返らず、モニターを見たまま口を開いた。

「全員いますか」

後藤が人数を確認する声。七名、全員いる。

「今から説明します」と長谷部は言った。「落ち着いて聞いてください」

モニターの中で、白い光点が外壁の北側に到達した。

世界の終わりが、音を立てて始まった。

低い、くぐもった圧力が、壁の向こうから伝わってくる。コンクリートの振動ではない。まだ。しかし確かな質量が、外壁の表面を押している。

長谷部は一度だけ深く息を吸い、吐いた。

前世で死なせた二十七名の顔が、一瞬だけ脳裏を横切った。

今世では、誰も死なせない。

感情ではない。それも、計算だ。

「聞いてください」と長谷部は繰り返した。「皆さんが今まで知っていた世界は、今夜終わりました」


「――砂時計は、ひっくり返った。元少佐の二度目の生存戦略が始まります」



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