第54話 回復の糸口
城に戻っても、団長の意識が回復したという知らせは届かなかった。
私も、まだ回復中だからと宿舎ではなく療養室で過ごしていた。
出された食べ物も少しずつ食べられるようになり、視界も思考もだんだんとはっきりしてきた。
あの時、何が起きたのかはまだ記憶が曖昧だけど、団長が昏睡しているのは、私を助けようとしたからだ。
私が禁術魔法に触れてしまって、さらに対抗魔法発動に失敗して、それで魔力暴走が起きた。
それを止めようとして——。
まだ、意識が戻らない。
治癒魔法士や医師団がかかりきりになっても、回復しない。
昏睡したままもう二日。
どんな状態になってるのかもわからない。
不安でたまらない。
もし。
もしこのまま、あの人が。
考えたくない未来が胸を締め付ける。
——会いたい。
涙が頬をつたい、手の甲に落ちた。
その時、療養室の扉がノックされた。
「どうぞ」
涙を拭ってベッドに座り直すと、入ってきたのは研究部門のアルベルト部長だった。
長い顎鬚を触りながらゆっくり入ってくる。
「具合はどうじゃ」
「あ、はい。だいぶ良くなりました。ご心配おかけしてすいません」
「うむ。良くなってきたなら何よりじゃ」
「あの、私どうなってたんでしょう」
部長は丸椅子を引っ張ってきて腰掛けた。
「わしは見ておらんからの。聞いた話じゃが」
窓の方を見ていた視線がこちらを向く。
「ヴァレリウスを狙った禁術魔法に、おまえさんが触れてしもうた。それでドッカン!じゃと」
「ドッカン……」
「クレシアよ、おまえさんの魔力がヴァレリウスに匹敵するものだった、ということじゃな。それで大地の魔力反転暴走が起きて、それを止めるために周りの魔法士が結界を張って、暴走した反転魔力をヴァレリウスが中和した。そういうことじゃ」
「じゃあ、団長は今……」
「結界を解くのに大きな魔力を使ったあとだったというからの。魔力だけでは足りずに生命力まで使うてしもうたようじゃ。今は、僅かに残った生命力で命を繋いどる」
生命力が、わずか。
「それは、回復しますよね?ゆっくり休めば戻ってくるんですよね?」
「うむ……そこが問題じゃ。今、奴の体は残った生命力を使うだけ。使い切ったらそこで終いじゃ。循環と再生が巡っておらん。これは、治癒魔法でも医療でもどうにもならんことでな」
「え…………」
「魔力でも生命力でも、一定の量がないと再生の循環が始まらん。その一定量に足りておらんのじゃ」
つまり、このまま弱って、命が消えてしまう、っていうこと?
……うそだ。
あの強い人が、そんな簡単に。
恐怖で喉が震える。
声が出ない。
嘘だ、あの人がいなくなるなんて。
そんなの、嫌だ。
目の前が滲む。
「何度か魔力の注入を試みたそうじゃが、跳ね返されてしもうたらしい。元々の魔力が強い人間ほど、こういう時は厄介じゃ。なかなか他人の魔力を受け入れられん」
声が震える。
「もう、何もできないって、ただ、見てるだけって、こと、ですか……」
部長は真剣な目でじっと見つめてくる。
「クレシア。ヴァレリウスを助けたいか」
「……もちろん、です」
「リスクはあるが、おまえさんならもしかして、と思うての。それで来た」
「……え?」
「おまえさんの魔力なら受け入れるかもしれん。森で長く一緒におった。あやつが必死で抱き抱えて守ろうとした。そういう相手の魔力なら、反発せずに流し込めるかもと」
「私の、……魔力を?」
「まあ、正直難しい。強く反発されたら、それで生命力を使い果たして事切れるかもしれん。だが何もせずに見守っておってもこのままでは……同じことじゃ」
「……可能性があるなら。少しでも、助けられる可能性があるなら、やらせてください!」




