第18話 生活魔法がある暮らし
あの日以来、私は家の中で使う生活魔法を順番に解禁された。
最初の火魔法は今も制御杖を使って使うようにしているけど、他はそのまま使えるようになってきた。
水を空中にためて少しずつ流すとか、洗濯物に風を当ててふわっと乾燥させるとか、貯蔵用の食料壺を穴を掘って埋め込むとか、そういう村のみんなが普通に使っていた魔法だ。
冬の井戸から汲んでくる水はやはり冷たい。
それをゆっくりと魔力を注いで温める。
これは火魔法を使うのではなくて、水自体を動かして温度を上げる魔法になる。
そういったことを師匠は一つずつ丁寧に教えてくれた。
何をするにも、魔力が大放出になりがちな私にとって、細かい制御は何をするにも必須だった。
大鍋から小さなビンに水をこぼさず入れるような。
生活魔法はどれも、そんな神経を使う作業だった。
いろんな大きさの石で散々練習したことの意味が、ようやく納得できる。
あそこまでやらないと、私には生活魔法が使えなかったんだ。
小さな釘を打つのに大斧を持ってくるしかできない私。
不器用の極み。
でもそれが制御できるところまで、師匠が連れてきてくれた。
暖かい水で食器を洗う。
洗った食器を布で拭きあげ、濡れた布に風を当てて乾かす。
ふわふわと揺らすのは風魔法。
そして水気をなくすのは水魔法。
洗濯物を乾かすのには二つを交互に使うと効率がいい。
みんなはこれを無意識にやっている。
私にとっては、とても難しくてすごいことだ。
でもようやく追いついた。
できるようになった。
綺麗に乾いた布巾を畳んで、戸棚に戻す。
その時、なぜか涙が溢れてきた。
(私、生活魔法を普通に使えてる……)
ずっと、生活魔法が使えなかった。
吹き飛ばして、爆発させて、壊した。
でも今は。
涙が頬を伝う。
(ようやく人並みに、生きていけるんだ……)
「どうした」
師匠が驚いて近づいてきた。
慌てて涙を拭く。
「な、なんでもないです!」
「怪我でもしたか」
「本当に、大丈夫です。ただ」
「……」
師匠は黙って私の言葉を待ってくれる。
「生活魔法が、普通に使えるんだなって。そう思って……」
師匠はじっと見ている。
優しい目だ。
どうしてこんなに優しいんだこの人は。
「そうか」
頭にポンと手が乗せられる。
「よかったな」
おっきくてあったかい手が軽く頭を撫でる。
……そんな優しかったら泣くよ?
「ふぇ」
さっき乾かしたばかりの布巾が差し出された。
「うっぅう……ふえぇ~~」
本格的に泣き出した私を、師匠は止めなかった。
鼻水も出てきた。
この布巾は洗い直しだ。
でもいい。
生活魔法が使えるから。
何回洗ったってかまわない。
普通に生きていける。
クレシアの長年の苦しみが、終わった夜だった。




